第5話 時間とともに......

 それから彼女は、ほんの少しずつ前向きにも考えられるようになっていったが、それでも悲しい不毛なやり取りがなくなる事はなかった。


 彼女は中々変われない自分自身を責めて、度々悲しい提案を口走っては相変わらず僕を困らせた。

 しかし、物事の良し悪しは別として、僕も彼女も互いを必要とし合う気持ちは本物だった。


 彼女は確かに驚くほど不器用で弱い女の子だったけれど、それでも僕は彼女に必要とされている事がとても幸せだった。

 彼女と二人で過ごす時間は、公園を散歩したり、家でじゃれ合ったり、いつもそんな極めて平凡なものだったが、僕はその平凡を愛した。

 僕は彼女と過ごす時間に、可愛い素朴さとどこか現実離れしたようなフワフワした感覚を同時に感じていた。


 

 そして彼女と付き合って一年ぐらい経った冬の終わり......。



 その頃、僕と彼女はお互い何かと忙しくなり以前より会える回数もぐっと減っていた。

 その日は、僕と彼女が出会ったバイト先の人間が主催する飲み会があり、そこで僕と彼女は約一ヶ月ぶりに顔を合わせた。

 本当は二人で会いたかったが、二人の予定が合ったのはその日だけで、飲み会参加後、彼女はそのまま僕の家に泊まりに来る予定だった。

 飲み会の最中の僕は彼女とほとんど絡まず、彼女以上に久しぶりに会う他の連中と盛り上がっていた。


 帰り道、彼女はなぜかとても沈んだ表情を浮かべていた。

 話しかけても、うん、とか、そうだね、としか言わず、自分からは一切話しかけてこなかった。

 家に着いてから僕は彼女に沈んでいる原因を尋ねた。

 すると彼女は、急に奇妙な笑顔を作ってこう言った。


「アキちゃんと話してる時の方が楽しそうだよね」


 思わず僕は虚をつかれた。


「は?」


「アキちゃんと付き合った方が良かったんじゃない?」


 彼女は明らかに笑顔をひきつらせながら言った。

 僕は思わずカチンと来てしまった。


「おまえ何言ってんの?」


 少し強い口調で彼女に言った。

 彼女はそれでも引き下がらなかった。


「アキちゃん可愛いもんね。あーゆー子タイプでしょ?」


「てゆーかなに?何が言いたいの?」


「だってすごい楽しそうだったじゃん」


「だからそれがなんなんだよ」


「アキちゃんと付き合っちゃいなよ」


「おまえホントいい加減にしろよ!」


 僕は明らかにイライラしていた。

 僕は飲み会で全然彼女を構ってあげられなかった事を、悪いな、寂しい気持ちにさせちゃったのかな、とは思っていて、彼女のその言葉も不器用な妬きもちという事はわかったが、この時僕はなぜか寛容でいる余裕がなかった。


 彼女が自らの妬きもちをそこまでハッキリと示すのは初めてだった。

 それはある意味彼女にとっては良い事だったのかもしれないが、この時の僕はなぜか寛容でいられなかった。

 僕が彼女に対して強い口調で怒りをあらわにするのも初めてだった。

 お互いの初めてが、実にタイミング悪くぶつかってしまった。


 彼女は反省し、僕も声を荒げてしまった事を反省したが、彼女のあの発言は流石に僕を苛立せた。

 僕は落ち着いてから彼女に、あんな事は二度と言わないように、と言った。

 彼女は素直にごめんなさいと言って目に涙を浮かべた。

 僕はまたいつものように彼女を抱き締めキスしたが、この日は彼女を抱かなかった。


 次の日、彼女が帰ってから、僕は途端にどっと疲れた。

「昨日の事がきっかけで彼女ももう少し変わってくれるかなぁ」

 僕はそう思いながらペットボトルのお茶をぐーっと飲んで、はぁーっと深くため息をついた。

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