第28話
ピコンッ
『よくやった。休むが良い』
おぉ!? ついに逃走が終わりか!?
ただ、上から目線がすげぇ腹立つけどなッ!
俺は立ち止まり、2人に声をかける。
「一先ず危機は去った。今日はここで休もう」
無我夢中で走ってたから深夜になってしまったな……だが、『鑑定』が大丈夫と言うのであれば大丈夫なのだろう。
しかし、あの場に『慈愛の誓い』の魔術師であるミゼリーさんがいなかったのが救いだったな。
あの人は魔力の波形がわかるらしくて範囲内にいたら一発でバレるからな……追跡者としては1番の要注意人物だろう。
髪の毛は長くラベンダー色でウェーブがかかっている。スタイルも抜群だ。
普段はかなりおっとりしている人なんだが、集中し出すと止まらない人で変な研究もよくしている。
戦闘では無慈悲に敵を殲滅する事から──
『虐殺』のミゼリーと呼ばれていた。
夜の相手をする時は俺を色々な方法で攻めてくる。特にこの人お手製の媚薬は正気を保つのが難しい。
【
ちなみにこの人の順番の時はお手製の精力剤を飲まされていたな……薬って怖い……。
あの人の本当の肩書きが何か気になるところではあるが、今は疲れた……考えるのはやめよう。
「さぁ、もう飯食って休もう」
俺は高級テントを取り出して2人に告げる。
「疲れました……もう走りたくない……私もおんぶが良い……」
マイをおんぶしたら至福だろうなぁ……むにょん、と凄い圧迫感が俺を癒やしてくれるに違いない。
「本当に大丈夫なの? あの人相手にそこまで時間稼ぎ出来たの??」
ティナは俺の背中から降りて聞いてくる。
まぁ、リーシェさんと戦った事があるだけに追いかけて来ないか心配だろうな……。
「まぁ、尊い犠牲によってなんとかなったはずだ。今後の事は飯でも食いながら考えよう……俺もさすがに疲れた……マイ疲れてるところ悪いが、何か作ってくれないか?」
俺はもう動きたくない……体力は大丈夫だが、精神的なダメージが半端ないからな……。
『無限収納』から予め買っていた食料品を取り出す──
「じゃあ──材料もあるのでシチューでも作りますね!」
嫌な顔せずにマイはてきぱきと作り始める──
良い子やな……。
俺達は鍋が出来上がるまで雑談する──
「そういえば、エル兄はどうしてあのパーティにいたの? 元々裏稼業だったよね?」
「私も気になります! 詳しく!」
2人は俺の過去が気になるようだ。
別に減るもんじゃ無いし良いだろう。
「エル兄? まぁ、呼び方はなんでもいいや。裏組織はスラムに住んでから
俺は語りながら昔を思い出す──
ある日──
魔物が俺の住んでいた村を襲った。
魔物が襲ってくる事はたまにあったが、その時はけっこうな大群だった気がする。俺も幼かったからその辺の記憶は曖昧だ。
俺の父さんは村の自警団で1番強かった。なんせ父さんは元Aランクの冒険者だったからな。
母さんと結婚して冒険者を引退し、村に住んだと聞いた事があったな。
その父さんは村にバリケードを張り、他の男達の指揮を取って、村を守る為に奮闘した。
その戦闘は3日続いた。
今から思えば、たかが村人でよく持った方だと思う。
しかし──
もうすぐ救援が来るだろうと思っていた3日目に討伐ランクB相当の
当時幼かった俺は最初、何が起こったのか全くわからなかった。
村の人達や顔見知りのおっちゃんやおばちゃん達が次々と叫び声を上げて惨殺されていく姿を見て放心していた気がする。
異常に気付いた母さんが俺を連れて逃げ出した。
「大丈夫──お母さんが守ってあげるからね?」
そう俺に安心させる為に何度も何度も──言ってくれてた。
実は母さんも元冒険者だ。ランクは知らないが、魔術師だったと言っていた気がする。
魔術で
だが、多勢に無勢──俺達は囲まれる。
減らない敵に母さんは魔力が尽き、立つこともままならなくなった。
俺は母さんに抱きしめられる──
「母さん?」
「辛い時、悲しい時、しんどい時、どうにもならない時はとりあえず笑いなさい。そうすれば気持ちが楽になるわ。そして考えるのをやめないでね?」
「うん、約束する……」
「エル──ほら笑って? お母さんの事忘れないでね?」
この時──
何か母さんに言ってやれば良かったなぁと今となってそう思う。
この後、母さんは最後の力を振り絞って包囲網を突破し、俺を安全な場所まで連れて行って──
──その場にいた
母さんは木っ端微塵になって遺体すら残らなかった。
この時、母さんが最後に俺の方を振り向いて笑顔になったのが未だに記憶から離れない。
俺を心配させないように笑ったのか?
それとも、必ず守ると覚悟して笑ったのか?
ただ、俺の顔を見て笑顔になったのかはわからない。
俺は1人取り残され──ひたすら泣き叫んだ。
そして、泣き叫んでいると──
リーシェさん達が救援に来てくれたんだったな。
この時の皆はとても優しかったなぁ……。
強くなければ全てを失う──
それだけは子供の頃の俺でもわかった。
それと、この時に初めて死というものを身近で感じた。
死というものは──突然に襲ってくる。そう思った。
母さんは自分の命より、俺を優先した。
俺の命はせめて何かを守る為に使いたい──そう思ってたなぁ……。
そういえば──
後に『慈愛の誓い』の魔術師のミゼリーさんに魔力が尽きても魔術が使えるか? と聞いた事がある。
熟練者であれば奥の手の為に生命力を魔力に変換して自爆する手段を持っていると答えられた。
ミゼリーさんはこの時の事を思い浮かべていたのか、悲しそうにしていたな。
「──とまぁ、そんな事があってな──って!?」
「「……ゔぅ…うぅぅ……」」
マイとティナは号泣していた。
「何故泣く!?」
まだ序盤なんだが!?
ピコンッ
『うぅ…悲しみ……』
お前もかよ!?
「ぐずっ……エル、ク様は…悲しくないんですか?」
「エル…兄……何でそんな普通に…話すのさ……」
「ん? だって、もう過ぎた事だしな……母さんだって俺が生き残れて満足してるだろ? それに──この事があったから今の俺があるからな。もうシチュー出来上がってるんじゃないか? 食べようぜ」
俺は鍋からシチューを入れようとすると──
「──裏組織の事は? まだ話してない」
ティナが俺の手を持って止める。
「いや、飯食おう──ぜ!? ちょ、何してんのさ!?」
俺がティナの手をどけようとすると──今度はマイが鍋に材料を追加で入れた。
これでは生のまま食べる事になってしまうじゃないか……。
「私も続きが気になります。ご飯が出来上がるまで時間はまだありますよ?」
マイも続きが気になるのか……。
ピコンッ
『はよはよ』
お前まで!?
さっきまでのしんみりした感じはどこ行ったんだよ!?
「…………そんな面白い話じゃないんだがな……はぁ……まぁ良い……そんで、リーシェさんが俺を保護してくれた後、冒険者ギルドに預けられたんだ──」
俺の話はまだ続く──
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