第6話
俺はマイの自我を引き戻す為に胸を揉んだと堂々と伝えたら──
何故か泣かれた。
まさかとは思うが、良かれと思って治療を行った事が、白昼堂々と手を出す畜生だと思われたのか?
俺のいたパーティじゃ普通の事だが──よく考えればこれってセクハラだなッ!
うん、俺は畜生かもなッ! まぁ、世の中には奴隷にもっと好き勝手にやる奴もいるからまだマシだろッ!
まぁ、どちらかと言えばエリクサーを使った事に感謝してくれているのだろう。
そう思いたい……。
さて、旅を続けたいのだが──
マイが全然泣き止まないんだよな……さっきからずっと抱きしめて背中をトントン叩いているんだよ……。
とりあえず料理が作れるのはわかったから一安心だな。
毒の事案も前世の料理を作らせなければ問題なさそうだしな。
そんな事を考えていると──
ぐぅ〜、とマイのお腹から聞こえてきた。
「マイは腹が減ったのか? もう夕暮れだしな。飯にしよう。とりあえず何も材料が無いからこれでも食っとけ」
俺は『日替わり定食』を出す──
「ハンバーグ定食!?」
日替わり定食を見たマリは驚き声を上げる。
ハンバーグ定食? なにそれ……これ名前とかあるのか? 日替わり定食だから中身バラバラなんだけど?
「まぁ、何でもいいから美味いから食ってみろ」
「──はぐッ、はむッ──」
俺の言葉を皮切りに凄い勢いで食い始めた。
まぁ、まともに食事もしてなかったのだろうが……凄い勢いだな……。
見た目が治って美人さんになったが、食い方を見てるとあいつらを思い出すな……。
「──おかわりッ!」
「……はい」
俺は追加で日替わり定食を与える。
なんか動物に餌をやっている気分だな……けっこう大量に日替わり定食貰ったけど、この勢いなら直ぐになくなりそうだな……。
これもこの為にいつもより量が多かったのだろうか?
俺はマイに視線を移す──
ひたすら食事を食う音が聞こえてくる……。
平和だ……こんな日常が続けば嬉しいものだ……。
◆
俺はBランク冒険者のプリッツだ。
1人、酒場で酒を飲んでいる。
今頃、俺の飲み仲間であり、親友であるエルクは旅を謳歌している頃だろう。
あいつに貰った金で飲み過ぎたな……既に意識が飛びそうだ。
そういえば、エルクは一緒に飲む度にパーティを抜けたいと言っていたな……まぁ、確かに『慈愛の誓い』は知っている人からすると危険度もSランクだからな……口説こうものなら手足の一本は確実に飛ぶからな……。
まぁ、ギルドにちゃんと死亡報告をしてやったから、どっかでまた一から冒険者登録をするだろう。
しっかし、エルクの野郎──
弱いとか言っておきながら、ちゃっかりドラゴンを撃退して去るとはな……さすがだぜ。同期として誇らしいぜ。
そういや、冒険者ギルドが命を賭けて街を守ったからと──
名誉報酬で冒険者ランクがSになってたな……まぁ、街を救った貢献ってやつだ。
生きてるのがバレたらヤバい気がするが、あいつならなんとかするだろ。
なんせ──
『先見』のエルクだしな。これぐらいは予想の範囲内だろ。
あいつは不思議な奴だからなぁ……用意周到で任務の度に先を見越して行動しやがる。今回だって、ドラゴン相手に街に被害を出さないように上手く立ち回っていた。
本当すげぇ奴だよ……。
のんびり暮らしたいとか言ってたが、どこに行っているのやら──
「あいつの今後に乾杯──」
俺が酒を片手にそう言うと──
「「「エルクが死んだッ!? しかも脱退した後?!」」」
聞いた事がある声に酒を吹き出しそうになった。
……『慈愛の誓い』のメンバーだ。
この酒場にいたのか……旅行から帰ってきたのか? 全然気付かなかったな……。
というか──
すげぇ殺気だな……周りにいる連中なんか気絶してるぞ?
俺も逃げ出したい……しかし腰が抜けて動けん。これでも俺はエルク程ではないが、Bランクなんだがな……。
こんなのが日常茶飯事ならエルクが逃げ出したい気持ちもわかる気がする。
ちなみに今いるメンバーは──
リーダーの魔法剣士、回復士、魔術師、鞭使いか……酔ってるせいか名前が思い出せん……他のメンバーはいないな。
そんな殺伐とした状況の中──
「はい……私がギルドに聞いた話ではパーティを抜けた後──その直後にドラゴンが襲ってきて……ドラゴンと相打ちした勇敢な冒険者だったと噂されていました……」
ギルドで事情を聞いた回復士のメンバーが話出す。
俺の情報操作は上手くいっているようだな……安心したぜ……。
「エルクがドラゴン如きに死ぬわけないでしょうがッ!」
次に声を上げたのはリーダーの魔法剣士だ。
……実際ちゃんと生きてるからな……。しかし、ドラゴン如きか……やっぱ、あいつ強いんじゃないのか?
実は周りが強すぎて自身を過小評価してるとかか?
そういや、けっこう前にドラゴンの巣の中で戦ったとか言っていたな……。
「ですが、遺品もありますよ? これです。見た事の無い折れた剣と私達が渡したネックレスです……」
おっ、その遺品は俺が預かったやつだな。
ドラゴンを撃退する時に使って折れた剣とエルクがつけてたネックレスだ。
『このネックレスさえ渡せばメンバーは疑わないはずだ』
そんな事言ってたな……なるほど、プレゼントされたネックレスなのか……。
あいつ、めっちゃ仲間に好かれてんだな……羨ましいぜ……しかも美人ばっかだし。俺も美人な姉ちゃんとパーティ組みたいぜ。
『慈愛の誓い』のメンバーは確かに怖いが、俺なら美人に好かれて悪い気はしないんだがな……。
「──ちッ、これじゃ生きてても探しようがないじゃないかッ!」
鞭使いのメンバーが舌打ちをして吐き捨てるように言う。
なんか聞き捨てならない言葉が聞こえてきたぞ?
「そうですね……追跡機能付きでしたから……ちなみにエルクは生きてますよ。私の契約魔法の効果は残ったままです」
次に答えたのは魔法使い。
エルクは位置を常に把握され、契約魔法まで使われているのか……。
──前言撤回だ。
こりゃあ逃げ出したくもなる……。
「他のメンバーは?」
「念の為に街を捜索するそうです。ギルドで面白い話を聞いたので」
「面白い話?」
「えぇ、奴隷商人が通りすがりの男の冒険者に盗賊から救われたそうです」
「……それで?」
「その者は『慈愛の誓い』の一員と名乗ったらしいです」
「──なるほど。いつものガセ情報では?」
「それが面白い事にその人は珍しい魔術を使ったそうです。いきなり何百人と増えたそうですよ?」
「──間違いなくエルクだな。そんな事が出来るのはエルクしか知らない。なるほど、他の者はそれで一応街中を探しているのか」
うおぉぉいッ! エルク何してんの!?
馬鹿なの!? お前パーティ抜けたんじゃねぇの!? 何、名乗ってんだよ!?
しかも、お前しか使えねぇ魔術なんか使うなよ!?
「更に言うと──おっぱいの大きい犯罪奴隷を1人譲り受けたそうです」
「──そうか」
その場の空気は怒りに満ちた。
あれはまさしく──嫉妬に狂った目付きだな。
「いつも通りだな?」
「当然。次が無いように最初に見つけた者は蹂躙してOKよ。さぁ全員集めて──行くわよッ」
「「「応ッ!!!!」」」
全員が一目散に外に出ていく──
とんでもない話を聞いてしまった……我が飲み仲間で親友のエルクよ……どうか無事を祈る……。
また捕獲されたら愚痴ぐらい聞いてやるよ……それまで譲り受けた奴隷と仲良くな?
俺は合掌した後、酒をまた飲み始める──
◆
「さて、朝になったな……」
俺は昔に【
このテントは凄い高性能で中は空間拡張され、温度も快適に過ごせるという便利なテントだ。
ちなみにマイはすやすやと寝ていたのでそのまま寝かせている。
相当疲れていたのだろう……。
もうすぐ街に到着するだろうし、もう少し寝かせても問題ない。
荷馬車にずっといたから体力も無いだろうし、最悪は俺がおんぶして連れて行けばいい。
しかし、寝返りをする度に豊満なおっぱいがムニョンと揺れて眼福だったな。
まさか、渡した肌着のボタンが弾け飛ぶとはな……完成されたおっぱいではなく、成長段階のおっぱいの張りはやはり違うな……しかも昨日触った感じ、張りと柔らかさを併せ持っている。
これから成熟していくと思うと親の気持ちになった気分だ。
奴隷に手を出さなかったのかって?
これが出せないんですよね……『慈愛の誓い』以外の人に手を出した瞬間に魔契約が発動するらしいんだよな……手を出すってのは男と女のあれだ。
なんか契約違反は悪魔さんが現れるらしいんだ……しかも討伐ランクS相当で、術者に場所も教えるらしいからな……もし発動して捕まった時の事を考えると怖くて手が出せねぇよ……。
ちなみに──この魔契約はプリッツと娼館に行こうとした時にバレてさせられたからな……。
あの時は殺されるかと思ったな……。
俺の加護が便利で手放したくないのかはわからないが……そこまで束縛しなくて良いと思うんだがな……。
まぁ、俺って愛されキャラだからなッ! 怖いぐらい愛されてたと思おうッ!
あっちはプリッツが上手くやってくれたと祈ろうッ!
さて、気分を変えよう。
──そうだ。今日の日課をするか。
俺は【
ピコンッ、と音が聞こえてきた。
こんな事は初めてだな……。
そして文字が表示される──
『逃亡ルーレット』
──と。
「は? 逃亡? 意味がわからん……」
直ぐにルーレットが現れる。
今日は選択肢が見えるタイプの円盤ルーレットだな。
項目は──
①魔道具『変装グッズ』
②高級日替わり定食×10
③『変装』スキル
④『身体強化』スキル
⑤『分身』スキル
⑥高級ポーション×20
⑦魔道具『透明マント』
7つか……。
しかも──このチョイスは嫌な予感しかしねぇんだが?
この選択肢を見ていると──
俺が何かに追われるのを示唆しているように感じるな。
最近の感じだと何かから追われるのか?
「──『逃亡ルーレット』って──」
まさかあいつらに俺が生きて逃げているのがバレたのか?
そういえばマイを助けた時の奴隷商人に口止めはしてなかったな……もしそこからバレた可能性を考慮すると──
──非常に拙い。
わざわざパーティまで抜けて死んだ事にしたから──捕まればどんな目に合うか予想がつかない……。
しかし……『逃亡ルーレット』か……。
あいつらと戦闘になれば当然ながら勝ち目はない。
高級日替わり定食は間違いなくハズレだ。これが当たれば俺の人生はまた逆戻りだな。
これが当たった場合の意図は『美味い物でも食って諦めろ』という感じだろう。
いつもなら嬉しい高級ポーションも今回は間違いなくハズレ扱いだ。これは相対した時に傷を負った時用だと推測出来る。しかも20個……これはそれだけの重傷を負う事を示唆しているのであれば相当拙い……。
当たりはそれ以外だ。
魔道具が当たればおそらくやり過ごせる可能性が高い気がする。
スキルもかなり良い気がする。
『透明マント』が1番の当たりだろう。これさえあれば逃げ切れる。
『変装グッズ』と『変装』スキルもやり過ごせそうなので当たりだ。
『分身』はよくわからないが……おそらく『幻影魔法』のような効果なのだろう。似たようなスキルならハズレだな。
『身体強化』が当たれば逃げ切れる可能性が高まるし、今後の戦闘にも役立つだろう。
当たりは──
魔道具の『透明マント』
『変装』スキル
魔道具の『変装グッズ』
『身体強化』スキル
ハズレは──
『分身』スキル
高級ポーション
高級日替わり定食
だろうな……。
なんとかハズレ以外が当たってほしい……。
「──マジで頼むッ! こんな所で詰みたくないんだッ!」
物欲センサーMAXでルーレットを開始し──
正座した後、合掌する──
俺の願いよ──
天に届けぇェェェェェッ!!!!
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