第14話
私は宿屋を出た後、急いでマーキングした魔力を追うと──
気が付けばスラムの中に入っていました。
更に進むと孤児院に到着します。
孤児院がスラムの中にある事に一瞬驚いたけど、魔力の反応は孤児院の中にあります。
しばらくすると、柄の悪い男達が孤児院に入って行き──
中から子供の叫び声や泣き声が聞こえてきます。
中の様子を隠れて見ると──
1人の子供がナイフで刺されようとしていました。
私は子供を救う為に魔術を放とうとした、その時──
ナイフで突き刺そうとした男の首を刎ねてエルク様は現れます。
そして、次々と男達の首を刎ねて行く。
その姿はいつものおどけた感じはありません。
人を躊躇いも無く殺す行為に一瞬震えてしまう。
状況を見るに孤児院を悪い奴らから守っているのだと思います。
スラムは無法地帯。こんな事は日常茶飯事だと聞いているし──
この世界は前世で私のいた日本よりも残酷だから……。
エルク様はスラム育ちだと言っていた。私みたいな犯罪奴隷の命を救うぐらい優しい方……きっと子供の命を守る為に奮起したのでしょう。
それにさすがはAランク冒険者です──
敵の攻撃は当たる事なく避けて確実に首を刎ねている。
だけど、違和感がある。
何故かエルク様は首を刎ねた後──いきなり背後から現れている。そして、動き出すと霧のように一瞬消える。
私はマーキングした魔力に集中して戦いを見ると違和感の正体に気付く。
柄の悪い連中はエルク様がいる場所とは反対方向に攻撃している。でもエルク様は背後にいる。
つまり──
これは幻影。
敵の視覚には目の前にいると錯覚させ、自分の姿は周りと同化させ──背後から確実に首を刎ねている。
こんな戦術があるなんて……さすがはAランク冒険者だと思った。
生半可な相手では勝ち目はない。
案の定、敵は混乱し──あっという間に敵はリーダーっぽい男だけになる。
その男は悔しそうな顔でエルク様に言葉を投げかける──
「てめぇ……まさか──救援か?」
「さぁな」
「──!? 姿が捉えられず、全員を確実に殺す──この戦い方──まさか!? ──しん、き──「黙れ」──……」
男が話している途中にエルク様は首を刎ねる。
床には柄の悪い男達が死屍累々とし──その場は沈黙する。
子供達は何故か寝ている。
「シスター……子供達は薬で眠らせている。部屋へ移動させてくれ」
「はい……まさか貴方様は──『蜃気楼』様?」
「……そう、だな。内緒にしてくれよ?」
「──ありがとうございます……【絆】最強のラウンズに助けて頂けるなんて光栄ですッ!」
シスターは感極まり、泣きながらエルク様に抱きついてお礼を言う。
エルク様は少し照れていますね。私以外の女性と抱き合う姿を見ているとイラッとします。
本当──イライラします。
それよりも気になるワードがありました。
蜃気楼とは二つ名でしょうか?
それに【絆】と言えば──トップを争うぐらい大きな裏組織と村に来ていた商人から聞いた事があります。
このシスターはエルク様をその【絆】の構成員だと言い、エルク様はそれを認めている節があります。
これが本当なのであれば──
その時、私の首に冷たい物が当たる──
「──ん? ──って、マイ?」
「エ、エルク様……」
◆
とりあえず、敵は『幻影魔法』を使って全滅させた。
本当は敵のリーダーを生かして、情報を得たかったが──俺の裏の通り名を呼ぼうとしたのでシスターに聞こえる前に即座に殺した。
しかし、シスターには聞こえていたようだ。
俺は冒険者の時は人数を増やして魔物のヘイトを集めたり、『慈愛の誓い』の面々から逃げる時ぐらいでしか『幻影魔法』を使わなかった。『光魔術』に似たような術があるからな……まぁ、俺が使う程の規模では出来ないらしいが……。
まぁ、そんなわけで基本は使わないようにしていた。
なぜなら裏の仕事を手伝う時だけは『幻影魔法』をメインに使って任務を遂行していたからだ。
攻撃をしても捉えられない、何が本物なのかわからない──
気が付けば、正体もわからない俺は『蜃気楼』と呼ばれるようになっていた。
そして、噂が一人歩きして──
『絆最強』『絆の創設者の1人』とかも言われたりしていたな……。
とんでもない風評被害だけどなッ!
しかも今さっき勢いでシスターに正体バラしちゃったしッ!
今はそのシスターが感極まって俺を抱きしめてお礼を言ってくれている。
胸はそんなに無いけど、女の子柔らかい体が俺にまとわりついて気持ちが良い!
最高だなッ!
これなら、少しぐらい──おっぱいやお尻触ってもバレないか!?
とか思っていると──
──俺の『索敵』に反応が出た。
さっきまで反応がなかったのに?
『索敵』は敵意や殺意がある者に反応する。
俺は直ぐに行動に移す為に『幻影魔法』を再度使えるようにする。
早く処分しねぇと逃げられて俺がいる事がバレる──
シスターを振り解き、『幻影魔法』で周りからはさっきの状況と変わらないようにし──
俺は敵の背後に立って、首目掛けて剣を振るう──
剣が当たる瞬間に女の子だと気付いた俺は剣を止めて首に当てる。
俺は女の子は直ぐに殺しませんッ!
「──ん? ──って、マイ?」
よく見るとマイだった。
「エ、エルク様……」
拙い──もしかして見られてたのか?!
いや、見ていなかった可能性もあるか?!
一応、確認するか。
「……マイはいつからここに?」
「……子供が刺されそうになって、エルク様が男の首を刎ねた所からです」
それ……戦闘の最初からじゃねーかッ!
「そ、そうか……」
「…………」
その場は沈黙する──
人殺しの現場に居合わせているから、言い訳が出来ねぇ……。
しばらくして──
口を先に開いたのはマイだった。
俺の予想ではきっと怖がられると思っていたのだが──
「凄く──格好良かったですッ!」
その予想とは真逆の反応だった──
目がキラキラしているな……。
……俺が言うのもなんだけどさ……お前なんかおかしくねぇか!?
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