84.はじめのそれはただの興味
さっそく王女は、その足で一番上の兄の元へと向かった。
当時は立太子を終えたばかりで慣れぬ仕事に忙しく過ごしていた長兄は、急に執務室に現れた妹に嫌な顔一つ見せず、王女を部屋に招き入れると、おやつまで用意をさせて自分も仕事を中断することにした。
ケーキを頬張りながら、王女は気になったことを問い掛ける。
「あぁ、耳が早いね。アルメスタ公爵家の嫡男が番を見付けた報告は確かに受け取ったよ」
王女は番の意味を知りたがった。
「番とは何かって?うーん、運命の相手……と言っても分からないかな。なんと言ったらいいか……。とても仲良しの二人のことを言うのだよ。父上と母上のようにね」
彼らの両親は番同士ではなかったが。
当時の王太子は幼い子どもを手っ取り早く納得させればそれでいいと考えた。
まさか未来にあんなことが待っていると。
この時点で想像出来る人間は、王太子でなかろうといないはずである。
アルメスタ家の者たちだって、このときは誰一人辛い未来を想定していなかったのだから。
王女はそれから自分の降嫁の話も聞くことにした。
すると王太子は酷く慌てた素振りを見せる。
「結婚相手?だめだめ、まだ早いよ。私が必ず幸せになる相手を見付けてあげるから、今はまだ考えないでおこうね?父上たちにも言ってあるから焦ることはないよ。それより異国の珍しいおもちゃを手に入れたんだ。遊んでみないか?」
溺愛しているがゆえに、王太子は妹の結婚相手についての話などまだしたくはなかったのだ。
ただそれだけの意味でしかなかったけれど。
なんだかつまらない。
王女はまだ床に届かない足をぷらぷらと揺らしながら、いつもよりさらに楽しくない気分でケーキを食べ終えた。
見送られて王太子の執務室を出ると、王女は二番目の兄の元へと向かうことにする。
こちらもまた書類仕事をしていたが、王女が部屋に顔を見せると喜んでそれを中断し、王女を部屋へと招き入れた。
「ジェラルドの番のことを知りたいの?うーん、まだ赤ん坊だからねぇ。どんな子かと言われてもな……」
珍しいことに二番目の兄も満足するような答えを王女には与えてくれなかったのである。
そのうえ、この兄も長兄と同じように王女の興味を逸らそうとした。
「ほら、見てごらん。今日はとても珍しいお菓子があるよ。お兄さまと楽しくお茶をしようね」
あのこのなかよしのつがいは、まだあかんぼうらしいわ。
どんなこかしら?
また足をぷらぷらと揺らしながら、王女は先ほどケーキを食べたことを忘れ、新しいお菓子を堪能していく。
これでは夕食が入らなくなりそうだが、兄たちがこの様子だったから他に止める者もいなかった。
あのこがあかんぼうとなかよくしているなんて。
おかしいわね。
どうしてか気になってしまう王女は、翌日もまた同じように二人の兄に聞いてみた。
するとどちらの兄も昨日と変わらない反応を示したのである。
だから王女は今度は父や母にも同じように聞くことにした。
するとこちらは明らかに困った顔をして、話題から王女の気を逸らそうと必死になる。
幼いながらに王女は察した。
きいてはいけないことなのかしら?
だけどきになるわ。
もやもやとしたものを抱えた王女。
けれどもこの時点では、癇癪を起こすほどの苛立ちは感じていなかった。
これは彼女がまだ噂話を耳にしただけで、実際には知らなかったからだと考えられる。
ちなみに三番目の王子は、このときはまだ少年であったので。
彼に聞いてもどうにもならないことを、王女は幼くもちゃんと理解して、第三王子には聞かなかった。
そうしてしばらく時は流れ。
興味を持っていたアルメスタの番の話も、年月の経過と共に王女の心から消え失せようとしていた頃のこと。
その日は来てしまった。
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