73.広がる波紋は止まらない


 王女が異変を感じたのは、あの葬儀の翌日からだった。


 兄たちに会おうとしても、皆が皆、自分のために時間を作ってくれないのだ。

 仕方ないと両親に会おうとすれば、やはり忙しくて今は無理なのだと言う。


 それが数日続いた。


「何よ、もう。いいわ。今日は出掛けるわよ!」


 何事にも興味が続かず、自室でぼんやりと過ごす時間の多い王女。

 だがひとつ好む行動があった。城の外へと出掛けることだ。


 だから王女のこの発言に、侍女たちは慣れていた。 


 それなのにいつもならすぐに準備に取り掛かる侍女たちは、そうはしなかった。

 並ぶ侍女たちは王女に向かい一斉に頭を下げると、そのまま微動だにしなくなる。


「何をしているの?用意をするわ。動きなさい」


 頭を下げている侍女の一人がそれに答えた。


「申し訳ありません」


 ただこれだけである。

 王女は目を細め発言した侍女を睨みつけたが、やはり侍女は頭を下げて動かなかった。


「どういうつもりよ」


「しばらくはお部屋にて過ごされますようにとの、陛下のご命令です」


「なんですって?」


「申し訳ありませんが、陛下がお許しくださるまでは外出を控えていただきたく」


「────もういいわ!お父さまに会いに行くわよ!準備なさい」


 王女は短い間息を止めることで、侍女の顔に向けて陶器のカップを投げたくなる衝動になんとか耐えた。

 この侍女の働きぶりを気に入ってきた王女は、まだ彼女を側に置きたかったのである。

 それに彼女の血を見たいとも思わなかった。


 こうして考えられる分別は育っているというのに。

 この現状から何が起きているかを推測する能力が王女にはなかった。


「申し訳ありません。本日陛下は予定が詰まっておりまして。お時間を作れるようになるまでは、お部屋にてお待ちいただくようにとのお話です」


「────いつまでなの?」


「申し訳ありませんが、陛下から期限に関するお言葉はありませんでした」


「聞いておきなさいよ!役に立たないわね!」


 そんなことを言われたって、侍女にはどうにも出来ない。

 王女付きとはいえ、この侍女が直接王に会い言葉を授かるようなことはないわけである。


 そしてそれを王女だってよく知っているはずなのに。


 侍女は顔色を変えず、やはり頭を下げ謝罪を続けるのだった。


「申し訳ありません。なお第二王子殿下より、お会い出来ないことに対するお詫びとして、殿下への贈り物をお預かりしております」


「それを早く言いなさいよ!──二のお兄さまはまだ出掛けていらっしゃるの?」


「そのようにお聞きしました。とてもお忙しいそうです」


「三のお兄さまも?」


「はい。めでたくもお受けになるご領地をご視察中とのこと。ご帰城の際には殿下に沢山のお土産をお持ちになるとのご伝言がありました」


 一番上の兄は王太子だ。

 王が忙しいなら王太子もまた城で忙しくしているものである。

 だから王女は彼のことについては問わない。


「ふーん。仕方ないわね。まぁ、いいわ。お兄さまがくれた品を見せてちょうだい」


 ここでやっと全員の侍女が頭を下げて動き出した。



 お兄さまのことですもの。

 もう動いてくれているのだわ。



 機嫌を直した王女は、しばらくは部屋で過ごすことにした。

 つまらない日々だと感じながら。



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