第41話

 ロッテは緊張の糸が切れたのか、気を失ったので俺が抱き抱えている。


 見た目は茶色の髪の毛を三つ編みにして、眼鏡をかけているから普通に暗い感じの印象だが──


 こいつやっべぇよ……こいつ絶対やべぇ奴だよ。


 俺を見る目がまともじゃねぇよ……。




 それと──


 の目がもっとやべぇ……口元は笑っているのに完全に目が据わっている。


 ──!? 俺の背後に移動したのか!? 目の前に居たはずなのに、相変わらず見えねぇな。


「エル兄」


 ティナは低い声で俺の名前を呼びながら背中に鋭く尖ってる物を当てる。おそらくナイフだろう。


 ……冷や汗が止まらねぇ。


 この目は俺が娼館に行った時──『慈愛の誓い』のメンバーから向けられた目と同じだ。


 その時の経験から、これは嫉妬だと予想出来る。



 そういえば、ティナが仲間になる時に『大好きだからになりたい』と言っていた気がする……やっぱ、これって家族愛ではなく恋愛対象という意味で言ったのだろうか?


 ピコンッ


『YES。修羅場を希望する』


 アホかッ! 


 このままだと刺されて死ぬわッ!



「……ティナ、そのおっかない物を仕舞え」


「エル兄は家族以外にも手を出す? ハーレムは構わない……だけど、私の知らない人にえっちぃ事するのは嫌い……えっちぃのはつがいだけにするもの……」


 殺気がやべぇ……これは命の危機を感じる。


 とりあえず、要点をまとめると──


 ティナは以前と違ってハーレムを許容している。伴侶とエッチをするのは有りだが、ハーレム入りしていない人とエッチな事をするのはダメだという事だろう。


 だが、そもそも俺はハーレムを作りたいと思っていない。もう、こりごりだからな……しかし、そう伝えても誤解は解けないだろう事が予想出来る。


 だって俺ってば普通にロッテの爆乳を堪能しながら揉んでたしな……説得力は皆無だろう。


 この状況を打破するには──


「おっぱいに埋もれて苦しかったからだけだ」


 苦しい言い訳だが、これしか無いだろう。


 爆乳を触ってみたくて散々揉みしだいた事は口が裂けても言わない。


 ちなみにロッテの爆乳はとろけるような柔らかさだったッ!



「……なら良い……ぎゅうして」


 ナイフを仕舞うティナは俺にハグを求めてきたので、ロッテを地面に置いて、ティナをそっと抱きしめる。


 うおぉぉぉぉぉぉぉぉッ、助かったァァァァッ!



 ピコンッ


『つまらん。もっとこう──ボコデレっぽくやってくれないと困るなぁ』


 うっせぇわッ!


 こちとら人生詰む寸前だったわッ!


 それと、これはボコデレじゃねぇだろ!? ナイフが刺さりそうだったんだが!?


 もはや、あれは闇堕ち寸前だろッ!?



「エルク様、こっちは終わりました」

「ん、あぁ、ありがとうな」


 護衛達の治療を終えたマイが戻ってきたので、護衛達の方へ視線を移すと誰も死んでいないようだった。


 どうやら全員なんとか命は助かったようだな。



「エルク様?」


「な、なんだ?」


 マイからも凄く威圧を感じる……。


「私にもハグして下さい。それとおっぱいならにあるじゃないですか。地面にに転がってる、そんなややこしそうな女の垂れたおっぱいより、私のを思う存分揉んでいいんですよ? その子はハーレムに要りません。です」


 俺の股間を見詰めながらマイは告げている気がする……。


 だが、これだけは言えるッ! 2人の俺に対する執着心が凄い件についてッ!


 ……なぜこんな事になっているんだ?


 ロッテは確かにややこしそうだから俺もいらないと思っている。そもそも貴族の令嬢が冒険者になるのは色々と無理があるだろう。


 それよりも、マイのハーレムメンバーを選定しているかのような言い方が気になる……はっきりと『ハーレムに要らない』と言ったからな……。


 まさか──


 俺にまたハーレムを作らせるつもりなのか?!


 3度目のハーレムとかマジで勘弁なんだが?!



 このまま、なぁなぁにすると危険極まりないな。


「いや、おっぱいは大丈夫だ。それにハーレムもいらないぞ?」


 俺はやんわり告げる。


「エルク様はそのままでいてくれたらいいんですよ? それより早くハグをして下さい。やってくれないなら私がします──えい♡」


「……むぅ……うぐッ」


 こいつも話聞いてねぇしッ!?


 おっぱいわざと顔に当ててロッテと張り合ってるだろ!?


 あと、力強いしッ!



 しかし──おっぱいの弾力はやはりマイが1番だろう。色々なおっぱいを触ったが、マイのが1番俺好みだ。


 だが、おっぱいは気持ちいいが腕の力が強すぎて骨がぎりぎりときしんで痛い。


 そして、股間が暴発しそうでもっと痛いッ!



 ◇◇◇



 天国と地獄を同時に味わうという貴重な体験から解放された。


 解放されたというより、解放させた。


 無防備なおっぱいが目の前にあれば舐めるに決まってるじゃんッ!


 マイは「んー!? あッ、あっ、あぁん」とエロい声を出して脱力したお陰で解放された。



 そして、丁度その時──ロッテの目が覚めた。


 出会った時のロッテとは違い──とても令嬢らしく普通だった。


 ちなみに自己紹介も軽くした。


 年齢を聞かれたので16才と答えたら驚かれた。


 そんなに俺は幼く見えるのだろうか? 確かに小柄ではあるが……。



 まぁ、そんな事より──ロッテはあの時、魔物に襲われて気が動転していたからあんな事を口走っていたのだろう。


 本能を剥き出しにして実際に行動に移すのは『慈愛の誓い』の連中ぐらいだろうしな。


 今は本当に大人しい。

 陰キャと記載されていたのもわかる気がする。心の中はやべぇけどな。



 しばらく普通に話してから俺達はロッテに頼まれる──


「街に到着するまで護衛をお願いしたいのですが……」


 ──と。


 そして、俺は心良く了承した。マイとティナが不服そうにしていたが──


 決して爆乳に惹かれたわけではない。



 これにはちゃんと理由がある。


 まず、貴族と面識を持っているだけでかなり助かる事がある。


 ロッテの家系はエルドラン王国の宮廷薬師だ。それなりに影響力がある事が予想出来る。


 今後、エルドラン王国に到着した時に何かトラブルが起こった時に助けになってくれるかもしれない。


 つまり、保身の為に恩を売るという事だ。



 他にも理由はある。


 俺達は冒険者だ。護衛依頼を今後受ける事もあるだろう。


 これは良い練習になる。


 マイは初心者、ティナは一応冒険者登録をしているらしいがDランクで、まだ護衛依頼は受けた事がないと聞いている。


 ちなみに俺もの護衛依頼は受けた事がない。


 王様とかの凄いお偉いさんを護衛する依頼を『慈愛の誓い』にいる時に何度か受けたが、普通の護衛依頼ではなかった。


 王様達の護衛依頼は基本的に凄い数の兵士や騎士団が追従するから強敵が現れない限りする事がないからな……。


 って事で、俺達の連携を取る為にも心良く引き受けたわけだ。既に脅威も無いし、ゆっくり行けばいいだろう。



 2人にはちゃんと説得したら渋々ではあるが納得してくれた。



 ロッテの護衛が馬車を直して出発したまでは良かった。



 そして──


「エル君は彼女とかいないんですか? あちらの方々はパーティメンバーなだけで彼女ではないのですよね?? 私は婚約者いないんですよ! 募集中なんです♪」


 現在、が馬車の中にいる。


 しつこくロッテから頼まれた結果だ……トドメに小声で「このおっぱい吸ってみたくないですか?」とか言われた俺は煩悩に負けてしまった。


 ずっとロッテが俺に猛烈アピールしながら質問責めしてくるのが苦痛だ。


 それに陰キャはどこへ行った!?


 マイとティナは馬車の外で護衛してくれているが、目が怖い……。


 話題を変えよう……。


「ロッテさんは──「ロッテで構いません。命の恩人ですからッ! 公の場でなければ大丈夫ですッ!」──ではロッテと呼ばせて頂きます」


「はぅ♡」


 なんかロッテが嬉しそうにクネクネしている……。


 まぁ、良い。話題を変えよう。


「えーっと、そういえばさっきお見合いに行かれてたって聞きましたが、婚約されなかったんですか?」


 既に『鑑定』情報で破談になっているのは知っているが、知らない情報を知っていると怪しまれるから段階を踏んで聞く事にする。


 気になっているのは『鑑定』で書いてあっただ。


 どんな事をして破談になったのか凄く気になる。


「実は……破談になりまして……エル君が私の婚約者になりませんか? 私は男爵家ですが、結婚相手に家柄は求めていません。どうでしょう?」


「いえ、お断りします。貴族のお見合いって破談になるもんなんですね……」


 俺は即答で断る。


「照れてるエル君可愛い♡」


 この折れない心は素直に感心する。


「可愛くないです。それで破談になった理由ってなんなんですか? 好みが合わなかったとか?」


 ロッテは事情を話し出す──



 それを聞いた俺は思った。



 普段は陰キャなのに──



 恋愛モードに入ると見境がなくなると。



 こいつお見合いで本能剥き出しにしてるじゃねぇか──と。

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