第2話

 「えっと、お客さん、かな?」


 どのくらい門の前に佇んでいただろうか。

 突然、背後から声をかけられて、ビクン、と恥ずかしいぐらいに身体が跳ねた。

 口の中で、えっと・・・すみません・・・すみません・・・

 などと、意味不明に謝りながら、声のした方に振り向いて、おもわずドキッとした。


 なんというか・・・場違いな人がいた。

 いや、この大正ロマンを感じさせる館に住むのなら、むしろふさわしいか。


 その人は、静流よりは背があるけど、そんなに大きくない。

 170センチもないだろう。

 ここまで黒い人はみたことがないと思うぐらいの、漆黒の髪が顔の縁取りをしていて、白い、いや真っ白すぎる顔に強いコントラストを描いていた。

 目だって、何か縁取られてるように思えるぐらいくっきりとしていて、長いまつげも眉も、その瞳も、とにかく、黒、をイメージさせた。

 通った鼻梁。

 薄い唇は、こういうのを血の滴るような、って表現するんだろうか。

 とにかく赤い。

 化粧をしているわけでもないのに、黒く縁取られた目と引き締まった赤い唇から目が離せない。


 なんていうか・・・

 (人じゃないみたいだ・・・)

 静流はそんな風に思って、いかんいかんと、頭を振った。

 自分もけっこう顔でおちょくられる方だ。

 容姿に評価を加えるなんて、ばかげてる。


 「うちになんか用?」


 静流の思いに気付かないのか、他意のないのが分かる質問を、その人は重ねておこなった。


 「あ、えっと・・・・その・・・弁護士さんだって聞いてきたんですが・・・」


 そう。

 静流の両親と祖父母は、静流がまだ産まれてすぐに交通事故で亡くなったらしい。そのため、母の母の実家、すなわち曾祖父母によって、静流は育てられた。

 が、その曾祖父母も、曾祖父は中学に入った年に、曾祖母がつい先日に、亡くなってしまい・・・

 その育ててくれた曾祖母が病床で、財産や今後のことは弁護士がうまくやってくれるから、と、小さな木の箱と共に1枚の紙を渡したんだ。そこを訪ねなさい、と言って、数日後、静かに曾祖母も息を引き取った。


 葬式だとか、諸々は、近所の人とか、役所からの助っ人みたいな人が来て手伝ってくれて、なんだかんだと忙しいうちに、静流は中学を卒業していた。

 やっと、少し落ち着いて、今後をどうするんだ、なんていう、役所の人にせっつかれ、曾祖母の遺言?に従って、ここへやってきたんだけれど。


 弁護士?

 ここが?

 なんとなく竦む足が、一歩踏み出すのを躊躇させていた。


 「弁護士?あ、そうだよ。僕が弁護士だ。えっと、誰かから聞いてきたのかな?まぁ中に入ってよ。」

 その人は、そういうと僕を追い越して、門柱を肩で押し開けた。


 なんか、顔と言動が一致しないな。


 黒いTシャツに黒いパンツ。スニーカーまで黒を履いたその人は、バケットを突き出したでっかい紙袋に、どうやら食材をたんまり入れているようで、そんな紙袋を両手で抱え、中に入ると、

 「あ、君。悪いけど門を閉めてもらえる?」

なんて、静流に言うものだから、ついつい、

 「はい。」

 と言いながら、彼に続いて、静流も門をくぐるのだった。


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