78.真実に届かぬもの


 ここまで言えば、もう誰も隠すことはしないだろう。

 そう考えていた王太子の予測はあっさりと裏切られた。


「はい?」


「え?そんなことになっていたの?」


 驚きを示したのは、第二王子と第三王子だけではない。


「なんですって?」


 まさかの王女まで声を張り上げ驚きを示したのだ。

 これには王太子の方がより驚いてしまった。


 だが彼はここで追及をやめるわけにはいかない。

 弟たちや妹を信じたくも、次期王となる王太子であるからには、私情で彼らから罪を奪うわけにはいかなかった。

 これがまだアルメスタが何も知らない時だったなら。罪そのものをこの世から葬り去る選択肢も王族として選べたであろうが。


 何もかもが遅過ぎる。


「姫の出先にいたと言っても、うちの別荘で姫と過ごしていたという話ではありませんよね?同じ町にいたということであれば、そのときはたまたま。偶然の一致ということではありませんか?」


 第二王子が怪訝にそう言えば、王太子は首を振った。


「私とてそれは考えた。だが繰り返されていれば、偶然では済ませられない。同じ町とは限らないが、謀ったように姫の滞在先の近辺の町にその子を攫っていたとみられるユーリルのところの商会の関係者が滞在していたんだ」


「嘘よね?あのがいつもわたくしの近くにいたと言うの?何よそれ気持ち悪い」


 王女の発言が、王太子にとっては悲しいかな、提供された情報と一致した。


 だが王太子はますます分からなくなっている。


 王女のそれが、まるで知らなかったという態度だったからだ。

 この子はこんなにも嘘を吐くのが上手かったであろうか。

 それならば長年騙されてしまったとしてもおかしくはないが……。


 王太子が妹に続き弟二人を観察すれば、こちらの二人も驚いた顔をして今度は妹を眺めていた。

 もうそれは何も知らなかったという顔にしか見えて来ない。


 真実はどこにあるのだ?


 ユーリル侯爵家の抱える商会が関与していたのは事実。

 だがそれについてユーリル侯爵に問うわけにもいかない。


 本人がもう亡くなってしまったからだ。

 そして侯爵夫妻と彼らの嫡男を失ったユーリル侯爵家は、今回の責任を取ってすべてを王家に返すと、そう言ってきた。侯爵位も、その他保有していた爵位も、所領も、家も財産も、すべて要らぬというのだ。

 あの商会も取り潰してしまっていいし、使えるところがあるならば王家の好きなようにと。


 アルメスタの番に関与していることは、すでにその時点で分かっていたのだから、もっと警戒すべきであったのに。

 これをアルメスタに示す彼らへの懲罰にすればいいと、嬉々として受け取ってしまったのが、まだ何も知らなかった王である。

 その王もアルメスタの先代当主が登城してくれば、まだ足りぬかと顔色を悪くすることになったのだが、それでもなお王はこの時点でまだ何も知らなかったわけだ。


 そこで王が自ら率先して問題解消に動いていれば……少しは現状が良く変わることもあっただろうか。

 いや、それでも遅かった、と王太子は首を振る。

 

 もっとも手痛い事実は、有難く受け取ったその元侯爵領を下の弟に与えるつもりで王家が動き出してしまったことだ。


 最初からこうなることを望み王家はユーリルを動かし消したのではないか?

 こうした疑念は一度生じると、晴らすことが大変に困難なのだ。


 この騒ぎのせいで明らかに諸侯らからの王家を見る目が変わっているように王太子は感じている。

 だからここでアルメスタを鎮められなければ、それこそ王政の存続危機へと繋がりかねない。


 もはや王太子は弟や妹を兄として守っている場合ではなかった。


「頼むから正直に話してくれ。もう本当に頼むから……」


 王太子は王女を見詰めて言った。

 しかし王女は「本当に知らないわよ。嫌だわお兄さま。今日は何なのよもう!」と可憐な声を大きくし、せっかくの美しい顔を歪ませている。


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