117.けいかくはすいこうされた


 番を知る者ではないか?と生まれた直後から疑われ始めていた妹は、成長と共にその特徴を露わにしていった。


 笑うことなく。

 泣くことも少なく。

 いつもぼんやりとしていて、何を見せても興味を示さない。


 多くの国が邪魔だと思ってきたように、もまた番を知る者は王家のためにならない排除すべき悪として認識している。

 いつでも番相手が最優先で、番相手のことしか頭にはなく、王家への崇拝、忠誠など塵芥にも等しい。

 そんな番を知る者たちは、確かに王政においては国にいて欲しい人間ではなかった。


 それは王族とて同じで。


 むしろ王家に番を知る者が生まれる方が厄介なところがある。



 番を知る者は、番相手に出会うまで、灰色の世界に閉じ込められていると称されることもあるが。

 ただおとなしく殻に閉じこもってくれている分には、王族としての務めが果たせないくらいで大きな問題にはならなかったであろう。

 だが多くの者は、おとなしくもしていられない。


 番相手を探すために、やたらと外に出て行きたがるし。

 番相手が側にいない渇望感なのか、満たされないその心を、他者を傷付けたり、攻撃したり、悪い方法で解消しようとすることは稀ではなく。

 そこに王族という権力が加わると、善人ならば目を背けてしまうような悪事に発展することも過去には一度や二度で収まらない。

 もちろんそんな不都合な記録は、どこにも残らぬようにいつもが綺麗に処理してきたけれど。

 そうして番相手を見付ければ落ち着くかといえば、それどころか番相手を優先して、恥もなく堂々と王族としての務めを放棄するのだ。


 番を知る者は、たとえ王族であっても。いや王族だからこそ。

 王家の威信を揺らがす存在に違いなかった。



 だから早々に排除しようと決断するのは、


 けれどもそこに、の理不尽と、の狡さが現われる。



 彼らの存在意義の元となる王族を手に掛けることには、彼らとて少しは想うところがあるのか。



 王族を排除するときに限って、彼らは主君の個人的な意志を求めた。

 裏の王が個を出すことをあれほど嫌がっていたというのにである。


 そのうえ主君が自らの手を汚すことを望み、そのように誘導するし。

 あるいは手を汚さないまでも、主君に見られている状態で命じたままに動いた彼らを強く望んだ。


 彼らが決めて、彼らのその手で王族の命を奪った、という結果は認めないのである。




 そういう彼らの弱いところを、私は今でも受け入れていない。




 幼い妹を亡きものにせよだって?


 この可愛い妹を?


 まだこの世の何も知らない無垢な子どもを?


 その先に最上の幸せを得られるかもしれない果報な幼女を?


 それが次期裏の王としての私の初仕事だ?


 立派な裏の王となるために必要なことだと?



 叔父は笑って私にその初仕事を任せようとしたけれど。

 本当のところ、叔父は内心で何を想っていたのだろう。


 今になって考えても、いつも張り付いていたあの笑顔とくつくつとした嫌らしい笑い声を思い出すだけだが。

 もしかすると──と思うところがなくはない。


 だがすべては私の責任。


 

 から厚い信頼を得ておくためには、王族殺しは重要な仕事として、避けて通るものではないと考えていた。

 それを私の手で行えば、彼らは心底安心し、私を次代の裏の王として認め、崇めてくれることだろう。



 私は手始めに、叔父を討つことにした。



 今となって思えば、また叔父の考えを疑ってみたくもなるが。

 当時の私にとっては、叔父はただただ邪魔な存在でしかなく。


 妹の件を抜きにしても、叔父には多大なる迷惑を被っていたからである。



 裏の王であった叔父は、弟を裏へと導いた──。








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