第4話

「誠にありがとうございますッ! 『』様のパーティメンバーとは恐れ入ります。あいつら蜂の子を散らすように行きましたね!」


「いえいえ、困っている人を助けるのが俺の信条ですから……」


 俺は助けた奴隷商人に対して堂々と嘘をついている。

 既にパーティは抜けているからメンバーではない。しかも死んだ事になっている。


 いかんせん、盗賊の数が多すぎたので戦闘前に暴露した……。


 いやだって、多勢に無勢だし?


 俺の実力で大人数を相手に出来る力なんてないからなッ!


 スキルの『幻影魔法』で大勢いるように見せたのも決定打だったようだ。このスキルは昔から使っていて本当に便利だ。


 お陰で戦闘にならずに盗賊は血相を変えて逃げ出した。


 これが俺の策だッ!



 まぁ、俺は『慈愛の誓い』で唯一の男だからな。


 そのせいで凄く有名なのだ。盗賊にも俺を知っている奴らがいて助かったぜッ!


 俺ってば──噂では陰の実力者と呼ばれるぐらいだしッ!


 まぁ、俺自身は全くもって普通なんだが……噂の独り歩きは怖いなと思う。


 あいつらって盗賊狩りを趣味でするぐらい無茶苦茶だからなぁ……まぁ、そのお陰で今回は簡単に事を済ます事が出来たんだが……。



 そんな事を考えていると奴隷商人が話しを続けてきた。


「私は王都で奴隷商をしている者です」


 うん、知ってる。明らかに奴隷らしき人達が荷台に乗ってるし……。


「そうか」


「今回は非常に助かりました。お礼に1人奴隷をお譲り致します」


 うん、そんな予感がしてたよ。


 実は既に言う事は決めている──


「そうか……では奴隷で料理と戦闘が出来る者を頼む」


 俺は堂々とした態度で希望を伝える。


「か、かしこまりました。少々お待ちを──」


 奴隷商人は急いで奴隷を見繕いに向かう。



 今回、断るという選択肢は無い。


 奴隷と言えども種類がある。


 大まかには犯罪奴隷、借金奴隷に分けられる。


 借金奴隷なら給金を出して解放が義務付けられているが、犯罪奴隷は余程なことが無い限り一生奴隷だ。


 犯罪奴隷の扱いは酷くて有名だ。使い物にならないと鉱山送りにされて死ぬまでこき使われる。


 それに前科がある為、買われても他の奴隷に比べて差別されやすい。


 まぁ、主によって待遇は違うが冤罪で捕まっている人がいれば助けてやりたい所だ。


祝福ログインボーナス】では『奴隷』と表示されだが、別に奴隷指定されているわけではない。『竜滅剣ドラゴンスレイブ』(使い捨て)だって使うかどうかは俺次第だった。


 まぁ、ドラゴンの時は逃げる時間がなかっただけなのだが……あのままドラゴン来なけりゃ、剣を売り払う予定だったし……。



 何が言いたいかと言うと、奴隷はという事だ。


 そういえば『鑑定』で冤罪とかわかるのかな?


 冤罪かどうかわかれば不遇な環境の奴隷が1人減るからな。


 そう思っているのだが、奴隷商人は俺が犯罪奴隷を好き勝手に扱うと思ってるようで若干引いていたな……。


 あれか……少し笑ったのがダメだったのかもしれないな。


 母さんが生きている頃、辛い時は笑いなさいと言っていた。

 この1年間ずっと苦境ばかりだったからなぁ……笑うのが癖になっているな……。



 しかし、犯罪奴隷が本当の犯罪者ばっかりだったら借金奴隷にしてもらおう。



 しばらくして──


「申し訳ありません……犯罪奴隷は今回乗せているのは1人だけでして……」


 奴隷商人は1人の黒髪の女性を連れてやってきた。


 女性の目は虚だ。


 それどころか──


 髪の毛は大半が抜け落ち、顔や体中には至る所に傷がある。


 これは誰が見ても買い手がつかないだろう……。



 簡単に話を聞くに──この奴隷商人は貧しい村々を回って買い取っていると言っていた。非合法の奴隷商人ではないはずだ。


 酷い扱いはしていないはず……おそらく奴隷になるまでにここまで酷い扱いを受けた可能性が高いか。



 そんなに酷い犯罪を犯したのか?



 この黒髪の女性は俺と変わらないぐらいの年齢だ。おっぱいは大きい。傷さえなければ貴族などに買い手はあるだろう。



 とりあえず気になるのは──


「……罪状は?」


 別に容姿にこだわりは無い。罪状が軽ければ俺が養っても良い。料理が出来るとありがたいがな。


「毒殺未遂です」


 ……マジ?


 いや、それより料理が出来る事を希望していたが、罪状が本当なら俺毒殺されるんじゃね?


「詳しく」


「とある村で怪しい調味料を使った料理を村人達に振る舞ったそうで、それが原因で村人全員が病に倒れました……その後に村人により散々傷つけられたようで……それに毒殺はかなり重罪でして……買い取ったものの──中々買い手もつかないだろうとそのまま鉱山へ送りに……」


 うん、アウトだな……罪も重い上に冤罪の可能性が無さそうだ……。


 可哀想ではあるが借金奴隷に変えてもらうか……いや一応『鑑定』を使うか。


 ──鑑定。


 名前:マイ

 加護:【???】

 呪い:【邪神の呪い】


 マイは転生者として生まれる。

 だが、1年程前に加護の能力が無効化される呪いを受けてしまい無能の烙印を押される。それでもめげずに生きてきた。

 そして、ある日──親がマイを奴隷商人に売ろうとしている事に気付く。

 マイはなんとか自分の価値を見出そうと貧しい村の為に少しでも食事事情を良くしようと前世の記憶を使い。前世の調味料であるマヨネーズを作った。

 しかし、不幸な事に前世の調味料の配合はこちらでは毒の配合になってしまう。

 そして、村人より集団リンチにされ──体にも心にも深い傷を負ってしまった。

 あぁ、なんと可哀想なマイちゃん……まさか事情を知って見捨てるような人はいませんよね?

 それにこの子はかなりの美人さんですよ? おっぱいも大きいし、安産型ですッ!

 な・に・よ・りッ! でこれですからねッ!?




 …………なんだこれ?


 いつもの『鑑定』じゃないんだが?


 なんだよ、この説明文は!? 誰が書いてるんだ?!


 それとマヨネーズって何だ!?


 あと、最後のプレゼンは絶対俺に向けて言ってるよな!?



 な・に・よ・りッ!


 こんなの知ったら見捨てられないじゃねぇか!? 


 というかマイ──お前不憫過ぎるだろッ!!!!


 冤罪ではないが、村人を救いたいという心意気に俺は感動したぜッ!


 決して最後のプレゼンで敗北したわけじゃないとだけ明記しておく!


 そう、俺は決して『既にリーシェさんクラスに近いおっぱいなのに、まだ成長するのか?!』と思ったわけじゃない……たぶん。



「──よし、そいつを貰おう……」

「は? 毒を盛られるかもしれませんよ? しかも精神的ショックが大きいようでコミュニケーションがとれませんよ?」

「構わん」


 これ以上、何かを言われても買う事は決定した。


 物怖ものじせずに言い放つ。


「わ、わかりました。では──奴隷契約を行います──」


 俺が意見を変えない姿を見て、奴隷商人は慌てて奴隷契約を行う──




 この日、俺は神様の【祝福ログインボーナス】により──



 おっぱいの大きな奴隷を手に入れた。しかも成長途中の……。



 確かに奴隷が欲しいとは思った。



 誘導された感が半端ないが……。



 そして、奴隷を手に入れた俺を奴隷商人が畏怖していた事は見なかった事にした。


「……せめて救いのある死を──」


 そんな呟きも聞こえてきたが──



 殺したりしないからなッ!?



 そう思い、頬を引き攣らせながら奴隷商人を見送った──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る