第44話
「ここは・・・あれ?キオさんち?」
静流は、そろそろ見慣れた天井に、今、キオの屋敷で自分に与えられた部屋のベッドの中にいる、と自覚した。
なんで?
自問しながら、記憶にある最後のシーンを思い浮かべる。
満の仕事についていく、という形で連れられた、個人所有の博物館。
確か、呪われているから持っていけ、という話で満が出張った、みたいだった。
そうして、香炉を見ていたら、突然香炉がカタカタ動いて、静流の胸の鳥居の鍵といわれるペンダントが熱を持って光り出したんだ。
そして同時に静流を襲った頭痛。
ぼんやりと聞いた、満の歌え、という指示にすがるように、癒やし歌と呼ばれた、ばぁちゃんに教えて貰った歌を歌った覚えがある。
それからは・・・・
静流は、その後の記憶がないことに気付いた。
気がつくと、このベッドの中だ。
あのあと、どうしたんだろう?
そんな風に考えていると、コンコン、とノックの音。と、同時にコーが入ってきた。
返事をする前に入るなら、ノックの意味がないじゃん、静流は心の中でつぶやくが、今更か。
コーも満も、人のパーソナルスペース、なんて、簡単に無視して、近寄ってくる。
寝てようが、怒ってようが、我関せず、だ。
これが世代の違いなのか、彼ら固有のものなのか。きっと後者だろうな、と、静流は心の中で肩をすくめた。
「よっ、起きたみたいだな。しぃ、どこか調子の悪いところはないか?頭痛は?」
一応心配してきたようだ。なぜ目覚めたのに気付いたか、は、それこそ今更か。
「多分大丈夫。えっと、ここ、キオさんちだよね?」
「ああ。あのあと気絶したお前を連れて、後始末のあと、運んだ。それと、あれな、お前の所有物になったから。」
指さしたのは、香炉だ。
なぜか、小物入れよろしく、紐に通した2つの鍵が香炉の中に入れられていた。
「え?あれ九十九さんのとこのだよね?呪われているとか・・・」
「正式に所有権を放棄した。もともとそのつもりで回収と契約のために満が派遣されたんだ。なんか、ここ1ヶ月ぐらい前から、ちょいちょいカタカタ動くようになってて、管理人はもちろん、数少ない客も見たらしい。SNSとかで、こそっと呪いの香炉とかって上げられてたんだってさ。まぁ、バズリはしなかったけどな。」
「そんな変なのなんでここに置いておくかな?満さんが回収したんでしょ?さっさと文科省に持ってってよ。」
「だから、正式に文科省からしぃに払い下げられたんだって。」
「僕、そんなのOKしてないし。」
「一応、法的に後見はキオだからな。かわりに奴がサインした。」
「そんなのありなの?」
「本当はお前の意志、じゃな、意思?がいるらしい。けど、それ正式に認めさせようとしたら、裁判だぞ。キオを相手取って。」
「マジ?」
「マジだ。一応言っとくが、そうなったら、俺も満もキオにつくからな。サインの時に自分がOK出してない、って裁判所に認めさせられるなら、ご自由に、ってやつだ。」
「・・・・無理じゃん。」
「だな。俺だったら、大人しくもらっとく。ていうか、そもそもアレはお前のもんだ。」
「は?」
「あれ、鳥居の鍵とまったく同じ模様だからな?完全に鳥居のもんだろ?で、鳥居の全財産はお前が引き継いだことになる。紛失物が戻ってきた、ってだけだから。」
「・・・・意味不明・・・」
「ハハ。まぁ、あきらめろ。ちなみにだ。あれからほぼ1日寝てた。そろそろ昼飯だから、降りてこいって。ちなみに今日はイチゴずくしだ。」
「なんでイチゴ・・・」
「そりゃ貢ぎ物だからだろ?」
「ったく。誰が貢ぐんだか。てか、量とか考えないのかな?」
「キオ、だしな。」
「そればっか。」
「ハハ。じゃあ、すぐに降りてこい。・・・あ、そうだ。満の上司来てるから。息子と一緒にな。」
「え?」
静流が驚いている間に、コーは、そそくさと部屋を出ていった。
健吾親子が来てるって?
なんで?
面倒くさいなぁ、静流は、寝たふりをするか、と、ちょっと思った。が、コーがわざわざ呼びに来たってことは、降りなきゃダメだろうな、と、ため息をつく。
起き上がると、知らないTシャツを着ていたし、なんか、汗が気持ち悪い。
ちょっとした悪あがきだが、と、思いつつ、ゆっくりめにシャワーを浴びて、服を着替えたのだった。
ソファで、談笑していたのは、案の定、キオと満、宮原父だった。
一方、コーと健吾がダイニングで、楽しそうに話をしている。
降りてきた静流に、全員が目を向けたが、宮原父だけが、動き出した。
その場でおもむろに立ちあがり、深々と静流に頭を下げたのだ。
「え?何?」
「静流君、申し訳なかった。まさか、気絶するような危険なことになるとまで、思っていなかったんだ。」
「?」
「気付いているかもしれないが、今回の依頼の品は、鳥居一族の魔道具だろうと、推測していた。あの模様は、かの一族が好んで使っていた紋様だからね。」
「魔道具?」
「ある条件を揃えることによって起動する、特殊な道具のことだ。それがどういったものかは、多くの物が秘匿されている。まぁ、逆に汎用の魔道具なんてのもあるがね。城之澤君も光の魔道具は君の前で使っている、と聞いている。」
「ああ、あれか。」
「一般社会には普及していないが、知る人ぞ知る道具、という奴だ。今の科学体系からはみ出す理屈で作られた物全般を、そう呼ぶと思ったらいい。」
「ああ、はい。」
「で、その香炉だが、鳥居の特殊技術が詰め込まれた魔道具であろう、と推測はされていたし、その起動条件の1つは、鳥居の血であるというのは、当然予測された。まぁ、秘匿物は大概特殊なDNAを条件にするからね。」
「えっと・・・」
「申し訳ない。君が鳥居天満氏の孫だというのは、推測できていたんだ。だから、鳥居の後継が公表されたとき、君か、舞財明楽氏のいずれかだとろうとは、思っていたんだ。ただし君がこっちの世界から遠ざけられていたことも掴んでいたから、それは明楽氏だと、正直思っていた。ただ、鳥居の末だと確認するのに役立つのでは、香炉が何らかのアクションを起こすのでは、という期待半分で、城之澤君に君を連れて行って欲しい、と頼んだんだよ。だが、こんなことになってしまった。」
そういわれても、と、静流は思うしかなかった。
なんで、自分が香炉を見て、何かアクションを起こすと・・・いや違うか。香炉がアクションを起こすって言った?
なんだよ。物が起こすって。って、実際起こったみたいだけど・・・
「しぃちゃんも、訳が分かんないよね。ねぇ、いっくん。いっくんはしぃちゃんの味方になるよね?」
キオが言った。いっくん、とは宮原父のことだろうけど・・・
まぁ、これこそキオさんだから、か・・・
「当然です。静流君はせがれとも仲が良い。損得なしで側にいたい、と、この子がはじめて感じた子のようです。」
「ちょっと、何言ってるのさ、父さん!」
健吾が赤くなって、怒鳴る。
「分かってるから黙っとれ。・・・それに静流君はキオ様が育てている子です。敵になる要素がどこにありましょう。」
「ふうん。しぃちゃんの味方、とは言わないんだ。」
「そこは、ご勘弁を。我々、宮原はどこにも属していないからこそ、その情報は信用を得るのです。ですから・・・」
「ん。まぁいいや。宮原は敵対しない。敵対しない以上、得た情報の秘匿要請には応える、と。」
「それは、我が血にかけて。鳥居天満の情報を秘匿していたことをもって信用していただければ。」
「当代と、幹部数名のみが知る、だったね。」
「はい。息子も今はじめて聞いた名でしょう。どうやら、静流君のデータをこっそり探っていたようですので。」
「え?父さん、知ってたの。」
「まだまだ、セキュリティが甘いな、健吾。」
唇を噛んで下を向く健吾。だが、それに静流が首を傾げた?
「僕の情報?」
「しぃちゃんの戸籍ね、舞財と天満があるしね。もともと、しぃちゃんは井上の籍に入ったままだったんだけどね。一応、カエデちゃんたちの養子にもなっていたんだよ。だから、しぃちゃんにとってカエデちゃんは、曾祖母であり母ってことになる。つまり馨ちゃんと法的には兄姉扱いになっていたんだね。ちなみに、馨ちゃん、とっくの昔に相続放棄してたから、正規の相続人はしぃちゃん一人ってことになってる。表の財産は、そういうわけで、しぃちゃんに全部移したから。」
「何それ?」
「ほら、しぃちゃん、もともと弁護士として僕を頼ってきたでしょ。ちゃんと、弁護士だぞって仕事もしないとしぃちゃんに愛想尽かされちゃうからさ。ちなみに裏の方は当主総取りが、常識だから。」
「それって・・・」
「だから、あの香炉もしぃちゃんのね。」
「やはり、当主は静流君、いや静流様でしたか。」
キオが、キラッとちょっと決めた感じで言ったのに、宮原父は、納得をしたように答えた。
キオの言葉は静流が当主であると宣言しているようなものだった。
「そう。舞財と鳥居。両家を静流が継いだ。宮原はこれを記すと共に、秘匿事項とし、舞財にして鳥居静流の名は完璧に伏せよ。」
「はっ。キオ様のおおせのままに。」
静流の前で、まるで王と臣下のようなやりとりが繰り広げていた。
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