第3話 不眠地獄
不眠は彼女を苦しめた。
でも彼女を苦しめたのは眠れない事だけではなかった。
彼女は眠れない夜にしばしば過去を思い出した。
いじめられた事。
数知れず友達が去っていった事。
勉強地獄の日々......。
望まない意思に反して思い出される過去の数々は、眠れない彼女の心の中でかつての痛みを残酷に再現した。
彼女は夜な夜な部屋で一人悲傷狂乱し、度々過呼吸に見舞われた。
そんな不眠地獄を繰り返す彼女へ、今度はさらに追い打ちをかけるように、拒食症が彼女を襲った。
彼女は眠れない上に食事もろくに喉を通らなくなり、なんとか食べてもすぐに吐いてしまうといった事を繰り返した。
気がつけばODも再発していた。
こんな日々の繰り返しが彼女の陰鬱をさらに育んだ事は言うまでもない。
それでも、しばらくして幸い拒食症は落ち着きを見せ、不眠症は相変わらずであったが、彼女の体調は一時に比べればかなり良くなっていた。
しかし、体は良くなっても人間生活の阿鼻叫喚は変わらず彼女の心を苦しめていた。
彼女の病的な気遣いと決死のおもてなしと必死の笑顔は、大学に入ってから友達が増え付き合いも増えた分、ますます獅子奮迅した。
大学生になってからの彼女は、確かに全てをさらけ出しても尚離れていかない友達を見つけた。
しかし、避けられないそれ以外の友達との付き合いも彼女には数多くあり、割りきる事など到底できない彼女にとって、人間との付き合いは相変わらず難儀なものだった。
彼女は誰よりも孤独感を抱え、また誰よりも孤独を恐れた。
彼女の切ないまでの笑顔とおもてなしと気遣いは、孤独に対する恐怖の裏返しだった。
彼女は人と付き合う時は常に、嫌われていないかどうか、そればかりが気になった。
彼女は彼女自身の歴史から、人に期待を持ちながらもいつも確信は持てないでいた。
彼女はよく一人反省した。
ちゃんと気を遣えていたかな。嫌な気にさせてなかったかな。あれは言わない方が良かったかな......。
時に失敗を強く感じる日は反省を超えて彼女を打ちのめした。
そんな彼女でも明らかに相手が悪いと思うような事があった時は怒りに震える事もあった。
しかしそれでも最終的には、理由はどうあれ彼女は相手に怒る自分自身が嫌でたまらなくなり、結局はいつも自己嫌悪で終わるという散々な塩梅だった。
彼女はとにかく日々もがき苦しんでいた。
とはいえ、苦しみにも波はあった。
比較的苦しみが少なく楽しめる日は彼女にも確かに存在した。
だが、苦しみが大津波のように襲ってくる日は、やがて彼女に自傷行為を覚えさせた......。
彼女が僕に話してくれた彼女の歴史はざっとこんな感じだった。
実は彼女が僕にこの歴史を話してくれたのは、まだ二人が付き合う前の事だった。
なので付き合ってしばらく経ってから生じ始めた彼女の悲哀の不具合も、僕には許容の範囲内だった。引きずられずに受け止められた。
だが次第に、僕は平気だったのに、彼女自身が僕に対して余計なうしろめたさを感じ始め、彼女の悲しい自己完結はより孤独性を増していったのである。
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