第2話 陰鬱のはじまり
彼女は子供の頃から「生きるってなんだろう」というような自問自答を途方もなく繰り返すような子で、そんな彼女が小学五年生の時、いじめを受けたという。
ある日を境に、急に彼女は誰にも相手にしてもらえなくなったのである。
所謂ハブられたというやつだ。
きっかけは、クラス中で回されていたある手紙だった。
その手紙には「〇〇ウザくね?シカトしよーよ」というような事が書かれていたという。
その〇〇が彼女の名前だった。
この経験は、彼女の心へ暗い影を落とすに充分なものだった。
(こんなことでと言えばこんなことでとも言えるのかもしれないが、僕はそう思わなかった)
そしてこの経験が、彼女の人生、彼女の人間、というものの憂鬱の本格的な始まりを意味する事になる。
中学生になるといじめを受ける事はなくなった彼女だったが、小学五年生の時に受けたいじめの経験は、彼女に人間というものへの疑心、恐怖を植え付け、彼女に言い知れぬ劣等感と、常に付き纏う孤独感を与え、謂わば「友達」という観念を彼女にとって酷く難解なものとしてしまった。
そんな彼女にも体裁上の友達は複数いたが、心の奥での彼女は常にもがき苦しみ阿鼻叫喚していた。
高校生になっても彼女のおののきは相変わらずで、あのいじめの経験以降、彼女は人との付き合い方がまるでわからなくなってしまっていた。
彼女は友達ができると一切を隠すか全てをさらけ出すかのどちらかで、一切を隠す方法は彼女に痛々しいまでの気遣い心と悲しいはにかみの笑顔を授け、全てをさらけ出す方法は彼女に多くの別れをもたらした。
そんな彼女を支えたものは勉強だった。
彼女は勉強をして学業で成果を出す事に自らの存在意義を見出した。
彼女はとにかく勉強して勉強して勉強した。
しかし、のめり込むように勉強する内に、彼女の勉強をするという行為はいつしか強迫観念を纏うようになる。
次第に彼女は勉強をしていないと自分が保てなくなり、どんなにやる気が起きない時でも無理矢理勉強し、それこそ風邪を引いても熱を出しても無理矢理勉強し、そうこうしてる内に彼女はどんどんどんどん苦しくなっていき、それでも勉強を止める事はできず、仕舞いには苦しくて泣きながら彼女は勉強していた。
また、熱を出したり風邪を引いても尚、薬を飲みながら無理矢理勉強せざるをえない心身と行為は、常時必要以上の風邪薬や解熱剤を飲んでいないといられない
とはいえ、それでも病的な勉強の甲斐はあり、その後、彼女は世間的にも評価の高い大学に進学した。
大学に入学してからの彼女は強迫的な勉強地獄からはなんとか抜け出し、相変わらず人間とのコミュニケーションにはもがき苦しんでいたが、それでも、全てをさらけ出しても尚離れていかない友達もでき、少なくとも今までに比べれば確実に良くなったように思えた。
ところが、勉強地獄から抜け出した彼女に次に待っていたものは、不眠地獄だった。
狂気的な勉強スタイルから解放された彼女は、ひとりで家にいる時は決まってぼ~っとしていた。何をする訳でもなく。
時には寝ずに朝までぼ~っとしている事もあった。
すると彼女は次第に眠れなくなっていった。
気がついた時には立派な慢性的不眠症に陥っていた。
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