第29話

 シチューが出来上がるまでの間、俺は再度思い出しながら語り出す──


 正直、村が壊滅して母さんが死んだ時の事は気が動転し過ぎていてあまり覚えていないんだよな……。


 そういや、『何でもっと早く来てくれなかった』とか泣き叫んでたな……リーシェさん達に失礼な事を言ったなぁ……だけど、そんな俺に優しい言葉をかけながらギュッ、と抱きしめてくれた気がする。



 そこで意識が無くなり──気が付けば近くの街の冒険者ギルドで寝ていた。



 その時は疲れて寝てしまったんだと思っていたが──おっぱいに埋もれて息が出来なくて失神したんだと今ならわかる。



 冒険者ギルドの職員に聞いたら、リーシェさん達はギルドからの緊急依頼を受けて救援に来てくれたと教えてくれたような気がするな……。


 ずっとリーシュさん達が通りすがりに助けてくれたと思っていたな……。



 ちなみに村の生き残りは俺と幼馴染のフランという女の子の2人だけだった。


 髪の毛は栗色で、笑顔が良く似合う子だ。


 瓦礫に埋もれていた所を助けられたらしい。


 その後、俺達2人は孤児院に預けられる。


 だが、孤児院で生活したのはほんの少しの期間だけだった。


 孤児院にいる子供は殴られ、蹴られるのが日常だった。俺はフランを庇ってよく怪我をしていた記憶がある。

 食事も1日1食あれば良い方だった。



 大きくなって調べたらこういった孤児院はそう珍しくなかった。

 基本的に孤児院は国が作り、運営費は領主が払う事が多い。まぁ、教会とかが運営したり、個人でやってる所もあるが珍しい。


 そして、国が運営している孤児院はどこもかしこも役人や孤児院の院長が金をピンハネして子供達の為に使われる事はほとんどない。


 貴族の令嬢や領主が直々に慰問に来る孤児院はきちんと運営されているらしいが、そんな事は稀だ。


 更に言えば、孤児院の院長が小金欲しさに裏組織と癒着し、子供を売り払う事も多かったりする。


 それが孤児院の状態だった。



 そして、ある日──


 フランがいなくなっていた。


 俺は院長がフランを娼館に売ったと話しているのを聞く。


 直ぐに孤児院を抜け出してフランの元へ向かう。


 そして、フランを見つけ出し──


『ここから抜け出そう』


 ──と言った。


 頷くフランを連れ出した。


 行く宛のない俺達はスラムで生活を始める。


 だが、俺はこの時──スラムがどういった場所なのか知らなかった。


 孤児院では殴られるが、寝る事に困らない。食事も少ないがたまに貰える。


 スラムでは寝る所は無いし、食事も自分で調達しなければならなかった。当然、争い事も多く暴力は日常茶飯事。人だって殺さなければ殺される時もあった。


 それでも諦めずに2人で生き抜く為に足掻いた。


 誰も使っていない場所を探して住み、食料は盗んだり、ゴミ箱を漁ったりした。



 フランは娼館にいた方がマシな生活が出来たんじゃないか──


 そう思った俺は連れ出して底辺の暮らしをさせた事を謝った。


 だって、大きくなるまでは客を相手にしなくて良いとスラムに住む、気の良いおっちゃんから聞いたから……。


 だけど、フランは──


「エルらしくないなぁ〜! 私は好きでもない人に抱かれるのは嫌よッ! 初めてはエルがいいなぁ〜♪」


 ──そう明るく言ってくれた。


 俺はその言葉に救われた。


 こんな何も取り柄が無い俺でも必要としてくれる事が心底嬉しかった。


 フランがいるからこそ俺は頑張れる──そう思った。



 数年間そんな生活が続き、俺とフランはスラムでの生活に慣れていった。


 この頃ぐらいから俺は街の外に出て雑魚の魔物を倒してスラムの換金所みたいな場所で金を受け取り生活をしていた。


 と言っても、倒すのは1匹が限界だったから満足に食べる事は出来なかったがな。


 だから俺はフランに食料を多めにいつも分けていた。


 そのせいかフランは気付けば子供なのに美人で女性らしい体付きになり大人っぽくなっていた。綺麗に着飾ればどこかの貴族令嬢と間違われるぐらいだ。


 逆に俺は満足に食事を取らなかったせいで父さんのように大きくなれなかったが……。


 まぁ、そんなこんなでこのまま15歳になったら俺は冒険者になろう。そしてフランを養って2人で人並みの生活をして行こう──そう思っていた。



 だが、ある日──



 フランは病気になった。


 当時の流行り病で高級な薬が無ければ死ぬと言われていた。



 当時、10歳の俺にはどうする事も出来なかった……。



 日に日に弱るフラン──


 食事も食べれず痩せ細り、病状は悪化していった。


 俺は無力を痛感した。



 俺が必死に守ろうとしたフランはいつ死んでもおかしくない──


 そんな時にフランは弱々しい声で俺に話しかける──


「──エ、ル……」


「どうした?」


「大好き……」


 俺は母さんが死んだ時、泣かないと誓った──


 だけど、数年間──いや生まれた時から村で一緒に育った幼馴染が弱り、無慈悲に命が失われていく姿を見て涙が止まらなかった。


 俺の生きる理由が消えてしまう──そう思った。


「……俺も……」


「……お願い聞いてくれる?」


「当然」


「……今の私…醜いけど──抱いて…ほしいな……強く──夫婦みたいに抱きしめて……」


「……わかった。一つだけ言っておく──フランは醜くない。フランが隠れて小さな子に食料を分け与えてたのは知っている。所詮は見た目だ。お前の心は昔と変わらず綺麗なままさ」


 フランは痩せ細り、肌の艶もなくなっていたがそれは外見だけの話だ。

 中身は幼い子供達の為に手を差し伸べる事が出来る優しい性格で、その優しい眼差しは昔と変わらない。


「……ありがとう。バレてたんだね……」


「あぁ、バレバレだ……だが俺はそんなフランが大好きだ────」 



 俺達はお互いの存在を確かめるように求め合い──


 名前を何度も何度も呼び合って──



 俺は優しく、優しく、触れながら──



 ──身体を重ねた。



 これが俺の初体験だったな……。





「──そんな感じでスラムって大変だったんだよなぁ……懐かしいぜ──って、また号泣!?」


「「ゔぅ……フランちゃん……」」



 ピコンッ


『ただのエロ坊主だと思っていたら……初体験がまさかこんな美談とは……』


 お前、本当失礼な奴だな!?



「なぁ……ぼちぼち飯食わない?」


「「ダメですッ!!!! 続きッ! そもそも初体験の人が死んじゃうのに何でそんなに普通に話すんですか!? ご飯どころじゃないッ!!!」」


「え? だってフランし」


「「え!? 薬手に入ったの?!」」


 お前ら声被ってるぞ……仲良しか!?


「いや、まぁそこは──俺のが目覚めたお陰で助かったぞ?」


「あの分身が加護の力じゃないんですか!?」


 あーそんな事言った気がするな……。


 それより、マイさんや距離が近い……あんまり胸を押し付けないでくれませんかね? 欲求不満過ぎて揉みたくなるのよ……。



「まぁ、あれも加護の力だな」


「何ですかそのチートは!?」


 いや、知らんがな。チートって何だよ!?


「まぁ、秘密だ。俺の言う事を何でも聞いてくれたら教えてもいいがな」


 俺は悪そうに笑う。


 加護の力は基本的には秘密にする事が多い。なんせ自分にとって奥の手になるからな。


 まぁ、マイなら俺の欲求不満を本番無しでなんとか鎮めてくれるなら教えても構わん。結構死活問題だからな……。


「なら──「加護の力も気になるけど──フランちゃんが気になる」──確かにッ!」


 ティナがマイの返事に被せたお陰で返事が聞けなかった!?


 続きが気になるのか……しかし本当に腹が減ったんだが?


「いや、飯食おうぜ? ほらもう出来上がってるじゃないか──ってまたかよ!?」


 マイは追加で材料を鍋に放り込む。既に鍋からシチューが溢れ出ている……。


「続きをお願いします」

「……(コクコク)……」


 2人とも有無を言わせない迫力だった。



 ピコンッ


『はよう、話せ』


 お前っていったいなんなの?!

 何様なの!?



「はぁ……いつになったら飯食えるんだよ……えーと、初体験の後だったな──」


 俺は腹ペコで話を続ける──




 そういや、加護って先天的に持ってる奴も多いが、後天的に授かるケースもある。


 もしかしたら加護ってのは強い想いでも授けられるのかもしれんな。


 あの時は【祝福ログインボーナス】に感謝しまくったな──

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