第9話
「・・・きろ、しぃ、静流!起きろ。」
耳慣れない声と乱暴に揺すられる様子に、ゆっくりと覚醒する。
どこだ?
そして、誰?
静流は、ぼんやりとした寝起きの頭で、訝しんだ。
強気な光を湛えた丸い目と、茶髪の短い髪がユラユラとしていて、なんだか水の中にいるみたいだ。そんな感想を抱きつつ、自分の名を呼び身体を揺するコレは誰だったろう?と首を傾げる。
同級生、っていうより先輩かな?
あんまり学校で友達を作るタイプじゃなかったし、先輩ならばなおさらだ。なんとなくみたことのある顔だ、とは思うけど・・・
パシッ、と寝ぼけ眼でその人物を見ていたら、頭をはたかれた。痛いなぁ、もう。
顔をしかめていると、横から声がした。
「コー。静流君はお客様ですよ。何暴力振るってるんですか。」
「はぁ?しぃがいつまでも寝ぼけてるのが悪いんだろうが!」
しぃ、というのは僕のことだろうか?
そういや・・・と、目の前の二人の言い争いを見ながら静流は思い出す。
自分は怪しげな弁護士のところに行ったんだ。
ばぁちゃん、厳密には曾祖母の遺言に従って、渡された住所を訪ねたんだけど、そこで、わけのわからないことを言われた。
ばぁちゃんから渡された指輪が実は金庫の鍵だという。
その鍵を開けるのに自分が必要だとかで、弁護士の家に出入りしているモデルみたいな自称公務員と、電話で呼び出されたコーショー君なる人物が、そこまで案内する、という話だった。
そこに行くには翌朝出発、ということで、その怪しい家に1泊。
そうしてやってきたのが、どう見ても高校生ぐらいにしか見えない、本人曰く35歳の、自分を起こした人物だ。
って、起こす?
そこまで思考して、静流は辺りを見回した。
どうやら、車の中でいつの間にか眠っていたらしい。
で、そんな自分をこの茶髪が起こしに来た、というところか。
「フフフ。それにしても静流君は見かけによらず、随分肝が据わってるようですね。この状況で車で爆睡できるなんて、さすがにあの人のひ孫ってところですか。」
静流が周りをキョロキョロしているのに気付いたのか、言い争いをやめて、城之澤が言った。
すんなり争いをやめて、丹川もこちらを見ているあたり、ああいうのは二人にとって、単なるじゃれ合いなのだろう。
「あ・・・、えっと、ここは?」
静流は車を降りて周りを見回し、首を傾げた。
そこそこ朝早く出発したが、腕時計を見るともう昼時だ。
新宿のど真ん中にいたはずの静流は、どことも分からない山の中にいて、少々驚いた。
「
城之澤が言う。
「めしけ?」
「え、その指輪持ってて知らないのかよ。じゃあ
丹川の言葉に静流は首をさらに傾げた。
二人が知ってて当然、のような顔をして話すのは、一体なんのことだろう?
「まじか~。そこからか~。これ絶対キオのやつ分かってて、俺らに丸投げしたんだろ。」
「でしょうね。舞財カエデが育てたというのだから、ある程度の知識があると思ってたんですが、やっぱり馨たちの死が関係してるんでしょうか。」
「はぁ。そっか。そうだよな。おい、しぃ。お前、自分の親についてどこまで知ってる?」
「親、ですか?」
正直なところ、静流は何も知らないに等しい。
自分が産まれてすぐのこと。
親戚の集まりに行くのに自分が小さすぎたため、一人曾祖父母に預けられたそうだ。
そして、両親と母の両親は車ででかけ、その途中で事故に遭い、帰らぬ人になってしまった。
静流はそのまま曾祖父母に引き取られ、彼らに育てられた。
だが、静流が親やその親、つまり事故にあった家族について口にすることはほとんどなかったのだ。
曾祖父母にとっては、娘とその夫、そして孫とその夫の話だ。顔も知らない両親達について聞いて、育ての親である曾祖父母に悲しい顔をさせたくない、というのが大きかったから、あえて自分から口にすることなんてなかったのだ。
「僕が産まれてすぐに事故で死んだんで、全然知りませんけど・・・」
静流の言葉に二人は顔を見合わせた。
「その、おばあさんたちには何も聞いてないのかい?」
「事故で死んだことは知っています。なんでも親戚の集まりに行こうとして、事故に遭ったって。」
「じゃあ親戚については?家に訪ねて来たりしてただろう?」
城之澤の言葉に静流は首を傾げた。
そういえば、ほとんど親戚が訪ねてくる、なんてことはなかったように思う。
もともと地元では名士とかで、古いけど大きな家だし、村の寄り合い所みたいになっていて、近所のおばさんたちは常に入り浸っているような状況だったけど、親戚らしき人に心当たりはない。
静流がそんなことを告げると、二人はまた意味深に目配せをし合う。
「ま、いいか。とりあえず、しぃ。今から飯を食いに行く。そこの家で食べさせてもらうが、指輪は肌身離さず、だが見えないようにしておくんだ。いいな。」
丹川はそう言うと指輪を出させ、ポケットから出した組紐のようなものに静流に出させた指輪を通すと、ペンダントのようにして静流の首にかけた。それを服の下に入れるように言う。静流が、言われたとおりシャツの下に指輪を入れるのを見て、満足そうに頷くと、「行くぞ。」と行って、目の前の家に向かって歩き出した。
山の奥深く、そこにはひっそりと佇む、藁葺き屋根の古民家が、威風堂々と鎮座していた。
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