119.けいかくはすいこうされた③
弟が彼らの議論において即刻排除の対象とならなかったのは、普段は人の好い第三王子を演じ、悪い面は上手に隠そうとする、そういう王族らしい狡賢さを兼ね備えていたからである。
加虐性をぶつける対象はいつも一人で、実行するのは対象者と二人きりのときだけ。
そういう条件下において選ばれる対象者は弟の近しい存在に限られた。
幼い弟が選ぶ相手はいつも、身の回りの世話をしていた弟の専属侍従だ。
侍従というのは、一人ではない。
弟は対象者を一人選ぶと、それ以外の侍従らには、大層優しく接していた。
それは彼らには優しい王子さまに見えていたことだろう。
こうなれば、虐めた侍従が訴え出てきたところで、誰もその侍従の主張を信じない。
そのうえ弟は、私たち家族、つまり王族の前でも、明るくて優しい、ちょっとお調子者の、その年代の子どもらしい姿しか見せなかった。
すると妙な話を訴え出て来た侍従こそが悪人であり、王である父などは我が子を貶める者として激怒して、その侍従を職務から外してしまった。
王族の身の回りの世話をしていた侍従が、職務を外された先に待ち受けるもの。
それを誰より侍従らが認識しているのだから、一人が訴え出て失敗していることを悟れば、その後に続く者は出ない。
幼い弟からの加虐を我慢している限りは、生きていられるのだから。
かつての弟がそこまで分かっていたとすれば、末恐ろしい性質を持っていたとも感じられる。
しかも弟は誰の入れ知恵もなく、この通り振舞っていた。
だから叔父も、弟にあのような馬鹿げた甘言を授けたのだろうか。
そうは言っても幼い子どもだ。
いくら頭を使って隠そうとしたところで、大人には怪しい点が目に付くもので。
侍従の様子から、何かおかしいぞと感じる者も出て来るだろう。
ましてや常に王族を監視する彼らの目を欺けるはずはなく。
弟が人の好い第三王子でいられたのは、王家の心象が悪くなるようなことがなきよう、彼らが綺麗に尻拭いをしていたからだ。
そうして彼らはたびたび弟の王族としての適性を議論するに至ったのである。
急ぎ排除しようと彼らの誰もが結論付けなかったのは、やはり弟の悪事を隠そうとする姿勢がとても王族らしいもので、その性質を生かすようにしてこれからもっと上手に隠すよう導いていけば、そしてその加虐性を王家にとって意味ある方向に向けさせれば、将来は表の良き臣下の一人として元王族らしく振舞ってくれることだろうと、そういう期待が込められていたからに違いない。
だが叔父は、要らぬ結論を出してしまった。
第三王子は王族として相応しからず──。
事情を問い詰めたあの日。
叔父はいつものように笑っていたが、その目にはいつもにはなかった力が宿っていて、私にこう訴え掛けた。
『二番目に生まれながら逃げることなど許さない』
『王家に生まれた勤めを果たせ。自分と同じように──』
はたしてそれが、叔父の本心だったかどうか。
ただの私の内から生じた声であった可能性は高い。
それでもこの出来事が近い将来叔父を排除してやろうと決意する布石となって。
その日から私は叔父を含めた彼らには決して本心を悟られないようにして。
叔父のように笑顔を張り付け、弟を生かす道を模索した。
そうしてあとに妹が生まれ。
私は妹を生かす道までも探さなければならなくなったのである。
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