第45話
目の前で、お芝居みたいなやりとりが行われているのを見つつ、静流は、(僕の情報の話・・・)と、心の中で悲しんでいた。
どうやら、静流が舞財と鳥居を引き継ぐらしい、ということを宮原父が確認した、ってことなんだろうけど・・・
「あ、ごめんごめん。しぃちゃんの情報の話だったね。まぁ、そんなだから、戸籍を見ると、しぃちゃんが舞財の子ってのはすぐに分かるし、宮原みたいな家の人だと、鳥居の関係者ってわかるかもしれない。それはわかるね?」
キオの言葉に静流は頷く。
「でね、まだ、実感はないかもしれないけど、それはすごいことなんだ。そうだなぁ、東京ネズミ王国とハリウッド映画村のオーナーに無名の高校生がなった、そんなニュースが流れたよりももっとすごい衝撃、かな?」
うーん、わかるようなわからないような。
「でさ、その2大テーマパークをさ、オーナーがずっと自分専用に貸し切りにしちゃったってなったら、世間はどう思うかな?」
「そりゃ、騒ぐか。」
「だよね。でも、そうなった以上はどうしようもない。オーナーの高校生君にどうにかして、自分にも使わせてもらおうと、人々はいろいろ考えるだろうね。でね、どうせなら、オーナーと仲良くなって、自分たちにも使える日つくってちょうだい、ってすり寄るタイプと、この高校生を自分の下に置いて自分の好きに使うっていうタイプ、高校生を殺して権利をそっくり取っちゃおう、ていうタイプの人達が高校生に寄ってくるんじゃないかなぁ、なんて、僕ら大人は考えるわけさ。」
何それ、怖っ。
「今、しぃちゃんの周りで起こっているのは、それのもっと怖い版みたいな感じかなぁ。」
「そんなの聞いてない・・・」
「うん。でね、僕らはしぃちゃんをそんな大人から守りたいな、と思ったの。もともとはカエデちゃん達夫婦が、上手に舞財の目からすら静流君を隠していたしね。あの事故の前にしぃちゃんが産まれていたことを知る者は少ない。明楽すら知らなかったと思うよ。しぃちゃんのおうちの周りの結界は、そのためにもあるからね。」
「結界って・・・」
「それ、めちゃくちゃ強いぞ。僕、それでえらい目に遭ったし。」
ボソッと、健吾がつぶやく。あれはもうこりごりだ。
「でも、舞財の戸籍は正規の公文書だったから、たどればしぃちゃん名が舞財の中に出てくるの。舞財の後継が決まったら、それを調べようって人もでてくるだろうし?だから、舞財の戸籍自体をS級極秘文書に指定して、一般の目に触れられないようにしたんだ。でね、今は、しぃちゃんの戸籍は井上一・早耶香の子として始まった形になってる。ちなみに舞財明楽は残っていて、早耶香を除籍された以降の関係は消して、そっちからも辿れないようにしたんだ。」
どうやって・・・は聞いちゃダメな奴、なんだろうなぁ、と、静流は思った。
だけど、戸籍にばぁちゃんたちとの繋がりがないのはちょっと寂しいな。
「ちなみに、しぃちゃんが大人になって、もう誰からも危険な目に合わせられないぐらい立派になったら、極秘文指定自体を解除すればいいから。そうすれば大好きなおばぁちゃんたちとの繋がりを公的にも証明できるようになるからね。」
僕の心配なんて、キオはお見通しだ、そう静流は嬉しいような恥ずかしいような、そんな複雑な気分になるのだった。
「静流様。あなた様が両家の当代様であることは、この
「へ?何それ?」
様付けに文句を言おうと思った静流だったが、最後の言葉に、思わず声がひっくり返った。命って・・・
宮原父は、健吾を横に引っ張ってきて自分に並ばせ、その頭を押しつけて、自分と共に頭を下げさせている。
これどういう状況だ?
「しぃちゃん、了承してあげて。」
「でも・・・」
「いろいろ気になるだろうけど、ここは、いっくんの顔をたててあげるべき。一族の当代、というのは、それだけ重いものなんだ。」
「・・・分かった。あの、宮原さん。僕からもお願いします。」
静流は二人に向かって頭を下げた。
「静流様。おやめください。当代様が頭を軽々しく下げるものではございません。」
宮原父が、そう言う。が、静流は首を振った。
「ううん。ありがとうとお願いしますは、ちゃんと誠意をみせるべきだって、僕はおばぁちゃんに、先代の舞財当主に習ったんだ。僕もそれは賛成だし、それを曲げるつもりはないです。引き継いだって言っても、正直なにがなんだか、だしね。でも、ばぁちゃんが大事にしていたものを守りたいって思う。思うだけで僕はなんの力もないけどね。だから、いろいろ助けてください。教えてください。おっかない先生が3人もいるけど、多分それだけじゃ全然足りないんだと思う。だから、宮原家が味方になってくれたら、すごく嬉しいです。」
「まったく、君って子は。宮原はどこかの味方につくことはできないんだけどねぇ。だが、息子の同級生として、個人的にできる限りの力になろう。ハハハ。鳥居は心の殻を、守りを、簡単につついて壊す。君はしっかりと鳥居の人間だな。参った参った。先が恐ろしい子だよ、まったく。」
何がツボにはまったのか、大笑いしながら、宮原父は静流の肩をバンバン叩いた。
イタタタ・・・無茶苦茶痛いんだけど、そう涙目になりながら、静流は見上げるが、まったくこっちを見てもくれない。
「やめろよ、父さん!」
そう言いながら健吾がその手を払いのけてくれた。
「その、静流・・様?」
「やめてよ。様とか。」
「ああ、その・・・だ。僕としては、同級生井上静流、として、付き合っていければ嬉しい・・・んだが・・・その、静流は、分かってるのか?」
「分かってるって?」
「舞財と鳥居って、マジ伝説の一族だからな。いや鳥居はともかく舞財は存在してるから、生ける伝説ってやつだ。そんな当主、なんだぞ。」
「らしいね。」
「らしいね、って・・・ハァ。軽いなぁ。軽すぎるよ。てか、静流は裏の世界のことほとんど知らないんだよな。」
「そんなのがあるって知ったのは2ヶ月前。信じ始めたのはここ最近だよ。オカルトは苦手なんだ。厨二、もね。」
「ハハハ。まぁ、魔法でなんでもできる、っていうよりは、独自の技術で社会を導こうっていうそんな社会があるってだけだけどさ。古い社会だから、色々ルールが大変だ。産まれた時からそんな世界で生きてきた僕でも、悩ましいルールがいっぱいある。だけどさ・・・」
「ん?」
健吾が、静流に見たことのない真面目な顔を向けてきた。
「だけど、さっき父が言ったこと、マジだから。静流の情報が無駄に流れた時、この命をもって責任を取る。そして、僕は、それを強要するこのルールを誇りに思う。」
「・・・やっぱ、僕には分からないや。」
「それでいいさ。静流は新しい風を、裏の世界に持ってくるんだろう。できれば横で、静流の側っていう特等席で、見ていたいもんだ。」
「おい、坊主。その特等席はすでに埋まってるんだ。俺たちでな。」
コーが口を挟んで来た。
「大丈夫ですよ高尚さん。静流の横はそんなに狭くはありません。十分、僕の入る余地はあるはずです。」
「へぇ、言うねぇ。」
「不肖、
健吾はそう言うと、キオ、満、コーに順に深く頭を下げた。
静流は、なんだそりゃ、と、呆れると共に、誓うのは保護者へなんだな、と、不思議に思いつつ、健吾の父をそっと見上げた。
宮原一悟は、微かに苦笑しつつも、満足げに優しそうな目で息子を見ていた。
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