第13話

 光が示した道を三人は歩いて行く。

 そこは今までの洞窟の道と変わらぬようで、静流に方向感覚を失わせた。


 どれだけ歩いただろうか。

 やがて目の前に突き当たり、に見える扉が現れた。

 扉は、木で出来ていて、縦縞のものだ。横開きのようで、古い家屋で見るようなセンターに横木が組み込まれ、その横木に開くために手を入れる穴、というか楕円のへこみが埋め込まれている。


 城之澤は後ろから静流が到着するのを見計らって、静流に見えるように扉を開こうとスライドさせる。

 が、扉はぴくともせずにまったく動かなかった。

 普通こういう扉なら、立て付けの問題もあって、鍵がかかっていてもガタガタと揺らすぐらいはできるものなのに、ぴくりともしないのが、かえって異様だった。



 「開けるには二つ方法があります。」

 にっこりと笑った城之澤は、静流に向かうと、そう言った。

 「まず第一ですが、静流君の血を扉に塗ります。」

 なんだそれ?

 ほぼほぼホラーだよね。

 「ったく、脅かすなよ満。こいつ、こう見えて相当ビビりだからよ。ま、ビビりに見えるか。しぃ。扉全体じゃなくて、ほら、取っ手の上のところ、あの板に血を軽く吸わせればいい。」

 それでも、結構やばいだろ、静流はそう心の中でつぶやく。


 「フフフ。そしてもう1つの方法です。その指輪、まだ光ってますね。君の血と君の肉を覚えているなら、その指輪を、コーの言った板に付けてください。」

 え?それでいいの?

 「どっちがいいですか?」

 ニコっと城之澤は笑うが、そんなの一択だろ。

 そう思った静流は、ムッとしながらも城之澤の側を通り、扉に近づく。

 凹んだ取っ手の上には名刺大の木の板があって、その中央にはどこかで見た模様が。静流はそう思い指輪を見る。

 ちょうど指輪のヘッド部分がその中央の模様と一致しているように見えた。

 ためらいながらも、静流は模様に合わせて指輪を近づける。

 しばらくすると、扉の境目からうっすらと光が差し始め、自動ドアのようにスライドした。



 唖然と、扉を開く様子を眺めていた静流。

 軽く肩を2度叩かれて、正気に戻る。

 「入りましょう。」

 城之澤の言葉に、静流は扉に足を踏み入れた。


 「おじゃましまぁす。」

 なぜだか、そんな風におどおどと入る静流。

 クックッと、そんな静流のに笑うのは丹川か。

 そこは、普通に古い民家の入り口のようで、たたきの登り口があって、木の廊下に繋がっていた。


 静流が靴を脱いで上がろうとする。

 「あ、靴はそのままで。」

 そんな静流を城之澤は制止すると、横を長い足でさっさと通り抜け、上がってしまう。

 なんとなく、土足で家に上がるのに気が引ける、と思いながらも、靴をきっちりとはき直した静流は、その後に慌てて続いた。


 そこは、不思議な、いいや、静流にとっては、不思議な場所だった。

 否。

 ある意味、よく知っている、と言っても良いかもしれない。


 玄関を入ると廊下の向こうが、8畳の和室だ。そして、和室の左側はふすまを挟んでもう1つ8畳の和室が繋がる。

 玄関を横切るその廊下だが、2間続きの和室の前の廊下は縁側となっていて、逆側、右側に繋がる廊下は正面の和室をグルリと回るように配置されている。

 正面和室の廊下を挟んだ右側は台所。

 台所は土間となっていて、その奥には井戸もある。

 正面和室奥は押し入れになっているが、押し入れの半分はその和室の部屋の反対側にある押し入れとなっていた。

 そちらは12畳の和室となり、台所前の廊下で出入り出来る。

 台所の奥が風呂洗面といった水場。

 12畳の和室の奥は納戸になっている。その納戸の中に何故か2階へあがる階段があって、そこは1階から台所や水場を除いたのと同じような造りとなっていた。


 そして、この造り。

 静流にとって馴染みがあるもので、まさに自分が育った舞財の家と、まったく同じ間取りであったのだ。


 「なんだ、ここ?」

 静流は口の中でつぶやいた。

 まるで自宅をコピーしたみたいだ。

 ただこちらはほとんど家具も道具もなくて、ガランとしているけれど。


 「どうした、しぃ?」

 正面の和室から、グルッと見渡して自分の家とそっくりだと呆ける静流に丹川が声をかける。

 「いや、なんていうか、そっくりだと思って。」

 「フフフ、ご自宅に、ですか?」

 そこへやってきた城之澤が聞く。

 「うん。なんていうか変な感じだ。」

 「おそらくですが、ここの家の相続が、問題になると思われます。」

 「ここの家?」

 「はい。キオならば、あなたが住む表の家、と言いましょうか、貴方が住んでいる舞財の家と、その他カエデの資産を黙って貴方に相続させるでしょう。カエデが死ぬまでにそのことの依頼をしてないとは考えられない。他の相続人にも、そっちだけなら相続に否やを言わせないでしょうしね。だが、彼はここもあなたに相続させるつもりなんでしょうね。だから、何も告げず、指輪を持たせた。」

 「えっと、どういうこと?」

 「簡単に言えば、ここの相続は、法の外にあるということです。」

 「法の外?」

 「ええ。ここは、法的には存在しない場所。登記も何もない、法の及ばない場所なんです。」

 「そんなのって。」

 この法治国家の中にそんなのがあるなんて、静流は聞いたことがなかった。


 「この世の中、いろいろあるんですよ。」

 戸惑う静流に、にっこりと城之澤は微笑んだ。

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