第7話
怪しい2人の会話の後、”コーショー”なる人物と、城之澤が電話をし、なにやら言い争っていたが、静流にはちんぷんかんぷんだった。
すでに思考を放棄していた、と言っても良いかもしれない。
気がつくと、この洋館の2階に部屋をあてがわれ、丹手と二人、不可思議な夕食を食べていた。
「あれ、エビは嫌いだったかい?」
ちょっと戸惑う静流に丹手は優しげに問う。
いや。静流だってエビは嫌いじゃない、というか、大好物ではある。だが・・・・
大きなダイニングテーブルに所狭しと並べられた皿の上には、エビフライはもちろん、天ぷら、小エビのフリッター、伊勢エビの姿焼き、甘エビの刺身、果てはエビマヨやエビチリまで、各種大小取りそろえたエビ料理の数々・・・
「えっと、エビは好きです。好き、なんだけど・・・」
なんていうか、エビ専門店真っ青なんだけど・・・・
ちなみにこれらはどうやら丹手が料理した物らしい。
「あー、エビばっかりで驚いた、かな?いやぁこんだけ食べれば嫌いになりそうだよね。僕なんか、もう1週間以上もエビばっかりなんだもん。」
・・・・
なんだもん、とか大人に言われても・・・
「これさぁ、以前の仕事のお礼で大量にもらったんだよね。いっぱい分けたけど、それでも余っちゃって。みっちゃんたちは、最近ご飯になるといなくなるんだよね。」
みっちゃん、というのは、確か、あのモデルぽい城之澤って人のことだったっけ?そりゃ、いくら好きでも毎日コレじゃ、逃げたくもなるだろう、そう、静流は心の中でつぶやいた。
「そういや、城之澤さん、いないですね。」
「うん。彼は別にここに住んでるわけじゃないからね。」
「へぇ。この家の人かと思ってました。」
ていうか、どういう関係?って、本当は聞きたい。
が、丹手はそんなことは知らないとばかりに、楽しそうにエビマヨを囓っている。
「あ・・・その・・・このエビは丹下弁護士先生のお仕事でもらったってことですか。」
「キオ、でいいよ。みんなそういうし。それにこれは弁護士としてじゃなくて、まぁ、ちょっとした相談に乗ってあげたお礼、ってやつ?まぁ、そもそも弁護士は免許を無理矢理渡されただけで、ほとんどやってないしさ・・・」
「え?でも・・・」
「ああ、やってないってだけで、できるから。たまに法廷に出たりもするし、相続の件に関しては、任せてくれていいよ。通常分については、ね。」
そう言うと、ニタリ、と笑う。
その笑顔に、喉を詰まらせながら、ゲホゲホと、静流は咳き込んだ。
なんの笑顔?
それに、通常分、って何?
「あの・・・僕の持ってきた指輪、ですけど・・・」
あの指輪を見てから、なんか進展した、というのは、分かる。
そして、「通常分」なんていう、その言葉に、関係するのがあの指輪が関係しているのでは?そんな疑問が、何故か静流の頭に浮かんだ。
「ふうん。やっぱりしぃちゃんはいいねぇ。そうそう、指輪のこと。」
「あれは、なんなんですか?」
「金庫の鍵だって言わなかったっけ?」
「それは・・・あの、なんとかの指輪って・・・」
「ああ、カタカムナの指輪、ね。あの紋章の文字のこと、何か知らない?」
静流は首を横に振る。
初めて聞く言葉だ。
なんか、マークみたいだ、とは思ったけど。なんていうか円と線で出来たマークで、文字、と言われても首を傾げるよな。
「知らない、か。結構有名な文字なんだけどね。ま、それは、そのうちみっちゃんにでも聞けばいいや。」
「城之澤さん、ですか?」
「うん。彼、そっち系は本職だし。」
「えっと、公務員、でしたよね?」
「うん。文科省の職員。」
「文科省?・・・なんていうか・・・」
「似合わない?さっきはだらしないとこ見たもんねぇ。けど、仕事の時はけっこうキリッとしてるよ。背広を着こなしてるし、ネクタイだってピーン、だからね。」
「そ、そうなんですか?」
「フフ。彼、オンオフがはっきりしてるからねぇ。ネクタイで大体どっちかわかる。」
「はぁ。」
「そうだしぃちゃん!ものは相談なんだけど。」
「へ?僕に、ですか?」
「そうそう。エビの斬新な食べ方、知らない?」
「へ?いや・・・これだけ並べられると・・・後は汁物、とかですか?味噌汁とかスープとか・・・」
「なるほど!それがあったか。いやぁ、しぃちゃん天才だよ。みっちゃんもコーショー君も、そういう提案全然してくれないからさ。いや、しぃちゃんがいてよかったよ。」
「はぁ。」
一体どれだけエビあるんだろう?ていうか、一人暮らしの男に、そんな大量のエビ渡すって、渡す方も渡す方だと思う。静流はそんな風に思いながら、レシピを一人口にする丹手を見つつ、エビ天を口に入れた。
(おいしいのはおいしいんだけどさ・・・)
まだまだテーブルの上に残る大量のエビに、こっそりとため息をつく静流だった。
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