第19話

無音サイレンス』に付いていくと──広場に辿り着いた。


 これだけ人が大勢いる場所に案内したという事は本当に戦う気はないのだろう。


 それに──ここにはがある。ナイスだ『無音サイレンス』よ。


「すまん、ちょっとに行ってきていいか?」

「どうぞ……」


 俺は即座に備え付けてあるトイレでパンツを履き替える。


 ズボンはなんとかセーフのようだ。パンツがズボンに触れないように歩いた甲斐があったなッ!



 俺はトイレから出ると『無音サイレンス』は広場に備え付けてある木のベンチに座っていた。


「待たせたな。んで話ってなんだ?」


 俺は気軽に話しかけながら隣に座る。


 パンツが濡れていないお陰で堂々と座れるなッ!


「貴方は『蜃気楼』で合ってる?」


 さっきから聞かれている内容か……これ以上は誤魔化さない方が良いだろうな。


「……そうだな。正解だ。よく分かったな?」


「そう……じゃあ『先見』も貴方?」


「…………」


 何故バレている?


「やっぱりそうだったんだ……──半年前と5年前に会ってるから……なんとなくそんな気がしたんだ……」


 なんだろ……凄くそうな顔をされたんだが?


 半年前はリーシェさんの一件だろう。しかし5年前って──会った記憶が無いんだが……。



「まぁ、今更隠しても仕方がないか……俺は『先見』であり、『蜃気楼』でもある。5年前に『無音サイレンス』と会った事なんかあったか?」


「──私はティナ……その呼び名は嫌い」


「あー、悪い悪い。知ってると思うが俺はエルクだ。んでティナと5年前に会った事あったか?」


「5年前は仮面とフードを被ってたからしっかり顔は見てない……だけど、雰囲気とか戦い方が同じ」


 どこで会ったんだ?


 5年前は【絆】で裏組織を制圧していた頃だな……その時か?


 さっき襲われた時に『幻影魔法』を見られたから目星をつけた感じか?


「あぁ、なるほど……」


 全然覚えてないが納得だけしておく。


「エルクはもう裏の仕事辞めたの?」


「いや、たまに手伝うぐらいだな」


 現に今もお手伝いの最中だからな。


「そう、今も子供達の為に?」


「それ以外で動く事が無い」


「そっか……は変わらないね……」


 そこだけ?


 どゆこと!?


「俺の根幹は変わらない。それでティナはどうしてるんだ? ここ──音沙汰なかっただろ?」


「…………」


 ティナは押し黙る──



 ここが1番気になっているので、頑張って答えてほしい。


 実は分身体に情報屋に行ってもらって聞いた限り、『無音サイレンス』──いや、ティナは半年前ぐらいに姿を消しているらしい。


 元々はフリーの暗殺者なのに何故、今になって組織に入っているのか──それが気になる。



『鑑定』で何かわからねぇかな?


 俺は沈黙しているティナに使用する──



 ◆



 私はティナ。


 5年前まではスラムに住む子供だった。


 スラムでの生活は本当に酷いものだった。食べ物が無いからゴミを漁り、物乞いをして、時には盗む。


 手に入れた僅かな食べ物を奪う為に争いが起き──


 大体が大人に奪われてしまう。


 スラムでは子供に価値はない。子供の居場所なんて存在しない。


 だから誰も助けてくれない。


 それがスラムのだ。



 でも、私はその事実を認めなかった。


 生きる以上は足掻いてやるッ!


 そう思いながら、私は他の子供達と協力して小さなコミュニティを作った。


 その結果──子供であっても連携すれば生き残る事が出来た。


 いつか、こんな生活から抜け出そう──


 そう、皆で足掻いた。



 私が10歳を迎える頃までは……。


 ある日、私は拠点にしてた廃屋に戻ると──



 仲間が全員無惨に殺されていた。



 私はまた孤独に戻ってしまった……涙が止まらなかった。


 生きようとするのが悪い事なんだろうか?



 私は理不尽に命を摘み取った奴らが許せなかった。


 もう死んでも良い。


 仇を打つ──そう思って、仲間を殺した奴らを調べて、報いを与える為に走った──


 その時、私に変化が訪れる。


 途中から急にように感じた。


 後でこれが加護の力だと知った。


 私の加護は『瞬足』。


 加護に目覚めた私は仲間を殺した奴らを襲う──


 だけど、所詮は加護に目覚めたばかりの子供。


 私の力は通用せずに無力化させられた。



 いつ死んでもおかしくないぐらい殴られ、蹴られた私はこの世を心底恨んだ──



 その時──


「──そこまでだ」


 ──私より少し年上っぽい、男が現れ──その場にいる連中を不思議な力を使って殺す。


 断末魔から察するに──私を助けた男は当時、名を上げていた『蜃気楼』だった。


 その後、【絆】が街の裏組織を制圧した。



 そして、『蜃気楼』は私にポーションを振りかけながら言った。


「俺達が住みやすいスラムってやつを作ってやるよ」


 変な仮面とフードを被っていたけど、その深紅の瞳は真剣だった。


 私は腐った世界を本気で救おうとする姿勢に憧れ、尊敬した。


 だから私は──


「私もお兄ちゃんみたいになれるかな?」


 ──と聞いた。


 すると『蜃気楼』は──


「なれるさ──子供の力は無限大だ。なんにだってなれるさ。俺より強い奴らなんかいっぱいいるから俺じゃなくて他の奴を参考にしろよ? ほれ、これやるよ」


 飴を渡しながら頭をポンポンと叩く。



 私は飴を舐めながら、決意する。



 私も『蜃気楼お兄ちゃん』みたいになると──



 その後、私は自分をひたすら鍛えた。獣人特有の筋力を鍛える事により、加護の力は更に発揮される。


 私も『蜃気楼お兄ちゃん』と同じようにスラムに住む子供達を救う為に、害となる者を殺す暗殺者となった。


 私は賢くはない。だから仲介人を通して依頼を受けていたし、殺すかどうかはターゲットを見てから決めていた。まぁ、ほとんどがゴミみたいな連中だったけど……。



 誰も私の姿を捉える事は出来ない。ターゲットになった奴は必ず殺す──


 いつしか私は『無音サイレンス』と呼ばれていた。


 半年前に子供に害悪のある『先見』を殺す依頼が来た。


 普段ならスルーする依頼だけど、次期Sランクと呼ばれている『先見』に少し興味があったので視察だけする事にした。依頼を受けて殺すかどうかは見てから決めたらいいから。



 数日間、様子を見た感じ──


 毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩──


 パーティメンバーを抱いていた。


 確かに『子供にとっては害悪』だと思った。


 しかも、事前情報では『慈愛の誓い』最強と言われていたが、私が見た感じでは覇気もないし、平凡。


 それが私の評価だった。


 でも、ふと気付く──


 瞳が『蜃気楼お兄ちゃん』と同じく深紅だと。


 あの目は間違いない──そう獣人の本能が囁く。


 今の私とどれぐらい力に差があるのか興味が出た。



 そして襲った──



 しかし、私は初めて撤退した。


『先見』と戦う事もなく、『金獅子』が怒り狂ったせいで。


 あれはもはや化け物……私の姿を完全に捉えていた。


 そして、撤退した私は考える──


 私の憧れた『蜃気楼』と、女たらしで覇気も無く平凡な『先見』が本当に同一人物だと思うと悲しくなった……。


 現実を受け入れられなくて暗殺者を休業した。


 その半年後──


 滞在している街で人身売買が行われている事を知った私は人身売買を阻止する為に組織に入った。


 私は子供達の未来の為に奮起し、戦い続けた。


 それに仕事をしている時は余計な事を忘れられる──憧れたあの人の事も。


 だけど、さっき『蜃気楼』と『先見』が同一人物である事が確定して心が折れそうになった……更に漏らしていたし……。


 いつか力の差がどれぐらいあるのか確かめたかったけど、もう気力が無くなった……。



 ◆



 ────ちょ、ちょっと待とうか!?


 何このティナの心情をそのまま書いたような表示は!?


 これってさ……神様が書いてるの?


 仕様が変わり過ぎだろ!?


 確かに色々わかったけどさッ!



 とりあえず、情報を整理してみるか……。



 ティナの境遇は可哀想だとは思う。俺も似たような経験をしているからな。


 暗殺者になった動機が、助けた俺なのもよく分かった。


 全く覚えてないけどなッ! 似たような事がたくさんあったし……。


 そして、目の色と戦い方で『先見』と『蜃気楼』が同一人物という疑いが出て、俺の返事で確定した結果──ショックを受けている感じか……。


 さっきの残念そうな顔って──


 美化された俺がハーレム野郎だったからという事?


 それと、お漏らしではないが──股間が濡れた事に気付かれてたの!?


 うわぁ……全力で言い訳したいな……。


 俺に殺意が無いのは命の恩人だからだろう。


 その代わり、『先見』でのイメージで幻滅されてるっぽいが……。


 今、黙っているのも、その事を言うかどうか迷っているのかもしれない。



 なんせ、トドメがお漏らしだからな……口が避けても憧れてましたとは言えないだろうな……俺なら絶対言わねぇな……。



 戦闘する気がそれでなくなったのであれば結果オーライだが──



 ──なんかやるせない気持ちでいっぱいだぜ……。



 それより、ティナは子供達を守る為に暗殺者をしていたのに、何故人身売買をしている組織にいるんだ?



 俺はティナのいる組織が敵だと聞いたはず──



 まさか、俺は思い違いをしているんじゃ──



 その時──ティナから声をかけられる。


「エルクさん……漏らしてましたよね?」


 一瞬で俺の思考は吹き飛んだ──

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