第10話
静流は、今、黙ったまま目の前のお膳を平らげていた。
藁葺き屋根の家につくと、城之澤が二言三言、出てきた人と話した。そのまま、3人は家に招き入れられ、当主、という人物と会うことになった。
「キオが彼を洞窟に案内するように言いまして。」
着物を着た、がっしりとした老人に、丁寧に挨拶をした城之澤は、そんな風に切り出した。
相手は、「それはそれは」、とか言いながら鋭い視線を静流に向ける。
はっきり言って、静流はビビっていた。
山の奥深く佇む大きな古民家。
中は、完全和室の造りで、時代劇に紛れ込んだよう。
だいたい玄関に現れた人だって、着物に白いエプロンをつけていて、ここの使用人とか言うし。
旦那様、とか言われた目の前のじいさんは、ギロッと睨んでくるし。
そもそも、洞窟ってなんだ?
金庫じゃないのか?ふつうにどっかの貸金庫に連れて行かれると思ってたのに、どういう状況だ?
いろいろ聞きたいのはやまやまだけど、言葉を発せられる雰囲気じゃなく、静流は萎縮して縮こまっていた。
「ほぉ、キオ殿が、ねぇ。で、彼は何者ですかな?」
名前を聞かれた、と思った静流が口を開こうとしたところを、遮るように丹川が口を開く。
「悪いがキオの肝いりだ。詮索は無用。」
「ふむ。それは・・・・失礼いたした。では、こちらでは食事のみを所望ということでよろしいですかな?」
「お願いできれば。」
「無論、無論。ハハハ。たまには
基本的には城之澤が相手になることになっているのだろうか、当主と会話を交わし、頭を下げる。
そんなやりとりをしていると、お膳が運ばれてきた。
それと入れ違うように、当主は「ごゆるりと。」などと言いながら、部屋を出ていく。
膳はそれぞれの前に置かれ、持ってきた女性達も頭を下げてそっと出ていった。
かやくご飯、味噌汁、香の物に天ぷら、焼き魚。まさに和の膳の見本のようなものが、膳に乗せられている。
「いただきましょうか。」
城之澤の言葉に箸を取る。
「あの・・・さっき洞窟って・・・」
「うるさい、黙って食べろ!!」
3人だけになったところで、質問をしようと静流が口を開くと、丹川は静流を怒鳴りつけた。ビクッとしてしまい、箸を落とすところだった、と、軽く睨むも、逆ににらみ返されて、静流はすごすごと口を閉じる。
そうして、静流は今、黙ったまま目の前のお膳を平らげているのだった。
しばらく後。無言の食事が終わった頃。
まるで見ていたかのように、当主、が再び現れる。
いや、実際見ていたのだろう。
だから、僕が質問をしようとしたのを止めたのか?そう静流は思い、丹川をチラッと見た。
丹川は少々不機嫌な様子で、当主を見ていたが、こちらの気配を感じたのか、なぜか静流に手を伸ばす。
殴られる!
静流はそう思い、思わずギュッと目を閉じて身構えた。が、殴られることなく伸ばされた手は、頭に置かれ、あやすように軽くポンポンと触れてきた。
え?と驚いて顔を見上げると、丹川はなんだか優しい表情でこちらを見ていた。
「まぁいろいろ不安だろうが、俺たちが絶対守ってやる。大船に乗ったつもりで気楽にやりな。」
小声でそんな風に言う丹川を、乱暴者というイメージからちょっとは上方修正してもいいか、と思ってしまった。
それでも、やっぱり怖いし、城之澤だって不気味だけれど・・・
そんなやりとりをしている間に城之澤が当主となにやら話を終わらせたらしい。
当主は、一緒にやってきた若い女性になにこそこそとささやく。
その人は、今まで会った女性達とは違い、着物は着物でも袴姿だ。
頭の高い所で長い髪を1つに括り、キリッとした立ち姿は、まるで女剣士、といった風情。
なんか、昨日から会う人会う人、みんなキャラが強いよなぁ、などと、思いつつ、その女性に連れられて、家を出る。
車に戻るのか、と思ったが、2人は駐車場を通り過ぎ、女性について山道を行く。静流も、慌ててそんな3人の背を追いかけた。
山道を10分ちょっと歩いただろうか。
突如、小さな鳥居が現れた。
本当に小さな鳥居で、高さは自分の身長ぐらいだから160センチほどか?
全員静流よりは大きく、頭を下げながらその鳥居をくぐる。
鳥居の奥には、鉄格子のような扉。
そしてそれを閉ざす大きな鉄製の南京錠が。
「洞窟?」
思わず静流はそうつぶやく。
鉄の扉は洞窟の入り口に取り付けられていて、南京錠で施錠してあるようだ。
その扉の上方、岩の部分には神社でよく見る和紙、
ガチャリ。
静流が驚いて見ている前で、一緒に来た女の人が南京錠を外し、扉を開けた。
「ありがとう。」
城之澤が軽く挨拶して中へ入る。
そのとき、竹でできた鳥の形をした何かを、女の人が城之澤へと手渡しているのが見えた。
なんだろう?
そう思って見ていた静流の背を、丹川が押して、洞窟へと踏み入れさせられる。
キー、ガチャリ。
え?
静流は振り返る。
城之澤、静流、丹川。その順で洞窟に入ったのを見届けた女の人が、どうやら扉を閉めて鍵をかけたようだ。
閉じ込められた?!
静流は焦って、身を翻そうとするも、丹川が肩を掴んでそれを阻止する 。
「大丈夫だ。」
耳元でそんな風につぶやいて。
少々パニックに陥る、そんな静流の前で、扉の向こうの女の人は、ゆっくりときれいにお辞儀をした。
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