118.けいかくはすいこうされた②
はじまりは妹が生まれるよりずっと以前。
弟の王族としての適性を、彼らは密かに何度も議論していた。
弟はそれだけの問題を起こしていたのだ。
しかし議論の行き付く先はいつも、弟にとっては良好な結論であって、これからも目立った問題さえ起こさなければ弟は無事成人し、臣籍降下して高位貴族として生きることが出来たはずなのである。
そんな弟の明るい未来を潰したのは、かつての裏の王たる叔父だった。
当時の私は、叔父が私への嫌がらせでそうしたのだと捉えていた。
だが今となっては、それもまた分からないことのひとつだ。
叔父の本意はどこにあったのだろう?
本来の第三王子は、この国に二人の王がいることを知らされることはなく。
王とは父親ただ一人であり、叔父はただの王弟。
私たち兄弟についての認識もまた、広く知られている通りと同じ。
第一王子である兄が王太子であり、その弟たる私、第二王子は、いつまでも王族として残り、兄の治世を支える王弟として生きていく存在。
一方で第三王子である弟は、成人後に王族から外れて貴族として兄の治世を支えていく。
そういう認識しか弟は持たないはずだったのだ。
ところが叔父はそれを変えてしまった。
裏の王と、その臣下である彼ら。
その存在を弟に明かしたのだ。
弟との会話でこれを知ったとき。
それがはじめて私が叔父を恨んだ瞬間である。
叔父からの私への当てつけであり、そんなことで叔父は大事な弟の人生を潰したように思えたから。
まだ視野の狭かった私だから至った考えでもあった。
その頃の私が、弟の存在に甘えていたことは認めよう。
代わりとなる存在がいるという事実は、裏の王となるべく厳しい学びを受けていた当時の私にとっては僅かな救いとなっていた。
たとえ私がここで挫けてしまっても、王家は存続し、何も変わらずにこの国は続いていく。
それは常に感じていた暗く冷たい重圧をほんの少しばかり外へと逃がしてくれた。
しかし同時に弟の存在は、私のこの甘えを戒める理由にもなっていたのだ。
弟にこんな苦労を譲るわけにはいかないという兄としての責任感が、未来永劫光の灯らないその場所で踏ん張る気力を与えてくれた。
逃げても構わないという甘えと、逃げてなるものかという責任感。
どちらの面でも弟がいることに私は救われ続けている。
弟もまた妹と同じように、赤ん坊の頃から知る愛しい人間。
この子のためにも頑張ろうと、妹が生まれる前からそう思っていたのに。
いや、いまだって思っている。
思ってはいるけれど。
弟は成長すると、ただの可愛い弟のままではいてくれなかった。
その内に秘めたるどうしようもない加虐性を見せ始めたのだ。
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