第5話

「「…………」」


 奴隷商人と別れた後、俺とマイはずっと沈黙したままだ。


 一応、俺から話しかけはするが反応が無い。聞いていた通りコミュニケーションが取れない。


 一応、頷いてはくれる時もあるのだが、不便過ぎる。


 心ここに在らずか……どうしたものか……。


 俺は手元のを見る。これならば心以外の傷は癒す事が出来る……それに呪いも解呪出来るだろう。


 やはり、これもこの子の為に神様が送ってくれたような気がするな……。


 売ればしばらく遊べるぐらいのお金が手に入るが、俺にはこの子を見捨てる事は出来ない……。


 女の子はやはり元気で笑顔なのが1番だ。あいつらみたいに悪寒が走るような笑い方じゃなくて無邪気に笑う方なッ!


 せめて、俺が引き取った以上は見た目ぐらいはなんとかしてやりたい。


 それに戦闘じゃダメダメな俺が出来る事なんてこれぐらいしかないしな……。



 また神様が何か高級品をくれる事を祈るか──



 俺は無言でエリクサーをマイに振りかける──


「…………」


 マイの表情は変わらないし、話す事はない。


 だが、傷口はたちまち完治していく──


 さすが──ごく稀にしか手に入らない最高ランクの回復薬だな。鑑定を使って見ると、呪いも解けている。


 呪いが解ければマイの加護の文字も見えるかと思ったが文字化けしたままか……。



「マイ──」

「…………」


 再度、声をかけるが──やはり返事は無い。目も虚のままだ。


 精神的なショックで自我が軽薄なのだろう。


 やはり、心の問題は薬や魔法では難しいな……。


 だが、女の子を正気に戻す方法を俺は知っている。


 なんせ──


『慈愛の誓い』に入るを作った方法だからな……もはやになっている。


 あれ以降も回復士がいない時は、この方法でよく混乱などの精神異常状態を正気に戻したものだ……。



 要は──感情を呼び戻せば良い。簡単な事だ。


 もう二度と使う事が無いと思っていたが──


 一度でも正気に戻れば、きっとこの状態からは解放されるはずだ。



 だから俺はやるッ!



 俺はマイに近付く──



 そして──



 にした──


「……」


 その場に沈黙が支配する。


 うむ、これで正気に戻らない場合は──



 ッ!



 俺は発育の良いおっぱいを揉みしだく──



 しばらくすると──


「……んふぅ…あ、あぁ…ん……んん……」


 喘ぎ声が聞こえてきた。



 うんうん、良い反応だッ!


 これならもう少しだろう。



 ここで、更にをつけるッ!


「──あッ、アアッ!? んん──ふぅん……」



 すると、マイは恍惚の表情を浮かべながら、目は少しずつ正気を宿す──



 そして──


 マイの焦点が俺に合った瞬間──



「──キャアァァァァァァッ」



 叫び声と共に俺はグーパンを顔面に放たれるが、紙一重で避ける。


 攻撃が当たると奴隷紋で激痛が走るからな。



 良し、ちゃんと声も出たし、何よりこれで自我の解放が成功しただろう。



 そして俺は──


「やっと目が覚めたなッ! マイ、俺はエルクと言う。よろしくッ!」


 すかさず自己紹介をしたが──



 酷く怯えられた。



 これが俺とマイの出会いだ──




 ◆




 私はマイ。


 転生者として異世界に生まれました。


 転生する時に神様と出会って、私に世界を救ってほしいと言いました。その為に強力なを授けてくれるとも……。


 しかし、私の生まれた村は酷く貧しい村でした。


 同年代の子供達が突然いなくなったりする事も多く、何故かと調べると奴隷として売られたそうです。


 この世界には奴隷制度があります。


 買われた先が変態貴族なら体を散々弄ばれて殺されるなんて話はよく聞きます。


 それに解放もちゃんとした人に買われないと難しいらしいです。


 私はそうなりたく無いと小さい頃から勉強や魔法などを習得し、加護のお陰なのか──神童と言われます。


 それに私は発育も良く、将来は美人になれると周りからよく言われました。


 世界を救うなら、冒険者として旅をする方が都合が良いので戦闘技術をどんどん身に付けます。



 ですが、冒険者になれる1年程前を境に今まで出来た事が出来なくなってしまいます。


 しかも加護を授けられたはずなのに調べると何故かと言われました……。


 それでも諦めずにがむしゃらに頑張ります──



 どれだけ頑張っても以前のように動けない、魔法が使えない。


 私は絶望感に襲われていると──


 ある日、両親は私を売ろうという話をしているのを聞いてしまいました。どうやら奴隷商人が私に目を付けたそうです。提示された金額に両親の心は動いていました。


 このままでは売られてしまう──


 それを避ける為に計画を練ります。


 村の特産品は卵です。それを使って村起こしをしようと決意します。


 世界を救えなくても、村の人達から必要とされれば私は普通の生活は送れるはずです。


 そして、日本で定番のマヨネーズを作りました。ラノベではこれで成り上がる話を良く見たので……。


 しかし、試食会の時に全員が謎の腹痛で倒れてしまって計画は失敗します。


 原因を調べると私の使ったマヨネーズに毒物が入っていたと断定され、私は村の人達から殴られ、蹴られ、刃物や鈍器で死ぬ寸前まで痛めつけられました。


 その後は最低限の治療だけされて、たまたま通りがかりの奴隷商人に売られ、犯罪奴隷として馬車に乗せられます。


 私は思いました……何故こんな目に合わないとダメなのか──と。


 心底、神様を恨みました。



 その時の精神的なショックで私の心は壊れます。声も出なくなり、人の顔もモヤがかかったように判別出来なくなりました。



 そこからの意識は途切れ途切れです。



 馬車に揺られながら、景色を眺めていた気がします。


 その道中、周りの人達の慌てていました。


 視線を上げると盗賊らしき人達がいました。



 やっと──



 私は死ねるんだ。



 そう思いました。



 ですが、死ぬ事は叶いませんでした。



 旅の冒険者らしき人が助けたようで、その人に私はお礼として渡されます。



 2人きりになってから私は再度放心しました。


 何で死なせてくれなかったのか……何で助けたのか……。


 もう何も信じたく無い……。



 ボーッとしていると胸に違和感を感じます。



 これは──間違いなくを揉まれている。



 しかもこねくり回すように優しく、時には強く──


 そこで私はいる事に気付きます。


 このままだと犯される──


 せめて綺麗なまま死にたい。


 そう思った瞬間には手が出ていました──


 奴隷紋を付けた状態でご主人様を攻撃すると全身に激痛が襲うと言われていますが、その時は無我夢中でした。


 私の所有者目掛けて放った拳は避けられ──


「やっと目が覚めたなッ! マイ、俺はエルクと言う。よろしくッ!」


 そう言われました。


 この時に意識がはっきりとした気がします。


 ですが、顔はもやがかかったように見えません。


「…………」


 私は咄嗟に考えます。この人に奴隷として引き渡されたのは理解しています。


 いきなり胸を揉むような獣のような人の奴隷だと思った瞬間に血の気が引いていきます。


 私はこれからこの人に犯され続ける毎日を送るのだと──



 でも、今の私は醜い……。


 そう思うと頭が一気に冷えます。


 抱かれる事は無い──


 だけど、弄ばれて死ぬ──


 そう思いました。



 私は頭が真っ白になっていると話しかけられます。


「マイは料理は出来るのか?」


「…………はい……」


「そんなに怯えるなよ……あッ!? あれか! 胸揉んだのが拙かったのか!? すまんすまん、普通はあんな事しねぇんだわッ! 俺が前にいたパーティじゃ、あれで意識を引き戻してんだ────」


 凄い勢いで言い訳を言われます──



 でも、顔はボヤけて見えないけど、慌ててる姿を見ていると悪い人に見えない……胸を揉んだのも私の意識を引き戻す為にやったようだし……。


 他に方法は無いのかと問いただしたい気持ちではあるけど……。



 ふと──体を良く見ると聖女様が使うような魔法じゃないと治せない傷が治っていました。


 ……村の人達に無理矢理引っ張られて皮膚ごと抜け落ちた髪の毛も生えてる?


「う、そ……何で治ってるの?」


 それに話せてる?

 そういえば、さっき私叫んでた?


「ん? あぁ、エリクサー使ったからだなッ! 感謝しろよ? けっこう高いんだぜ?」


 そんな伝説級の回復薬を奴隷なんかに使う人がいるなんて──



 私はその場でペタンと座り込み──



 わんわんと泣き叫びました──



 この人は良い人だ──



 救いはあったんだ──



 そう思いながら悲しみを吐き出した後、私はご主人様を見たら顔のもやは消えて──



 無邪気に笑う顔が見えました。

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