第30話
え〜と、初体験が終わった後だったな……。
確か──
優しく抱いたんだが、フランは体力が限界だったようだが、満足そうに寝たんだったな……。
その後、俺はフランを助ける為に街の治療所や薬師の所に走りまわった記憶がある。
だが、しがみつきながら頭を地面に擦り付けても、貯めたお金を出して懇願しても──踏まれ、殴られ、蹴られて門前払いだった。
スラムの人間というだけでこの扱いだった。
俺は怪我だらけになり、途方に暮れてフランの元に戻った。
フランは寝たまま起きる気配は無かった。
このまま静かに死んでしまう──
──そう思った。
俺は気がおかしくなりそうだった。
そして俺は涙を流しながら慟哭する──
「何で──何でなんだッ! いつも辛い目に合うのは俺達、子供ばっかりだッ! 俺達が何をしたっていうんだッ!? 誰か、誰か──助けてくれよッ! 神様がいるなら──俺の大事な幼馴染を助けてくれよッ────」
俺に力さえあれば──
こんな世の中変えてやるのにッ!
フランを助けたい──
そして、理不尽な世の中を変える為の力が欲しい──
そう強く願った。
その時、目の前に文字が表示される。
母さんから、読み書き計算は覚えておいて損はないと教えられていたから問題なく読めた。
『加護【
「──なら、幼馴染を──フランを治す薬をくれッ!」
俺は迷わず直ぐに答える──
すると──俺の手の上が光ったと思ったら中身の入った瓶が現れた。
「これ、は? 薬なのか?」
『早くしないと手遅れになりますよ』
目の前の文字に我に返った俺は瓶を持ってフランの元へ戻る──
「──フランッ!」
どんなに揺すっても起きる気配が無い。
この手に持っているのが薬であれば──フランは助かるかもしれない。
俺は薬を口に含み──
口移しで瓶の中身を飲み込ませる──
「……エルク? 体が……楽になってる? ちょっと、痛いよ……よしよし、泣かない泣かない。酷い傷……私の為に……ごめんね?」
俺は声にならない声を上げて泣いた──
この時に俺が力を求めていたのなら──
また違った未来があったのかもしれない。いきなり強くなれる強力なスキルが貰えるなら、それこそリーシェさんと渡り合えるぐらい強くなった可能性もあっただろう。
だが、俺にフランを見捨てるという選択肢はなかったがな。
ここから俺の運命は一気に変わった気がした。
いや、確実に変わった。
それから毎日、ランダムで何かしらの物を貰う事により以前よりもマシな生活が送れるようなったからな。
そんなある日、フランが真剣な顔で俺に相談をしてきた。
内容は──
「スラムの人だって幸せになってもいいはず。私達でなんとかしたい……だから──組織を作りたいから協力して」
──だった。
俺達子供は大人達に都合良く使われる道具だ。
その状況を打破する為に仲間を集めて対抗しよう。そういう事だった。
フランも子供達の境遇をなんとかしたいと思っている。
だが、いかに俺が加護を授かったといっても劇的に強くはならなかった。
所詮は強い加護持ちには敵わない──俺を助けてくれた現在の『慈愛の誓い』のメンバーのように規格外に強い奴らはいくらでも存在するからな。
フランの気持ちもわかる。俺もせめて幼い子供達の未来は守りたいという気持ちはあった。
だからフランの気が済むまで協力しようと思った。
いつかどうしようも無い現実に直面して諦めるだろうから……それまで俺が命を懸けて守ればいい。
「なら発案したからフランがボスな? 俺がサポートしてやるよ。スラムの人達だって幸せになる権利はある。救える範囲で俺も頑張るよ」
俺は笑顔でフランにそう答えた。
ちなみに当時の俺は冒険者になりたかった。
危険は伴うがある程度安定した収入を得られれば、このお遊びが終わった時に2人で生活出来るだろうと考えたからだ。
そして、組織を立ち上げた後はフランには極力危険な事はさせず、俺が中心となり、仲間を集めた。
それが──
今では裏社会でも知らない者はいない──
【絆】の最初だ。
俺とフランの絆がこの組織を作り上げた。
この時だろう。俺が『救える範囲で救う』と決めたのは。
【絆】は子供が始めたお遊びみたいな集まりだったが──
気が付けば大人も無視出来ないぐらい大きな組織になった。
これは組織を作ってから加護に目覚めたフランの貢献だ。
あいつの加護はかなり特殊な加護だったからな……まさかここまで大きな組織になるとは全く思わなかった……。
当然ながら膨れ上がった【絆】は裏組織の大人達に目を付けら──襲われる事が増える。
だが、俺が『幻影魔法』や暗殺特化のスキルを次々と習得した事によって、邪魔者は簡単に排除する事が出来た。
フランの力もあり、たった1ヶ月で街の裏組織を壊滅させ、【絆】が街の影の支配者となった。
そして俺達はスラムに孤児院を作った。
俺達みたいな境遇の人達は数えきれない程いる。
その状況を変える為に俺とフランが話し合った結果だ。
すると、更に同志が集まり──
その輪は街から他の街へと広まり──
【絆】は他の街にも進出する。
特にフランの活躍が目覚ましかった。
フランの加護が何かは知らないが、人に言う事を聞かせたり、加護を目覚めさせたりした。
美貌も更に磨かれて誰もが惹きつけられた。そしてカリスマ性というやつもあったな。
その結果、俺よりも強い奴らが短期間で爆誕した。
そして、俺もその頃ぐらいから『蜃気楼』と呼ばれるようになり裏社会では恐れられた。
【絆】はどんどん大きくなり──
人材が豊富になり、俺の力はそんなに必要ではなくなった。
次第に任務はフラン直属の部下から伝えられるようになり、フランと会う回数も減る。
自然と本部に出入りする事もなくなった。
後から知ったが──どうやら新参者の幹部が暗殺特化の俺を危険視して近付けないようにしたようだった。
そして、俺の存在は希薄になり──
『蜃気楼』が俺だと知っているのは初期メンバーと一部のメンバーだけになった。
いるのかいないのかわからない──『蜃気楼』は実はフランではないか? と噂された。
【絆】で俺の居場所は自然と無くなっていった。
それに、ここまで有名になってはフランがもう普通の女性として生活する事は出来ない。
フランは俺より強い奴らが守っている。俺ですら近付けなくなった──
この頃ぐらいから俺は自分の存在意義に疑問を持ち始めた。
その時、ふと──
幸せだった頃──村にいた頃の記憶を思い出していた。まぁ、現実逃避というやつだ。
その時、リーシェさん達の姿が頭を過ぎる。
俺はまだ助けてもらったお礼を言ってない事に気付いた。
冒険者だって人々を守る為の仕事だ。
裏組織で有名になった俺なら冒険者としても活躍出来るはずだと思った。
そして、俺は決断した──
組織を抜けようと。
それからは個人の技量を磨きながら、【絆】の仕事を行うようになる。
【絆】はどんどん大きくなり──
裏社会でトップを争うぐらいの組織に成長した。
おそらくこの時にティナを助けたんだろう。
そして、俺が15歳になった時──
『
当然、この時──俺には声はかからなかった。
本当に俺が必要が無いと現実を突き付けられた気分だった。
吹っ切れた俺は冒険者ギルドに登録し、深夜フランに別れを告げに行き──
リーシェさん達に会いに行った。
いや、久しぶりにフランに会った時──あいつの加護の一端に触れて逃げたと言っても良いだろうなぁ……。
これは余談だが──
冒険者登録の時に腐った孤児院に入れた腹いせをしようと元Sランクのギルドマスター直々に試験を希望したが──ボコられて俺の自信は粉砕された。
「とまぁ、俺が裏組織にいた経緯と抜けた理由はそんな感じだな。しっかし、世の中化け物ばっかだな……出だしから躓くとは思ってもいなかったわ……」
あのギルドマスターのゴリラのせいで俺は表から変えるのを諦めたからな……。
リーシェさんにお礼だけ伝えに行った記憶がある……。
「……エル兄……可哀想……フランちゃんと結ばれなかった……」
「エルク様……なんて献身的な……」
今度は2人から凄く同情された!?
ピコンッ
『美談からまさかの追放みたいな流れ……どれだけ、お前の過去辛いねん……上司に次は良い物が当たるように言っておいてやるよ……』
うっさいわッ! 俺は追放されてねぇよ!?
自分で組織は抜けたのッ!
ってか、お前の上司が【
サラッと新事実を教えるなよ!?
絶対に良い物当たるようにしてくれよな!?
こっちもかなり気になるが、まずは2人に返事せねば……。
「ん? あぁ、別にいいんじゃねぇか? 初恋は実らないって言うしな……まぁ、実らなくて良かったと今では思っている。別に嫌われてたわけじゃねぇしいいんじゃねぇか? さぁ飯にしようぜ?」
もはや、材料の入れ過ぎでシチューのスープが少なくなって煮物みたいになっているが早く食いたい……。
「おっとー手が滑ったー」
マイは棒読みで話しながら鍋に水を入れた。
「なにすんの!?」
「手が滑ったのです。作り直しますね? 私はフランちゃんとの別れが気になります。話し方からそこまで酷い別れ方ではないみたいですが、もし──エルク様を悲しませたのなら私が喧嘩売ってきますッ!」
「加護の事は別に良い。皆も秘密にしてるから。でもフランちゃんの事は私も気になる……それ次第では暗殺しに行く……」
2人とも怖ッ!?
いや、これは俺の為に怒ってくれているんだ。そんな風に思ってはダメだ。なんたって俺は愛されキャラだからな……なんか過去話してて自信が無くなったわ……。
そもそも、俺は組織は抜けたが、任務はたまに手伝っていたから当然、喧嘩別れではない。
まぁ、誤解は解いておいた方がいいな……ラウンズと戦うとか正気の沙汰じゃない。
俺が知ってるメンバーは初期メンバーだけだが、こいつらも間違いなくAランク冒険者並かそれ以上に強いからな……。
でも、あれを話すのか……俺の女難の相はここから始まった気がするんだよな……。
鍋から溢れた白いシチューを見ながらそんな事を思う──
ピコンッ
『──まさか!?』
そのまさかだよ……察しが良いじゃねぇか……。
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