第9話
マイは俺の目の前で手の平に『火球』を出していた。
呪いが消えた今では魔術を問題無く使えるみたいだな。
マイが魔術師として戦えるのはありがたい。俺には遠距離攻撃の手段があまり無いからな。
「へ〜マイって魔術使えるんだな……丁度良い。あそこにいるゴブリンに向かってそれ投げてくれ」
「え、あ、はいッ! えいッ!」
可愛らしい声とは裏腹に豪速球で放たれた『火球』はゴブリンに直撃する──
……マジかよ……こいつ──ゴブリン消し炭にしやがったんだが……。
『火球』の威力だけ見るなら『慈愛の誓い』の魔術師と同じぐらいだぞ?
呪いを受けて普通以下になっていたという事だが、これはもっと実力を確かめておいた方がいいな。
「マイは近接戦闘はいけるのか?」
「一応、剣の練習はしていましたが……まだ実戦はした事がないんです……」
もし──剣も扱えるのならば、魔法剣士向きだな。
「そうか──これで一回、また出てきたあそこのゴブリン倒してきてくれるか?」
「え?」
鉄の剣を渡すと不安そうにするマイ。
その気持ちわかるぜ、命を刈り取るという行為が更に不安にさせるからな。
特に初陣であれば緊張もするもんだ。
だが、これから先2人で魔物を相手にする事もある。
確認しておかないとダメな事──
「大丈夫だ。俺はパーティでは最弱だったが──Aランク冒険者だからな。いざという時は俺が助けてやる」
最悪の場合は俺が必ず助ける。
自信満々に冒険者証を見せて言うと──
「──!? わかりましたッ!」
マイは信用してくれたようだ。
小声で『本当にAランクだ……』と聞こえてきたが……。
こういうのは不安がらせてはダメだ。自信満々であれば大体信じてくれる。
更に証拠さえ見せれば疑う奴はいない。俺がAランクというのは事実だからな。
はったりは凄く大事だッ!
「よし、じゃあ──あそこにいるゴブリン5匹を倒してみてくれ」
俺はいつでも動けるように準備すると──
「──行きますッ!」
マイは走り出す──
うん……明らかに俺より速いな。
あまりの速さにポカンとしていると──
「──終わりましたッ! 意外と大丈夫ですねッ!」
ゴブリンは断末魔を上げる事なく、首が地面に転がっていた。
剣も魔術もここまで出来るとはな……『慈愛の誓い』のリーダーであるリーシェさんと被って少し怖いから──
──気軽におっぱい揉ませてくれって言い辛くなったな……。
「どうでしたか!?」
「まぁまぁだな……」
既にCランク冒険者より強い気がするが、ここで調子に乗らせてはいけない。
慢心や油断は死に繋がるからな。
まぁ、俺より強い気がするけどなッ!
「吐いたりとかするかと思いましたけど大丈夫なものなんですね」
いや、大抵は吐くぞ? 俺は吐いたからな!
「マイは心が強いのかもしれんな……まぁ、足手まといにはならんだろう」
むしろ、俺が守ってもらえそうだしな。
「頑張りますねッ!」
ジャンプして喜ぶマイ。
……おっぱいがジャンプすると空中に放たれ──着地した瞬間にバルンッ、と大きく揺れた後は、余韻の振動で凄く波打つような揺れ方をしている。
重力に逆らっているおっぱいは凄く眼福だな。
ん? ……『索敵』に反応があるな──
──マジか……まだ魔物いるじゃん……。
敵は5体。体格から──
オーガだろう。接近戦なら俺は1体が限界だ。
普段の俺なら間違いなくこの場から去っている。
逃げるなら今だろうが──
俺も少しマイにAランクらしく、格好良い所を見せておきたい。
そうすれば、胸を揉むだけのエロい奴というレッテルが剥がれるはずだ。
それに最悪──奥の手があるから死ぬ事はないしな。
何より『分身』を使ってみたいッ!
これなら安全に立ち回れるだろうしな。
「マイ──オーガともうすぐ接敵する。警戒をしておけ」
「──はい」
マイは返事をすると俺の向いている方向に構える。
オーガは討伐ランクがCだ。マイが相手取るのは厳しいだろう。
俺は『分身』を使う──
とりあえず、魔力的に5人が限界だな。
意思の疎通も可能みたいだし、便利だ。
さぁ──俺の頼りになる所を見せてやらねばなッ!
俺は分身体と共にいつでも行けるように構える。
オーガの姿が見え始めたのでマイに声をかける──
「マイ──「──
マイ、俺が行くから見ておけ──そう言おうとした瞬間、オーガが火に包まれて絶叫する。
「──終わりましたッ!」
「「「そうみたいだね……」」」
俺と分身体達は口を揃えてそう言うのが精一杯だった。
マイは俺の方に笑みを浮かべながら振り向くと──
「わわ、エルク様が6人もいる!?」
俺が増えた事に驚く。
「「「……お、おう……」」」
活躍の場は消え去ったが──マイの強さは俺を凌駕しているのはよくわかった。
マイには俺の最終兵器になってもらうか……たぶん、現段階でAランク相当の強さはあるような気がするな。後は経験と場数だろう。
◇◇◇
道中、けっこう低ランクの魔物が現れたが──もう街は目の前だ。
ちなみに魔物は全てマイが討伐したと明記しておく。
俺は後方で応援──いや、アドバイスをしながらマイの凄さをずっと見ていただけだ。
俺がやった事と言えば『分身』で出来る事を確かめてたぐらいだな。
試した感じ、かなり便利だったな。意思の疎通が可能で、更に俺の考え通りに動いてくれる。これなら即席のパーティより連携が取れる。
「わぁ〜けっこう大きな街ですねぇ〜」
街に近付くと、マイが感嘆の声を上げる。
「そうだな。ここで俺とマイは冒険者登録をして新生活を開始する為にさっさと他の国に行くぞ」
「はいッ! そういえば──エルク様は偽名とかはどうされるんですか?」
偽名か……。
「……考えてなかったな。まぁ、だがエルクって名前の奴はそこら辺にいるから大丈夫だろ」
なんか昔の英雄さんと同じ名前だしな……好んで子供に名付ける親が多い。
問題は──髪の毛の色だ。
俺の紅い髪の毛をなんとかしないとダメだな。これと名前が被ると絶対にバレる。
【
街に入ったら染めよう。
しかし……この街では俺ってけっこう知られてるだよな……。
とりあえず中にさえ入れればなんとかなるか?
俺達は門番さんの所へ行く──
「すいません、街に入りたいんですが」
知ってる門番だが、ここは押し通ろう。
「身分証明は? 無ければ1人銀貨1枚だ。そっちの別嬪さんと合わせて銀貨2枚だな──ってエルクじゃねぇか!? お前死んだって聞いたぞ?! 冒険者証は!?」
住民で無く、身分証明が無い場合は街の出入りで銀貨1枚取られる。これは安い宿一泊分だ。
けっこう高いが、どこの街も似たような感じだったりする。住人が他の街に逃げないようにする処置だそうだ。
というか、やっぱ俺ってわかるよな……。
「人違いです。僕は冒険者ではないです。はい、銀貨2枚です──」
俺はさっと渡して中に入ろうとすると──
マイは俺の態度を見て『誰こいつ!?』みたいな顔をしていた。
失礼だなッ! 俺だって丁寧に話したり、演技ぐらい出来るわッ!
そんな事を思っていると──
「──ちょっと待て」
門番にも呼び止められる。
別に何もおかしな事はしていないんだがな……口調も年相応にしているし……。
「何ですか?」
「エルク、本当に俺がわからないのか?」
「わかりません。じゃあ、行きますね? では──」
俺はそそくさと、その場を後にする。
実際の所、門番の事はよく知っている。この街は拠点から近い街だから魔物に襲われた時とかはよく救援に来ていたからな。
それにこいつとは飲みにもよく言った記憶がある。
「──まさか──記憶が!?」
そんな声が後ろから聞こえてきた。
なんか勘違いさせたが、別に大丈夫だろう。
しかし、この様子では俺がこの街にいる事が直ぐ広まりそうだな……。
早く髪の毛を染めよう。
それだけでぱっと見ではわからないはずだ──
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