第23話

「そろそろ決着を──!? え? ぶふぉッ────────────────────」


 レイラが話している途中に無限収納から放出された水が炸裂し、大洪水に飲み込まれている。しかし、その場から押し流される事無くなんとか踏みとどまっていた。



 ここまでは作戦通りッ!



 パニックになっている今しか無い──


 と、思ったがさすがはラウンズだな。直ぐに体勢を整えている。


 俺は即座に気配を消していた4体の分身体を『幻覚魔法』で水と同化させ、洪水の流れに乗ってレイラに向かわせてレイラの四肢をそれぞれホールドさせる。


 そして、最後に目の前で対峙していた分身体が腕輪を嵌める為に景色と同化し、腕輪を嵌める──



 取った──


 そう思った瞬間、ホールドしていた分身体は致死ダメージを受けたようで霧散する。


「──ちッ、マジかよ……」


 腕輪を嵌めようとした分身体は攻撃される寸前に離脱する事に成功する。



 こいつ──上級魔術級の洪水を分身体諸共吹き飛ばしやがった。


 使ったのは風魔術か……厄介な。



「──ふざけやがってぇぇぇッ!!!! もう良い、殺すッ! その後──犯すッ!」


 ……めっちゃ怖ぇな……激おこだ……ショタだけでなく、死姦の趣味があるとはドン引きだぜ……。



 しかし、詰めが甘かったな。いや、途中までは良かった……。


 目の前にいる分身体が消えた事によって警戒させてしまったのだろう。


 保身なんか考えずに本体である俺が腕輪を嵌めに行くべきだった……。


 これは退しかねぇな。


 マイを拾って離脱するか……その為にわざわざ孤児院から離れるように誘導したしな。


 死ねば全てが終わる。だが、生きていれば機会を伺えるからな。


 それに俺が負けた事が判明すれば他のラウンズが動くだろうし、捕まっている子供達は近いうちに救出されるはずだ。



「もう、おかしな術を使わせる暇は与えないッ! ──死ねッ!」


 レイラは風魔術で風の刃を無数に出しながら逃げ場を無くし、剣を分身体の心臓に突き刺す──



 その時──



 誰かが剣を弾き──前に立った。



「──ほら、腑抜けてるじゃない……」


 その人物は──だった。

 風魔術をまともに受けたせいで全身から血が流れている。


「協力はしないんじゃなかったのか?」


「昔と変わっても──腑抜けても──私の英雄に変わりはない。こんな所で死なせない──は私が助けるわ……」


 ティナは俺に笑いながら話しかける。



 とても良い登場シーンだと思う。


 ……そこに俺がいれば感動しただろうし、とても感謝しただろう……。


 だが──


 ティナ……ごめん、それ分身なんだ……。

 本物は離れた所で見物してるんだ。



 俺はとても申し訳ない気持ちになった。




 本来、分身体が受ける予定だった風魔術をティナが庇って全てを受けたせいで全身が切り傷だらけで今も血が流れ続けている。


 どう考えても重傷だ。


 いくら強いと言っても、レイラ相手にかなりのハンデだろう。




「邪魔を──するなッ!」


 レイラはティナ目掛けて攻撃を開始する──


「エルクは逃げて──」


 ティナはそう言い残し、レイラと激しい撃ち合いを始めた。


 やはり傷のせいでティナの動きがかなり鈍い。



 逃げて──か……さっきまで逃げる気満々だったんだけどな……。


 さすがに分身体を庇って重傷なのに見捨てられん……罪悪感が半端ない……。


 これで死なれたら寝覚が悪い。


 ティナは手を組むのは断ったが、俺がピンチの時に現れてくれた。


 ティナだって目的と志は俺と一緒のはずだ。


 例え、俺に借りを返したいだけであっても──


 腑抜けた俺であっても──


 昔のティナには俺が英雄に見えたのは事実なのだろう。


 ならば──



 行くしかねぇだろ?



 少しぐらい格好良い所を見せてもいいはずだろ?



 後──俺、安眠したい派だしな。




 しかし、あの激しい戦闘に分身体が割り込むのは無理だ。直ぐに消えるだろう。


 どうせ、本体である俺が行かなきゃどうにもならん。


 それに──もう、別に負けても構わない。やれるだけやろうと思う。


 わざわざ助けに来てくれた奴を見捨てて逃げる事なんか俺には出来ねぇよ。


 なにより、俺がやってきた事は間違いじゃないのがわかったからな。


 こうやって、昔助けた奴が助けてくれるっていうのは正直嬉しいもんだ。全く記憶に無いがな……『鑑定』が教えてくれなきゃ、普通に逃げてた可能性の方が高い。



 それにこういうのって──


 っぽくて良いよな。



 丁度良いし、ティナを見返してやるかッ!



 もしかしたら、この戦いで俺の真の力が覚醒するかもしれねぇしなッ!



 俺は『分身』スキルを解除して、2人の戦闘に割り込む為にこっそり近付く──



 うん、無理だな。さっき散々格好付けたけど──



 こんな激しい戦闘にどうやって割り込むんだよ……2人とも血を流しまくってるし、表情が怖ぇよ。



 これ介入したら明らかに簡単に死ぬだろ……俺が。



 その時──


 血を失ったティナはバランスを崩す──


「もらったァァァッ!」



 やばッ、『分身』スキルを使用して即座にティナの前に配置させて肉壁にさせる。



「──俺がいる事も忘れるなよ?」


「ちッ、これは幻じゃないのか──いったいどうなってる!?」


「さてな? せいぜい俺を楽しませてみろ。ちなみに俺が本物だ。倒せるなら倒してみろ」


 再度、『幻覚魔法』で幻の俺を大量に出現させ、その中に『分身』スキルの本物を5体紛れ込ませる。





 当然ながら俺は戦わない。


 ティナの手当てが先だからな。


「ティナ──」


 俺は回復ポーションを振りかける。

 普通のポーションだから応急処置にしかならないが、無いよりマシだろう。


「なんで──逃げなかったの? 私、足の怪我が酷いからもう戦えないよ?」


 マジか……2人がかりならなんとかなると思ってたんだがな……。


 まぁ、仕方ないか。


「今回──子供を守るのが俺の仕事だ。お前の命も俺が守ってやるよ。腑抜けたかどうかちゃんと見ておけ」


 俺はティナの頭をポンポンと叩いた後、レイラに向き直る。



 幻覚は目眩し程度しか役に立たない上に、既に分身体は全滅したようだ。


「本物は──そこかッ!」


「──おっと」


 俺はなんとか間一髪で攻撃を擦らせる程度で避ける事に成功する。


 なんか今、レイラの場所がなんとなくな。



「──動きが違う?!」


 そりゃそうだ。分身体ではスキルは使えても魔術が使えないからな。


 今の俺はを使ってるから、ギリギリ初手なら避けられる。


 連撃は無理だけどなッ!


 でも──やっぱ俺ってばしたっぽいわッ!


 なんか行ける気がするぜッ!



「本物は強いぞ? さぁ、お仕置きの時間だ──」


 俺は自信満々に告げる──

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