第8話

 昨日の夜、覚悟をしていたのにエルク様は私を事なく寝てしまいました。



 好き!? もしくは?! まさか!?


 ──と思って、道中に聞きますがどれも違うと返答されます。


 魅力的な女性ではないという事実だけが突き刺さりました。


 しかも、処女はダメらしいです……前世では男の人にとって処女は大変嬉しいと聞きましたが、この世界では違うのでしょうか?


 それともエルク様は特殊なをお持ちとか?


 そして、私の中で一つの考えが頭を過ります。



 ──まさか、好みでは無い私は売られる?!



 私は不安になり、ご主人様に私を売るのか聞くと──


「え? 何で?」


 と言われます。


「だって……男の人が女の人の奴隷を買うなんてそれしか理由がありません……魅力が無い私は売られるしか……」


 実際の所──


 私はエルク様の元から離れたくありません……。


 当然ながら打算もあります。


 高価なエリクサーで傷を治すような良い人な上に奴隷にも普通に話し、物として扱わないでいてくれる人柄はとても好感が持てます。


 それに胸は揉まれましたが、それ以上の事はされないとわかりました。側にいれるなら胸ぐらいいくらでも揉ませてあげてもいいです!


 最悪は抱かれても、私に価値を見出してくれるならと思っています。


 しかし、売られたりしたら──


 今度こそ貴族に買われて、私は弄ばれて死ぬかもしれません。


 頭の中で売られた時の想像が巡り、涙が溢れ出て来ました。



「ちょ、何で泣く!? 売らないぞ?! マイには料理とか身の回りの事やってほしいし?!」


「……本当ですか? 無能で処女で魅力が皆無なのに?」


「本当、本当。俺は元々、その為に奴隷を買う予定だったんだ。マイが手に入ったから当初の予定通り家事をやってもらうつもりだったんだが!?」


「……処女って男性にとったら嬉しいって聞いてますよ?」


「……それは──あれだ……俺の抱いた女達が処女だったからだ……」


「…………」


 私はエルク様の答えに涙が止まり、ドン引きします。


 まさかの処女キラー……しかも処女である私は射程外……。



「──待てッ! その顔は誤解しているッ! 俺は断じて好きで処女ばかりを抱いたわけじゃないッ! 俺は被害者なんだッ! 実は────────────────────」


 ここからエルク様は怒涛の勢いで以前いたパーティの事情などを話し出します──



 簡単にまとめると──


 以前いたパーティはSランクらしく、入る前にエルク様がボスを探して共闘したそうです。


 敵のボスはだったみたいで強力な『の術』を使われ、メンバーの人達は本能に従ってエルク様に対して発情したそうです。


 おっぱいを擦り付けたり、キスされたりしたらしく、このままでは全滅すると思ったエルク様は死に物狂いでさせて正気に戻し──なんとかボスを撃退したそうです。


 ですが、戦闘が終わっても発情の効果が完全に切れておらず──メンバーから胸を揉んだりした責任を取れと言われて押し倒され、全員の処女を頂いたと……。


 いえ、この場合は襲われたと言った方がいいですね。当時のエルク様は新人冒険者らしいですし、相手は全員がSランク冒険者で抵抗出来なかったみたいです。


 そして、そのまま成り行きでSランクパーティに入った。


 しかも、メンバー以外を抱くと強力な悪魔が現れる『魔契約』しているらしいです。その為、私には手を出していない──


 そう、言います。


 浮気防止の為に魔契約とは……異世界は怖いな、と思いました。


 とりあえず売られないとわかって安心しました。



 しかし──


 話の中で特筆すべき点がありました。


 たった一年でAランクまで上がったという点です。


 エルク様は新人でありながらSランクパーティで一年ものは凄い事だと思いました。


 それに──スラム育ち。

 前世で言う、ストリートチルドレンですが、この世界ではスラムで子供が生きていくのは過酷です。犯罪奴隷と変わらない扱いを受ける事が多く、子供の大半が大人になるまでに死んでしまうと聞いています。


 それに通常、犯罪奴隷なら好き放題されると聞いていましたが、スラム育ちのお陰なのか、この方は私を1人のとして見てくれる。



 それに、あれだけ必死に言い訳をするという事は誤解されたくないという事でしょう。


 つまり──


 脈アリかもですッ!


 少し自信が戻りましたッ!



「理由はわかりました……それで、これからどうするんですか?」


「そうだな……一応、諸事情で次の街でまた冒険者登録をする予定だ。少し拙い事になってな……さっさと登録を済ませて国から出たい」


 諸事情?


「拙い事とは?」


「なんか元パーティメンバーに俺がのがバレたかもしれないんだよな……」


「え!? 生きてるのがバレると拙いんですか??」


 そもそも死んだ事になってるの!?


「かなり拙いな……なんせパーティを抜けたいが為に死んだ事にしたからな……マイ達の馬車を助けた時にあの奴隷商人に口止めをするの忘れてた……バレててもおかしくない……」


「なるほど……それはバレたら怒ってそうですね。では、まず冒険者登録をし直して新生活をスタートするという事ですね?」


「おぉ?! 理解が早いな。そんで、2人でどっか遠い所で適当に稼いで生活して行こうと思う。何か異論があれば言ってくれていいぞ」


「元パーティメンバーってさっきの話に出てきた人達ですよね? きっと、エルク様は相当好かれてると思うのですが──謝ったら許してもらえませんか?」


「──無理だな。捕まれば──まず俺は誰もいない小屋で監禁されて手足をベットに縛られる事になるだろう。その後は……数日間は間違いなく搾り取られ──蹂躙される。仮に戦闘になれば敗北必須だ。マイはSランクのヤバさを知らないだろ? あれはもはや化け物だな……」


「…………」


 聞けば聞く程──その人達はアマゾネスという男を拐ってしまう種族かと思ってしまいますね……。

 アマゾネスも気に入った男を拐って子供を作るらしいですしね……。


「それに──マイも捕まればどうなるか予想がつかない。お互いの安全の為にどこか遠くに逃げる必要がある」


 それ捕まったら、私殺されるじゃないでしょうか?


「──2人で必ず逃げ切りましょうッ!」


「そうだな。その為にも──マイがどれぐらい戦えるのか知りたいから、あそこのゴブリンと戦ってきてくれる? もエリクサーで解けてるからいけるはず。武器が必要なら出すぞ?」


「え?!」


 呪い?!


 まさか──


 昨日から調子が良いのって……呪いが解けたから?


 私は無言で試しに魔術を使います──

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