114.こどくなおうとはかりごと


 諸々の処理が落ち着いて、時間に余裕が出て来たからだろうか。



 最近になってまた、羨ましいと感じるようになった。



 父が、母が、羨ましく。


 兄が、弟が、妹が、羨ましくて。



 恨めしい。




 弟妹がこの状況になってなおそのように感じる私は、最低な兄なのだろう。


 それでも私は弟も妹も羨ましくてならない。



 そしてやはり恨めしくもある。




 ☆★☆★☆★☆




 この国の王家はもう何代も前から特殊な体制を取ってきた。


 表向きは、他国にまで知られている通り、王は唯一人だ。


 しかし王政としての実態は、もうひとりの裏の王が存在する二頭政治。



 誰もが知っている表の王と、ごく一部の者しか存在を知り得ぬ裏の王。


 二人の王が政を行ってきた。



 そしてこの国では、誰が王になるか、それも厳密に決められている。



 表の王の第一王子。

 これは素直に次代の表の王だ。


 表の王の第二王子。

 これが次代の裏の王となる。


 長く続く二頭政治において、一度足りとてこの決まりを逸脱したことがないのだから。

 どの世代にも必ず二人の王子が用意されてきた、ということ。



 されどこうなると、裏の王の子はどうなるのか、という疑問が浮かぶことだろう。

 裏の王を父に持つその子こそ、次代の裏の王であるべきでは?という話から、表には知られることのない王位を巡った争いが勃発していてもおかしくはないところだが。


 それはすべて杞憂。


 裏の王は、子どもを持つことを許されない。


 表向きは王弟として王族に残り、結婚もする。

 時には表向きの子どもまで用意することもあった。


 歴史上にも王弟の子は幾人も存在している。

 だがそれらの子はすべて、王弟の実子ではない。


 故に王位を巡る争いなど起こるはずもなかった。


 それに王もまた、次代の王を選べる立場にはないことをよく弁えているのだ。

 それは表の王も同じで、決まりを破ってもっと優秀な何番目かの王子を王太子に任命しようと兄弟間での王位争いを誘発したり、あるいはもっと愚かに愛妾などに産ませた息子にこそ王位を与えよう、などと動く愚王はない。


 それもこれも、どの時代の第二王子も例外なく、幼少期から徹底して教育されてきたからである。



 誰に?


 裏の王に仕えるに。



 何故表の王に愚王がなかったことにまで、第二王子の教育が影響するか?


 それは結局のところ、二頭政治などと言いながら、この国の権力を掌握しているのは、裏の王……というよりその裏の王に仕えるだから。






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