第4話 守りたい

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 ある日、僕は数人の友人達と飲みに行き、その日はやけに盛り上がりつい調子に乗って終電を逃してしまった。

 ああ~とは思ったけれど、盛り上がりは相変わらずで非常に楽しい時間を過ごしていたのであるが、夜中の2時ぐらいに彼女から電話がかかってきた。

 僕は電話に出ると一旦席を外し、電話で話しやすいうるさくない場所に移動した。

 やがて僕が彼女との電話を終えて席に戻った時にはもう3時を回っていた。


「何してたの?」

「どこ行ってたの?」

 戻ってくるなり僕はみんなに質問された。

「ちょっと電話してて...」と答えると

「さっき彼女からかかってきたって言ってたよね?何、ずっと彼女と電話してたの?」とさらに訊かれたので

「まあ...そうだね」と歯切れ悪く答えると

「こんなに長く何しゃべってたの?」とまたさらに訊かれ

「まあ、特に何しゃべってたって事でもないけど...」と僕ははにかみながら曖昧に答えた。

 すると今度は

「ラブラブじゃないですか~」

「いいな~」

「彼女の写真見せてくださいよ」とみんなからにじりよられ、僕は笑顔で応対した。


 でも本当のところ、僕は当惑していた。

 表には出さなかったが、本当はとてもそんな応対をしている気分ではなかった。なぜなら彼女との電話越しの会話はずっと沈んだものだったからだ。


 彼女は自分の感情を言葉にする事がとにかく苦手だった。

 彼女の僕に対する要求の無さも、要求しないというより、要求できなかったのだろう。彼女は僕に、これを言ったら迷惑かけちゃうかなとか、これを言ったら嫌われちゃうかなとか、そんな事ばかりを考えて、ちょっとの可愛いわがままや妬きもちさえ溜め込んで溜め込んで、チリも積もれば山となるではないが、いつも山のように積み上げてからその不安を爆発させるという始末だった。

 つまり、その時は電話で、彼女のそんな不器用な感情の暴発に僕は対応していたという訳だ。


 その日の飲みの席には女の子もいたが、当然妙な事件もなく、彼女にはメールで状況も伝えていたし、友人達と盛り上がりながらも、僕は彼女の気持ちも考え彼女をできるだけ心配させないように気遣い想う言葉をメールで伝えていたつもりだった。

 彼女も充分それを理解していたし、決して彼女自身悲しい不毛なやり取りを望んでいるはずもなかったが、こういう悲しい厄介はそれからも幾度となくあった。


 しかし、僕は彼女に怒る事はなかった。それは彼女自身の性格だけでなく、彼女には彼女の哀しみがあり、過去に浮気をされてすごく傷ついたというような話を聞いていたのもあり、彼女の必要以上の心配もそれは仕方がないことだと思っていたからだ。

 だから僕はいつもできるだけ温厚に対処していた。


 ところが、ある時部屋で二人、また悲しい不毛なやり取りをしていると、彼女はそんな僕に「優しすぎる」と言ってうなだれた。

 また彼女はこうも言った。

「だから甘え過ぎちゃって......。...甘え過ぎちゃう自分がイヤなの」

 彼女はそう言って泣きながら今度は

「それで辛いの......だから別れたい」と言ってふさぎこんだ。

 僕は「本当に別れたいの?」と彼女に問いかけた。

 彼女はうつむいたまま「...ううん。...でも、辛いから......」と振り絞るような声で言った。


 僕は彼女の性質も十分わかっていたし、彼女が本当に別れたくて別れたいと言っている訳ではないんだなと確信してから、

「なんでそうなっちゃうんだよ?別れる以外の方法を考えようよ」と言って彼女の両手を取ってぎゅっと握った。

 僕は彼女を説得するようにもっと前向きな方向を必死で促した。僕が一生懸命それを続けていると、次第に彼女は落ち着きを取り戻した。

 すると彼女はすっと寄ってきて「ごめんね」と言って目を潤ませて僕に寄りかかってきた。僕は寄りかかってきた彼女をそっと抱き締めて、キスした。そのまま彼女を抱いた。


 短絡的かもしれないが、僕にはそれが彼女への一番の愛情の表現だった。

 その時に、裸の彼女が喜びとも悲しみとも言えない涙を潤ませて、普段は全く言わない「好き」という言葉を口にして...下から僕を抱き締めてくる彼女の姿に僕は「守りたい」と切ないぐらいに胸を熱くして思った。

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