第44話
ミランちゃん──
藍色の透き通った髪色をしたミランちゃん──
かつて娼館では俺の癒しだったミランちゃん──
ベットの上では自分だけでは無く、俺も気持ち良くさせようと頑張ってくれたミランちゃん──
【絆】を抜けたら、身請けして新しい未来を歩もうと思っていたミランちゃん──
あぁ、久しぶりに見て涙が出そうだ……あの時の俺は本気で好きになっていたからなぁ……。
かつての記憶がフラッシュバックする──
そう、あれはフランが作ったラウンズのハーレムを抱いた時だ。
「あッ、あん──エルクさまぁん♡ 気持ち、良い…です……ミランにしたように──ギュッ、と抱きしめて下さい♡」
「え? ミランちゃんのように?? 何でミランちやの事知ってるの?」
「はい♡ というか──私がミランです♪ 私の計画通り独りぼっちになったら──エルク様を優しく癒やして依存させて私の虜になってもらうつもりでした♡ その為のミランです♡」
「は? えぇ!?」
この時、俺は女性の手段を選ばないヤバさを味わった。
まさか手の平でコロコロされていたとは夢にも思わなかったのだ。
俺の裏の二つ名──『蜃気楼』と同じくミランちゃんは幻として消え去った……。
そして、全員の足腰を立たせないようにする決意をした瞬間だった。
そのアリアがミランちゃんの姿で俺の目の前にいる。
確かに今見ればアリアとミランちゃんは髪色も同じだ。女性というのは髪型と化粧の仕方で印象が変わるのが今ならよくわかる。
あの時の俺はミランちゃんに夢中だったから気付かなかったな……。
というか、こいつ──ミランちゃんの格好して何しに来たんだ?
「この姿ではお久しぶりです♡ 」
「……アリア、何してんの?」
「今はミランですよ? もちろん、エルク様と会いたくて……えいっ♡」
「ちょ、やめてッ!」
アリアは俺に抱きついてくる。
「良いじゃないですか♡ 至近距離とか久しぶりなんですよ?」
甘酸っぱくて良い匂いだな……懐かしい。
あの頃を思い出す……。
それに『慈愛の誓い』でなければ喰われる心配もないし、気が楽だ。
おっと、マイとティナが射殺す視線を俺に向けている。
少し真面目モードになろう。
「俺と会うだけじゃないんだろう? ラウンズが直接動くのは珍しいな。何か問題でも起こったのか?」
「そうですね。最近少し面倒臭い事が起こったみたいなので調査をしに来ました」
「面倒臭い事? ラウンズが動く必要があるのか?」
なんか最近トラブル多くねぇか?
「……緊急連絡でこの街で『石化病』が流行りつつあると報告があったので、真偽を確認しに」
石化病か……それはまた面倒だな。
本当に石化するわけではないが──発病すれば、全身が石のように固くなる病だったはずだ。
まず、手足が動き辛くなり、倦怠感が出る。そして、高熱が出て体力を奪われる。段々と症状が重くなるのが全身に広がり、寝たきりになる頃には──臓器も機能しなくなり、死に至る。
しかも、人から人に感染するのが厄介だ。
流行った村は感染を拡げない為に封鎖され、村ごと焼かれたと聞いた事があるぐらいヤバい。
一応、特効薬はあるにはあるが──
かなり高価な薬だったはずだ。
高価な薬を買えるのは貴族か富裕層の人達だけだ。
真っ先に犠牲になるのはスラムの住人と貧困層の人達。
もし、本当に流行っているのなら──かなり不味い事になる。
ピコンッ
『いやマジでこの街ヤバいぞ? 今さっき調べたら──少しずつ蔓延し始めている。既に抵抗力の弱い人から死んでいっている。それを知ったエルドラン王は明日から王都の住人の出入りを規制するようだな。外部からも人が入らないようにするだろう。冒険者ギルドには薬の材料の採取依頼を出すようだから、冒険者の規制は緩い』
マジかよ……俺達も他人事じゃねぇな。
それに感染してるかもしれない冒険者が街から移動したら不味いだろ……規制の仕方が甘いな……薬の材料の為に他の国は知ったことじゃない感じだな。
アリアの表情からこの情報はまだ知らないのだろう。知っていたら悠長にしている暇はないからな。
つまり、まだ孤児院では確認されていないという事だな。
「アリア──俺達はしばらくこの街でゆっくりする予定だから何かあれば力になろう。どうせ明日から気軽に外には出れないだろうしな」
俺がそう言った瞬間、アリアの目が鋭くなる。
「エルク様──何故、明日から気軽に出れなくなるのですか? 何か知ってるのですか?」
──しまった。
俺も何か手伝える事があれば手伝おうと言っただけなんだが、つい口を滑らせてしまったな……。
どう言うべきかな……──あ、そうだ。あの手で行くか。
「アリアは俺の表の二つ名は知っているだろう?」
「──『先見』──です、ね──はっ!? まさか既に何か心当たりがあるのですか!?」
アリアは羨望の眼差しを向ける。
そして、俺は自信満々に笑う。
マイとティナも「「さすがッ!」」と言っている。
ふっ、俺の予想通り、勝手に勘違いしてくれたようだなッ!
俺の必殺技──『知ったかですが何か?』──だッ!
「まぁな。ただ、確証は無い。だが──仮に『石化病』が蔓延していた場合は街の出入りに規制がかかるのは予想がつくだろ?」
「確かに。ですが何故、明日なんですか?」
さすがに気になるよな〜。だが、既に答えは用意しているッ!
「ふッ──俺の勘だ。俺が何故『先見』と呼ばれたのか──それはなんとなくわかるからだッ!」
ふッ、決まったなッ!
一応嘘じゃねぇから、自信満々だぜッ!
アリア、マイ、ティナも「おぉ〜」と納得してくれている。
そもそも、俺が『先見』って呼ばれたのは──
依頼で役立つ物がたまたま【
今回も授かった『鑑定』が教えてくれただけだ。確証が無いのは俺が調べてないから当然だろう。
2つとも他人には確認のしようが無いッ!
だから全て『勘』の一言で片付けられる。
俺に未来なんか見えねぇよッ!
ピコンッ
『この詐欺師がッ!』
仕方ねぇだろ!? 他に言い方なんかねぇしッ!
「明日が楽しみですね。私の最愛の人が未来も見えるなんて──惚れ直します♡」
「そういえば、アリアって簡単に動ける立場じゃないだろ? ラウンズの仕事もあるだろうし、いつも俺に接触してくる連絡係に今回の件を任せれば良くないか?」
「来てますよ?」
「既に来てるのか」
あぁ、なるほど。既にいつもの連絡係が情報集めに動いているのか。
「えぇ、目の前に」
「へ?」
「いつもの連絡係って私ですよ? もう、エルク様ったら〜身内には詰めが甘いんですから〜。まぁ、そんなエルク様も大好きなんですけどね♡」
「…………」
一瞬ポカンとする。
はぁぁぁぁぁッ!?
お前、変装上手すぎるだろ!?
性格も変わってんじゃん!?
「あ、ちなみにこの姿と話し方が本当ですからね♪ ちょっと耳貸して下さい♡」
ちょいちょい、と耳を貸すようにジェスチャーして俺を呼ぶアリア。
耳を近付けると──
「エルク様は現在エッチが出来ないと思うので、夜にあれが発動しないように気持ち良くしてあげますね♡ 私、棒とか使って吸引力を鍛えたんです♪」
──そう小声で言われた。
見た目と中身がミランちゃんなのであればアリアは癒し系間違いなしだ。
俺の事情を知った上で献身的なんて涙が出そう。
昔、俺の事で暴走した事は水に流そうと思う。
「アリア、明日からとりあえず情報集めを開始するんだろう? 俺達は今から冒険者ギルドに向かって何か異常が無いか調べてくる」
「ありがとうございますッ! 助かりますぅ〜。──(夜は精一杯お礼しますね♡)──」
最後は小声で俺に聞こえるように言うアリア。
あー、とても夜が楽しみだな〜。
鍛えたぐらいだ。凄い勢いで吸われるに違いないッ!
ピコンッ
『不謹慎な奴は魂も吸われろッ!』
いやいや、何か目的や報酬があった方がやる気の度合いが違うだろ?
それにちゃんと俺だってなんとかする為に動くさッ!
アリアに子供達にお菓子を渡すよう伝えて、俺達は冒険者ギルドへ向かう──
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