第34話

 「宮原健吾、ですか。あの子は確か・・・まぁ、いいでしょ。ちょっと探ってみましょうね。」


 週末、学校がないときは、裏の家に籠もることも多く、その帰りにはキオの屋敷へと招かれることも多い。

 ちなみに、いつの間にか、キオが、裏の家とキオの家のお互いの庭を繋いでいたらしい。

 舞財の血がいるんじゃなかったのか、という問いに、キオは特別だ、と、達観した満の答えがあった。

 よく分からないが、キオはあらゆる術の使い手、らしい。どこまで本当かは分からないが、というのは、コーの弁。


 どちらにせよ、裏の家を挟めば、キオの家はくっついているようなもの。

 それなりに忙しそうな2人が共に家に戻れない日などは、キオの屋敷に行くことも少なくない。


 相変わらず、キオの家で食べる食事は、偏った食材で溢れている。

 今日は名前の知らない豆だらけだった。


 キオは、特に学校の話をせがんでくる。

 授業を受けて帰るだけ、特に誰とも交流もない日々だ。

 大して話すことはないこともあって、その日は宮原の話をしていたのだったが。


 「しぃちゃんは宮原の家のお勉強はもうしたのかな?」

 「え?知らない・・・と、思う。」

 チラッと満を見て、自信なげに静流は言った。

 覚えるべき家の名に、宮のつくのも原のつくのも多い。ひょっとしたら頭からこぼれた家系の一つにあったかもしれない。

 もし、自分が忘れてるのなら満にしごかれるなぁ、やだなぁ、と、思わず静流は腰が引けてしまった。


 「はぁ、静流はひょっとして、忘れたら俺が怒ると思ってる?いや、忘れてたら怒るけどね。ちなみに、宮原の家の人間をまだ課題には入れてない。危険性が低いから後回しになってるからな。」

 「危険性が低い?」

 「ああ。そりゃ覚えなきゃヤバイ奴から覚えさせるに決まってるだろ。お前の命狙っている奴に、ひょこひょこついて行かれたらたまらんからな。」

 「え・・・そういう意味があったんだ・・・」

 「はぁ?じゃなきゃなんでやってると思ってんだ?意味のないこと覚えさせて、できないからってガキをどつき回して喜ぶような、そんな趣味はないぞ?」

 「え、ハハハ・・・」

 違ったんだ、そう思って苦笑した静流の頭をはたく満に、そんなことをするから、誤解するんだろ、とは、口に出来なかった静流である。


 そんな様子に、仲よしだねぇ、とニコニコ笑っていたキオだったが、ちょっと目力めじからを強めて、満に言った。

 「ねぇ、みっちゃん。その同級生君のこと、みっちゃんにまかせていい?親からでもいいから。」

 「はい、わかってます。」

 「それと、コーショー君は、しぃちゃんのお世話お願い。職場には僕の方から言って置くから。」

 「うっす。」


 静流は、急に仕事モードになった3人に不安な顔だ。

 「フフ。しぃちゃんは、ちゃんと高校生しようね。なんだったらクラブ入って青春楽しんだら良いよ?」

 「いや、いいよ。てか、正直キャパいっぱいだし。こっちのお勉強とか減らしてくれればできるかも、だけど・・・」

 少しの期待を込めて、静流は上目遣いで聞いてみる。

 彼らは重要だと、無茶を言ってくるが、彼らのは、少々、いや、かなり、静流にとっては負担だ。


 「フフ。ダァメ。だってしぃちゃん、15年もおさぼりだったんでしょ?必要な力に全然追いついてないからね。」

 それは自分の責任じゃない、そう心の中でつぶやく静流だった。

 

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