第43話
「わぁ〜これがエルドラン王国なんですね〜」
「久しぶりに来た」
「……やっと……ひと段落したな……疲れた……」
マイ、ティナ、俺の順で呟く。
俺達は既にエルドラン王国内に入っている。
俺だけ超疲れているのは魔物に襲われる頻度が高かったのもあるが、ロッテと一緒にいると気が抜けないのが1番大きかった……。
ここぞとばかりに薬を盛ってきやがるからな……。
目的地に到着して──既にロッテとはさよならしている。
別れ際は大変だった……。
本気で泣かれるとは思ってなかったからな……。
俺も女性と接する機会が多かったから嘘泣きかどうかぐらいは直ぐにわかる。
単純な見極め方としては綺麗に泣く場合は嘘泣きだ。要は対面を気にする余裕がある泣き方は悲しくても本気で泣いていない。
涙なんか流そうと思えば流せるらしいからな……。
本気で泣く時はなりふり構わずに泣く。対面を気にしないから顔はぐちゃぐちゃだし、可愛くない。
別れ際のロッテの顔は令嬢とは思えないぐらい酷いものだった。
ロッテのガチ泣きに少し心は痛んだが、令嬢は令嬢らしく暮らすのが1番だと言い聞かせて見送った。
まぁ、最後の最後で狂気じみた目をしていて怖かったのが本音ではあるが……。
とりあえず、【
ピコンッ
『安心しろ。また会う事になる』
いや、マジでそのルートは回避したいんだが……。
「とりあえず、宿を取ろう。その後は自由行動だな。しばらくはゆっくり出来るだろう」
「「はーい」」
俺達はちょっと良い宿を取った後、食堂で軽く飯を食った。
ちなみに宿を取る時に一悶着あった。
「2部屋頼む──」
「え? 同じ部屋じゃないんですか??」
「男女で分けるのは当然だろ……」
同じ部屋にして万が一間違いが起こって、魔契約が発動したらダメだと思ったので部屋を別々にしようとしたらマイの空気が変わった。
マイは受付のお兄さんににっこり笑うと──
魔力を込めたかなり大きい火球を披露した。
──それは完全な宿屋の受付に対する脅しだった。
何もマイは言わなかった。
ただ無言で『聞いてましたよね? 私達は同じ部屋が良いんです』と訴えていたような気がした。
受付のお兄さんは顔面蒼白で答える──
「あ、すいません──ほとんど満室でした! 今空いてるのは、ベットがキングサイズの部屋だけです。よろしいでしょうか?」
──と。
マイは満足そうに頷き、ティナは「ペロペロ出来て一安心」とか言っていた。
ティナは俺が渡した飴をよく舐めているのでいつでも貰えると安心したのだろう。
ちなみに俺は満足そうな2人に何も言えなかった。
本番無しの娼館にはまた行けそうにないな……。
チャンスはこの後の自由行動しかない──
◇◇◇
「じゃあ、2人にお小遣いを渡しておくから自由に使っていいぞ?」
「「はーい♪」」
俺は1人宿の外に出て、街の中を歩き出すが──
「…………何でついてくんの?」
「エルク様と回りたいです」
「私もエル兄と一緒に行きたい」
お前ら来たら娼館行けないじゃん!?
しかし、逃げてもティナがいる以上──
100%捕まる。諦めるしかないのか……いや少しぐらい足掻こう。
「……冒険者ギルドに行くつもりなんだが来てもつまらないだろ?」
本当は違うが、遊びに出かける訳では無いと言ってみた──
「「別にいい」」
……無理だな。意思が固い。諦めよう。
ぶっちゃけ、冒険者ギルドでやる事なんかないけどな。
冒険者ランク上げる為に依頼でもこなすか?
あ──そうだ。
「あ、すまん。ちょっと先に寄りたい所があるんだが良いか?」
「どこに寄るんですか?」
マイが鋭い目付きで聞いてくるが、別にやましい事は考えていない。考えていたのはさっきまでだからな。
「孤児院だ。お菓子が大量に余っているからな」
「むむ、飴以外にして」
「わかった」
ティナは飴が好きだもんな。
飴以外は孤児院に配ろうと思う。
大量過ぎて消費し切れんからな……このまま食い続けたら病気になりそうだ。
俺達は裏路地を使ってスラム街に足を進める──
しばらくすると、ボロ屋が立ち並び、ガラの悪そうな奴らが座り込んでいる場所までやってくる。
来る度に思うが、この荒んだ空気が懐かしい。
スラムは基本的にどこも似たような感じだが──
【絆】のお陰で以前のように子供が飢えた状態で寝転がっている風景が少なくなった。
それに炊き出しもしているから、孤児院に入っていない子供も比較的死亡率は低くなっているはずだ。
しかし、それでも──
いないわけじゃないし、【絆】が関与出来ていない地域もある。
スラムに子供は増え続ける一方だ。
子供は親の都合で捨てられる。もしくは奴隷として売られる。貧乏であれば特にな……。
全てを救うのは無理だ。
そんな事はわかっている。
だから俺は少しでも手の届く範囲で救いの手を差し伸べたい。
と言っても──寄付ぐらいだがな。
「エルク様……あの人達私の胸をガン見してくるんですが……」
「マイのおっぱいは規格外だから仕方がない。その内絡んでくるから戦闘態勢だけ取っておけ──「おい、兄ちゃん──そこの姉ちゃんだけ置いて消えな」──はぁ……」
そう言った矢先に俺達は3人の男達に絡まれる。
俺とティナはスラム育ちだから問題ないが、マイは強い癖に少し怯えている。
まぁ、こういうのは慣れが必要だからな。スラムや裏社会じゃ舐められたら終わりだ。だからこそガラも悪いし、強気な奴が多い。
「マイ、お前の方が強いんだからもっとシャキっとしろ。スラム街は基本的に無法地帯だ。斬っても捕まらんぞ?」
「聞いてんのか?! そこの胸のでけぇ姉ちゃんを置いて消えろッ!」
「五月蝿い──「ぶふぇッ──」──ほれ、こんな感じでやったらいいぞ? まぁ、斬るのはさすがに躊躇うかもしれんが、油断すれば死ぬ事もある。せめて気を失うまでやるようにな?」
俺は1人のごろつきを殴って黙らせる。
「は、はい……」
マイは俺のいきなりの行動に目を点にさせていた。
実戦あるのみだろう。
「残り2人はマイがボコっていいぞ。これも練習だと思ってやってこい」
「──わかりました──」
マイは殺さないように力を加減しているのか中途半端に殴っているから、ごろつき共は気を失えずに叫び声を上げている。
ちなみにこんな感じだ──
「あれ? 難しいですね〜」
「ひぃぃ、やめてくれぇぇ」
「ちょっと、逃げないで下さい。もう少しでコツが掴めそうな気がします。えいッ」
「ウガアアアアァァァァッアッ……いてぇ、いてぇよ……」
「なるほど、股間は中々良い手段かもしれませんね!」
少し可哀想ではあるがマイの為に頑張ってくれ。
ピコンッ
『えげつねぇな……』
確かにな……。
後で人の倒し方ってやつを教えるかな……。
「エル兄……」
「どうした?」
ティナが何か言いたそうな表情をしていたので聞く。
「この間、スラムの人達は皆家族みたいなものって言ってた……」
あーそういえばそんな事言ったな……。
「ティナ、こいつらは家族ではない。家族なら襲って来ないだろう?」
「──!? 確かに!」
「だろ? つまり、こいつらは敵だ。敵に情けはいらない。俺の言うスラムでの家族ってのは協力しながら生きようとする者達の事だ。人から奪うような連中は害虫と同じだ」
「わかった!」
うんうん、ティナは素直だなぁ。
これからもそれっぽい事を言えば納得してくれるかもしれんな。
「──終わりました」
「ご苦労さん。さぁ行くか」
「「はーい」」
しかし器用にボコったな……ごろつき共は顔が変形しているが死んでいない。
ある意味拷問みたいだ……。
俺達は孤児院に到着するまで3回絡まれたが、全てマイによって同じ拷問が行われた。
そして、孤児院に到着すると──
「エルク様♡ お待ちしておりました♡」
「え?」
ミランちゃんの姿があった──
何で──
ピコンッ
『何で──アリアがここにいやがる!?(笑)』
台詞とんなよ!?
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