耽偵奇憶館(たんていきおくのやかた)でございます
平行宇宙
第1話
東京。
言わずと知れた大都会。
新宿副都心、といえば、巨大なビルに大きな道路。
とはいえ・・・・
きらびやかな都会を表とすれば、裏はその闇深く。
夢を追って訪れた都会で、ことのほか安い居住地を手に入れることが出来るのも、新宿・渋谷といった、都会のど真ん中でもある、ということは、以外と知られていない。
大通りには複数の道が並行して走り、その道は果たして公道かも怪しい、車がすれ違うことも厳しい道幅だったり。
いつの時代の物だ、と、いぶかしむような、長屋や文化住宅も乱雑に立ち並び。
知らない言語が飛び交う、なんとなく酸い匂いが籠もる、それらのどん突きには、錆びて朽ちつつある外階段のベニヤやトタンのアパートが並ぶ。
そう。
都会と言ったって、いや、都会だからこそ、信じられないような時間の止まった辻が残されているわけで。
だが。
ここはそこまでの、怪しげな道ではなく。
むろん、名のついた通りからは幾分奥まってはいるものの、両側にトラックが路駐したとて、車が行き交うだけの広さを持つ道路があって。
高層ビル、とまではいかなくとも、それなりの高さを持つビルがひしめき合う。
小さいながらも我が城といった感じで、自社ビルばかりが立ち並ぶ一角の、少しばかり、異質な空間。
そう。
ビルの狭間に、ポツンと現れる洋館、に付随する130センチぐらいの高さの立派な門は、40センチ四方の門柱と共に忽然と現れる。
もしこれが、それなりの高級住宅街にあれば、まったくの不自然さを感じないだろう。
が、その両脇はそれなりの高さのビルで・・・
だからこその、違和感。
が、都会では意外と珍しくない、といえばそうかもしれない。
建て替えることなく、区画整理にも合わず、いやそれらを拒否したものか。
都会化から取り残されてしまった、大正ロマンのその建造物は、だからこそ、異質なロマンチシズムを湛えているのだろう。
が。
その、門柱の前に佇む少年は、手元のメモを見て、門とその奥を見て、険しい表情を湛えていた。
身長は160センチ台半ば、といったところか。
ほっそりとしている、というには、子供体型、なのだろう。
厚みがなく、スラッとした肢体には、だが、まったく筋肉がない、というわけでもない。
短く切られた髪は、真っ黒というよりも若干色薄く、癖毛が寝癖に見えなくもない。
鼻、唇の薄さに対して、大きめの垂れ目が印象的か。なんというか、庇護欲をそそるといえば聞こえは良いが、意志の弱そうな、自信なさげな、なんとも頼りなげな印象だ。
手元のメモには、ここの住所とともに書かれていた。
『
それは、この門柱にほとんど消えかけた文字で書かれている物と、まったく同じであった。
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