第13話
さぁて、とりあえず情報集めだ──
まずは孤児院だな。普段なら寄付する以外では素性がバレるから絶対に行かないんだが、髪の毛の色も変えてるから問題ないだろう。
俺がいた組織では、子供達を出来るだけ救う為にスラムに孤児院を作った。
これにはいくつか理由があるが、1番の理由は俺の我儘だ。
まぁ、俺とか
気が付けば、
お陰でめちゃくちゃ武闘派な組織が出来上がった……急成長した理由の一つだろう。
まぁ、そんな事より孤児院を選んだ理由だが──
スラムの近い酒場なら組織の息がかかった奴らもいるはずだが、今回は子供が誘拐されている。
組織が経営している孤児院の方が詳しい情報を持っているだろうという算段だ。
それに実は魔道具のイヤーカフと一緒に組織のエンブレムを渡されている。これがあれば詳しい話を聞く事も可能のはずだ。
ただ、ここで気になる事がある。
孤児院には必ず、強い護衛が2人以上が必ず付いている。これはスラムの最低限の治安を維持する為なのだが──何故か事件を防げていない点が引っかかる。
これまでの経験上、敵が相当上手くやっているのか、それとも身内に裏切り者がいるのかのどちらかか──もしくは両方だろう。
考えてても始まらない。確認するしか無いな──
◇◇◇
俺はスラムにある孤児院に到着すると──
「今日は何用でしょうか?」
出迎えたシスターにそう言われる。
かなり殺気立っている。今にも攻撃されそうだ。
怒りを鎮めるには──
「寄付を……」
やはり金だろう。組織からの援助はあるだろうが、貧しい事に変わりないからな。金はいくらあっても困らない。
「あら♡ こんなに?! ありがとうございますぅ♪」
予想通り、効果は抜群だッ!
小袋に入った金貨を見詰めながらニヤニヤしている。
とりあえず殺気はなくなったな。
「いえいえ、子供達に美味しい物を食べさせてあげて下さい」
「助かりますぅ。良ければ夕食でもご一緒しませんか? 子供達も喜びます」
話を聞くには都合が良いし、子供達の暮らしも見てみたい。
「では、ご一緒させて頂いてよろしいですか?」
「ささ、こちらですよぉ〜」
シスターは腕を絡ませて俺を中に案内してくれる。
経験上──このケースは色仕掛けで更に金を出させるか、食事に睡眠薬を入れられて身包みを剥がされる事が多い。
このシスターは俺を逃す気は全くなさそうだ。絶対、心の中で『搾り取れる所まで搾り取ろう』と思っているだろうな……。
なんとも
さすがに話を聞く前に眠らされるのは勘弁願いたいので、仲介人にイヤーカフと一緒に渡されたエンブレムをチラッと見せる。
するとシスターの顔色は青ざめていく──
「──これは!? 『
そして、『
『
通称『ラウンズ』は同じ志を持った者達の集まりだと聞いた事がある。一つ言える事は馬鹿みたいに強い奴らばかりで、その中には他の裏組織から引き抜かれた猛者もいるはずだ。
そんな奴らと一緒の扱いとか勘弁してくれ……。
これは間違いなく
まさかここで取り込みに来るとは……。
何故、幹部用のエンブレムを渡したのか会って問い正したいが、会えばろくな事にならないので会う気はない。
また仲介人が現れたらこのエンブレムは返却しよう……。
「畏まらなくていい。とりあえず2人になれる部屋に行こうか?」
「は、はい……(こんな子供がラウンズだなんて……)」
うん、俺もラウンズのエンブレムを渡されてるとは思いもしなかったよ……あと、俺は子供じゃねぇよッ!
◇◇◇
「────という事なんです……」
俺はシスターからここで起こっている事件について事情を聞く。
どうやら、既に護衛は殺されているようだ。Bランク相当の護衛2人いたらしいが、あっさり夜中の見回り中に殺されたと言う。
つまり、敵はかなり手強いと見て良いだろう。
シスターが調べたところ、敵はこの街を以前仕切っていた組織だそうだ。助っ人か何かわからんが、手強い手駒を手に入れた事により、攻勢に出たといったところだろう。
目的は聞いていた通り人身売買だ。
ここには子供が20人程いる。ターゲットをここに絞ったのは子供目的と外部の組織である【絆】の排除だと予想出来る。
一応、【絆】が仕切っているとはいえ、ここを元々仕切っていた組織に歯向かう奴らはいないのだろう。息がかかっている奴らが助けないという事は──静観しているはずだ。
更に敵は【絆】から救援が来る前に決着をつけたいようで、最近はここに脅しに来ているらしい。
シスターも【絆】の一員だ。決して弱くはない。だが、一人で出来る事は限られているのだろう。悔しそうに話してくれた。
まぁ、敵さえわかれば問題無い。
後は俺が
敵はまだ俺の存在は知らないからな。
俺も少し昔に戻るか──
「安心しろ。なんとかしてやる──」
決め台詞を言おうとした時、玄関の方で扉が勢いよく開く音が聞こえた──
シスターと俺は即座に向かう──
到着すると、柄の悪い男達が大勢いた。
そいつらは子供達を怒鳴り散らし、子供達の悲鳴や泣き声が部屋全体に響き渡っていた。
シスターにはとりあえず追い払うように指示を出して、俺は物陰に気配を消して隠れる。
任務を滞りなく済ます為だ。救援が来た事がバレれば警戒させて厄介になるからな。
リーダーっぽい男はシスターを発見すると話しかける。
「シスターさんよぉ? もうここは立ち退きだ。俺らが掃除に来たぜ? やれ──」
残りの奴らが建物を破壊する──
「や、やめて下さいッ! ──きゃ……」
シスターは慌てて駆け寄り、制止するよう言うが、殴られて床に転がる──
「子供を拐ったら、お前で楽しませてもらうぜ。おらッ、お前らとっとと破壊して子供を連れて行くぞッ!」
男共は逆らう子供に暴力を振るい、先程よりも泣き声や叫び声が大きくなる。
我慢だ──
ここで俺が手を出して何人か逃げ出して組織に知らされれば親玉を殺すのが困難になる──
「いた…い……よぉ……」
「誰か…助……けてよぉ……」
子供達の慟哭が俺の胸を締め付ける──
握りしめた拳から血が滴る──
が、まん──だ。
「くっくっく、お前らみたいな掃き溜めの糞でも俺達の役に立つ。つーか、ピーピーうっせぇなッ! 1人ぐらい見せしめにした方がこいつらも黙るだろ」
男はナイフを子供目掛けて突き刺そうとする──
その時──
『お願い…します……食べ物を……下さい……』
『この掃き溜めがッ! お前みたいな糞はさっさと野垂れ死ねッ! 生きてるだけで虫唾が走るッ! おらッ、これでもくれてやるよッ!』
俺がスラムに住むようになった時の記憶がフラッシュバックする──
あの時はなんとか生き残れたが、とても痛かった──
体の傷じゃない。
人を人として見てくれない事に心が痛かった──
あぁ──
ダメだ。
我慢なんか出来ねぇよ。こいつらだって必死に生きてんだよッ!
やっと──
安全な場所に住む事が出来たんだ。
俺が助けねぇで誰が助けるんだッ!!!!
「──グハッ────」
「──掃き溜めの糞はお前だろ?」
俺はナイフで子供を突き刺そうとした男の首を刎ねて冷たく言い捨てる──
「貴様ッ! ──へ? …………」
もう1人の男が明後日の方向に剣で斬りかかるように仕向け、俺は背後から首を刎ねる。
「お前らには──地獄を見せてやるよ」
久しぶりに怒りで血が沸るな。昔を思い出すぜ。
逃げる気は全く無い。
見せてやるよ──
俺の戦い方を──
対人戦の本気ってやつをよッ!!!!
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