第11話

 受け取った魔道具はイヤーカフだった。


 俺は路地裏に入って耳に装着する。


 変装用の魔道具と聞いていたので姿を変える事が出来ると期待していたのだが──


 使用してみると髪の毛の色が変わっただけだった。ちなみに色は自由に選べるようだ。


 まぁ、もう少し効果を期待したが──こういう魔道具は犯罪に繋がる為、あまり売っていないし、あってもかなり高価なので簡単に手に入ったのはありがたいと思う事にした。



 とりあえず、マイと兄妹きょうだいに見えるように黒髪にしておくか……。



 ◇◇◇



 しばらくして俺は服屋に到着する。



 扉を開けて中に入ると──


 マイが店員さんと楽しそうに話していた。



 とりあえず、店員さんが離れた瞬間を見計らってマイに事情を話す為に近付く──


「マイ──」

「──!?」


 俺にいきなり背後を取られたマイは驚く。


「俺だ。落ち着け。これからは俺を兄と呼ぶように」


 近くに店員がいる為、小声で用件だけを伝えると──


「えッ!? まさかの妹プレイ!?」


 酷い勘違いをされた?


「違うわッ! 兄妹きょうだいなら怪しまれないからに決まってるだろうがッ!」

「……確かに……でも──兄というよりに見えるんですが……」

「黒髪だと少し幼く見えるからな……」

「いや……元々幼く見えますが……」

「…………一応マイより年上だからな? 演技頼むぞ? ここはあいつら御用達ごようたしの店だからな? バレたらわかってるだろ?」

「──はい」


 要件を伝え終わったタイミングで店員から声をかけられた。


「あら、やっとお連れさんが来てくれたのね。貴方がこの子のなのね? この子が好きな物を買ってくれると言っていた事から、どこかのお金持ちか貴族様のご子息かしら?」


 しまった──


 これは奴隷とバレている。おそらく試着する時に奴隷とわかる印──奴隷紋を見られているな。


 普通に失念していた。


 しかも、探りを入れに来ている。これは何か疑われている可能性が高い。


 ちなみにこの人は店長さんで、昔は騎士団長をしていたと聞いている。


 探りを入れるのは昔の癖なのかもしれないが下手な事は言えない──


 このまま話に合わすのが無難だろう。


 ──マイ、頼むぞ?


 マイを見るとコクリと頷く。


 どうやら察してくれたようだ。マイはなんやかんやで察しが良い。前世の時の育ちが良かったのだろう。


 だから、ここでのベストアンサーもわかっているはずだ。



 マイが口を開く──


「──店員さん、さっきやっとが来てくれたんです」


「お兄様? この子が?」


 店長さんの目力が凄くなった。まるでゴミを見る目だ。



 おォォォォッいッ! マイさァァァァんッ!!!


 変な疑惑が浮上してるよ!?



 そして案の定、後ろの方で店員同士の話し声が聞こえて来る。


「今の聞いた?」

「妹プレイをしているみたいね」

「おっぱいが大きい奴隷を夜な夜な好き勝手にしただけでは収まらず──お兄様と呼ばせているとは……最近のお金持ちの子供は性癖が歪んでるわね……」


 などと色々聞こえてくる。



 尚更、俺だとバレたくなくなったな。


 なんせ全員知ってる奴らだしな!


 下手に言い訳するとバレる可能性が高まる。


 早く離脱せねば──



「貴族では無いです。──お会計お願いしてもいいですか?」


 早くここから出たい。


「そう、まだ服とか決まってないみたいだけど?」


 マジか……。


「マイ──候補は決まってるんだな?」


「はい、お兄様。あそこに置いてるのが候補です」


 俺はマイの指差す方向を見ると服やら下着が山盛りになっていた。


 どう見ても金貨20枚は超えている……。


「──なら、あそこの買います。これで足りますよね? 釣りは良いです」


 俺は金貨を30枚出してそう言う。


 早く離脱する為にはこれしか方法が無い。高い出費だが、仕方あるまい。


 俺の言葉に──


「へ? お兄様ありがとうございますぅ!」


 マイは俺におっぱいを押しつけて抱き付きながら喜んだ。


 おっぱいがムニョンと俺の腕を包み込むのは素直に嬉しいが、もうお兄様と言うのは止めろ!


 周りの視線が痛すぎるッ!



「えぇ!? 多すぎるわよ!?」


 店員さんは俺が出した金貨に驚いていた。


 小声で『ただのエロ餓鬼じゃないわね……あの子の選んでた下着もかなり誘惑的な物が多かった……こりゃあ性癖歪みまくってる可能性が高いわね』とか聞こえて来たが、この際離脱出来るなら何と言われようが構わない。


 もう二度と来る事はないからな。



 しかし、釣りは良いと言ったものの金貨が多すぎたか……すんなり出れなさそうだな。



「じゃあ、残りの金額でこの子に似合うアクセサリーを見繕って下さい」


「……わかったわ……直ぐに見繕うわ。この子の事──大事にしてるのね?」


「えぇ、大事ですよ?」


 俺は年相応のはにかんだ笑顔で応える。


 その言葉に店長さんは満足してアクセサリーを見繕いに行き、指輪を持って戻ってくる。


「──この指輪とかどうかしら? これは魔道具なのよ。効果はつけてたらわかるわ」


「お、良いですね。ではそれでお願いします。ほら、マイ──」


「お兄様……こんな所でプロポーズなんて困ります……」


 マイの言葉と店にいた全員から『お幸せに』と言われ頬が引き攣るが、視線は暖かったので何も言わないでおいた。


 俺達はお礼を告げて店を後にした──



 店長が悪そうな顔をしていたが気のせいだと思いたい。

 


 さて、この最後の指輪は明らかにお釣り分の金額を余裕で超える品物だ……おそらくだろう。


 この人はマイが奴隷だと確実に気付いている。奴隷紋の模様で見る人が見ればわかるからな。


 酷い扱いをしているとわかったならどうなっていたかわからなかったな。



 最後には信頼してくれたようだし、なんとかなって良かった。



 今日はもう疲れた……ギルドは明日にして、宿屋を取って依頼の下調べをするか……。


「エルク様……」

「ん? どうした?! 辛そうだな……宿屋に向かって休むぞ」


 マイが少し苦しそうにしていたので立ち止まってそう言うと──


「ここが──苦しくて熱いんです」


 そう言いながら俺の手を胸の谷間に突っ込んだ。


「へ?」


 いきなりの行動に呆然とする。


 目はトロンとしており、どう考えても正常ではない。何か病気か?


 いや、これはあいつらが良くしていた顔だ。



 そう──



 だ。



 マイにいったい何が──

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