115.こどくなおうとはかりごと②
彼ら。
彼らにはこれといって定まった呼称がない。
個としての識別もなく、任務によってその名を様々に変化するように、それぞれ自身も個への執着を持ってはいなかった。
おおよそ表で普通に暮らす人間には信じられない生き方をしている者たち。
あえて例えるならば、他国における隠密部隊や影と呼ばれる存在に近いだろうか。
王城に勤める文官らの計略が幼子の戯言に感じるほどには賢く。
王立騎士団の騎士たちがひとりでは何も出来ない赤子に思えるほどには強く。
この国では比類なき精鋭揃い。
表に出て来たら、それこそ個としての名声を手に入れられるであろうに。
彼らは過去を含めて誰一人としてそれを望んでは来なかったのだ。
それもこれも、彼らの行動理念が、常に『王家』にあるから。
王家の威信。
王家の栄光。
王家の繁栄。
彼らの目的はいつも国にはなく。
その目的は王家そのもの。
それはもう、狂信者のように。
彼らは決して王家の威信を、栄光を、繁栄を揺らがす存在を許さない。
だから常々監視してきた。
それは諸侯だけの話に留まらず、民も、他国までも。
さらには王族までもが、その監視対象だった。
彼らが相応しくないと断じれば、たちまちその存在はこの世から消えてしまうだろう。
それは時の王とて同じこと。
彼らは表の王に清廉潔癖な民が描く王たる王を演じることを求め続けた。
といっても、そう特別なものを求めていたわけではない。
王としての最大の権力を持ちながらも、驕らず、傲慢になることもなく。
諸侯らの顔色を窺いながら上手くこれを取りまとめ、民らからは程よく搾取しながら階級社会を維持し、時折はその民らのご機嫌を取るような政策を取ることで、バランスよく政治を行うこと。
こういったどの国の王にも求められていることを、彼らは望んでいるだけなのである。
しかし綺麗事ばかりでは国は成り立たず。
万人が満足する政治もない。
というのに、この国では歴代の王が、賢王や善王と称されて、いつも安定的な政治を行ってきた。
世が混乱するというときがまるで無かったとは言わないが、他国に比すれば際立って少ないと言えるだろう。
それもこれも裏の王の配下となる彼らが、表の王まで監視して、その治世が悪とならないように暗躍を続け、時には表の王自身を管理して来たからに違いない。
そう、時には愚王として認知される前の表の王を排除して──。
幼くして彼らの存在を知り、彼らの元で学ばされた私はいつも思うのだ。
この国が平和なのは、歴代の王たちが善政を行ってきたおかげ、王家の血統は特別なのだと言うけれど。
本当に皆が心からそう信じているのだとすれば、誰も彼もが彼らが見せる幻想の中にあるだけ。
そしてこれも幼くして彼らから裏の王となるべく教育を受けてきた私だから思うことであろうし、これについては歴代の裏の王たちも同じように感じてきたのではないかと信じるところであるが。
彼らは裏の王の直属の配下として仕えているも。
はてさてその真実は主従関係が逆なのでは?
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