第17話

 「大人しく鍵を渡せ。でなければ、ここで死ね!」


 その言葉が合図だったのだろうか?

 コーと睨み合っていた3人が堰を切ったように、飛びかかってきた。


 手前の男が、コーに肩から体当たりをしようと潜り込む。

 が、それを身体を斜めに反らすことによりコーはギリギリで交わすと、たたらを踏む男の背に肘を打ち付けようとした。

 その肘は、背に打ち付ける直前、もう1人の鋭い蹴りに襲われる。

 が、それに気付いたコーは身体を低くして、逆に固めた肘で、足を下からすくい上げた。

 蹴りの男は、背中から床に打ち付けられる。

 そこに、ジャンプして、両足で腹の上に乗ったものだから、蹴りの男は、ウッと小さく呻いて気を失った。


 そんな中、ショルダーアタックの男は、いったん間を取る。


 そうしている間に、もう一人の、どうやら女らしい一回り小柄の人物が、懐から小さなペーパーナイフみたいな刃物を出して、静流目がけて投げてきた。

 ヒィ!

 静流は息を呑むも、すぐに満が頭を抱え、身体を回転させる。

 そして長い足を小さくたたんで、その刃物の腹を靴の裏で蹴った。


 カスン!

 そんな音が鳴る。

 畳の上に刺さるように落ちた刃物は、だが丁度、間を取った最初の男の足下へと刺さった。

 思わずその刃物に視線をやる男に、隙あり、とばかり、コーが拳をたたき込む。

 まともに顎にヒットしたのだろう。

 まるで膝を折りたたむように、そのまま座り込んで気を失った。


 「チッ。あかり、引くぞ!」


 その様子に不利を悟ったのか。

 男は小柄な襲撃者に、そう言うと、自分はさっさと踵を返して、すごい勢いで走り出す。


 「おいっ!」

 コーがそれに声をかけ、追おうとするも、あかり、と呼ばれたその襲撃者は、先ほどと同じ刃物を続けざまに4本、ダーツよろしく投げてきた。

 コーは飛んでくる1本はなんとか手刀で払い落としたものの、残りすべてを手で落とすのは無理と判断、着ていたジャケットに包むようにして残り3本を無力化する。

 その間に、二人は洞窟へと逃げ、姿を消していた。



 「あーあ、逃げられた。」


 呆然とする静流に、コーがニカッと笑って、そんなことを言う。


 「ヒョエーーーー。」


 静流はそんなコーを見て力が抜け、へにゃへにゃと座り込む。

 口からは、ヘンな声が思わず出た。


 「ハハハ、なんだそれ?」

 「あー、怖かったぁ。」

 「ハハ、よく言うぜ。結構の啖呵、切ってたくせにさ。」

 「あれは・・・ちょっと腹が立ったから?」

 「ん?」

 「ばぁちゃんの悪口言われたみたいで、頭にきた。」

 「へぇ。へへへへ、へぇ・・・」

 座り込んだ静流の頭を、コーはガシガシと乱暴に撫でた。

 「やめろよ。」

 「へー、へー、ニシシシシ。」

 静流の抗議を無視し、コーは笑いながら頭をなで続けると、バシン、と満に頭をはたかれた。

 「いってーなー。なんだよ。」

 「静流で遊んでいないで、仕事しなさい。本業でしょうが。」

 「お、今、静流って。いいのかなぁ、依頼人呼び捨てで。」

 「な!いいから、働け!」

 「へいへい、まったく人使い荒いねぇ。」


 ニヤニヤと、満と静流を眺めながら、コーは、気絶から復活しかけている男達の下へと歩み寄った。


 カチャン。カチャン。


 テレビドラマでしか見たことのない光景。


 ジャケットの内ポケットから2つの手錠をコーは取り出し、男達の両手を拘束した。


 「手錠?」

 「ああ、言ってなかったっけ?」

 「さっき、満さん、本業って言ったよね。」

 「ああ。俺は公務員。まぁ、おまわりさんってやつ?」

 「へ?」

 「だって、満だって公務員だし?」

 「そういや文科省?だっけ?」

 「良く覚えていたな。」

 満はそう言うと、静流の頭を軽く撫でた。

 「え?」

 「なんだ?」

 「いや。別に良いけど・・・満さん、キャラ変わってない?」

 「あー、そいつそれが、素な。」

 「素?」

 「今までは、しぃのこと客扱いってこと。けど、もう猫を被らず、仲間として認めたってことだな。」

 「えっと・・・」

 「どうせキオの側に近づけるかどうか、ってことでお前を見てたんだろうさ。」

 「キオ、さん?えっと、弁護士の?」

 「あー、良いんだけどさ。いつまでも弁護士さんじゃ、キオ、泣くぜ。」

 「キオはキオでいい。」

 「あ、うん。けど、弁護士さんって・・・」

 「そっちの仕事もちゃんとやってくれるだろう。で、静流。ここを引き継ぐ、それでいいんだな?」

 「う、うん。」

 「そいつらみたいなやつらがわんさかやってくるかもしれんぞ。」

 「アハ、それはやだな。」

 「だが、まぁ、俺たちがいれば大丈夫だ。」

 「アハハ。そうだね。二人とも強くてビックリだよ。」

 「おぅ。しぃは俺たちでバッチシ鍛えてやるからよぉ。」

 「へ?」

 「なんだ?いやか?」

 「その・・あんまり鍛えるとか、縁遠いっていうか、その、好きじゃないっていうか・・・」

 「好き嫌いの前に、最低限鍛えないとやばいぞ?」

 「僕、じいちゃんに勧められて、空手とか剣道とかやったことあるんだけどさ・・・」

 「うん?運動ダメなのか?」

 「別にそういうんじゃないんだけど。でっかい声出したりとか、後はぶつかると痛いでしょ?痛い思いをするのも痛い思いをさせるのも、気が進まないっていうか・・・」

 「へっ、満よぉ。こいつは鍛えがいありそうじゃん?カエデばぁにやられたこと、こいつに返そうぜ。」

 「フン。甘えてるだけなら問題ない、か。」

 「ちょっ・・・」

 「なんだよ。」

 「やっぱり、遺産とか、拒否して良い?」

 バシッ。

 頭をはたく満のその行為が、どうやら返事のようだった。

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