70.出来る侍従は今日も空気を読んでいる
「いっそ爵位も返上するか?お二人は頗る元気だからな。まだまだ働けるだろう。よしセイディ、あとは父上たちに任せて、私たちは遊んで暮らそうな」
「しゃくい?へんじょ?すこぶ……?」
「いいんだ、セイディ。それよりセイディもルドと沢山遊びたいな?」
「はいっ!るどとたくさんあそびます!」
さすがに甘えすぎですよ、主さま。
お館様がお許しくださるとも思いませんし、大奥様は何と仰るか。
「そんなものは知るか。なぁ、セイディ」
セイディさまは今日もご成長されているのですよ?
まもなく主さまのお立場をご理解されるセイディさまですのに。
幻滅されても知りませんからね?
セイディさまはお仕事をされている主さまがとてもお好きなようですのにね。
あぁ、残念なことです。きっとがっかりされるでしょう。
本当に知りませんよ?
「うるさいな。セイディのことなら私が一番分かっている!」
「そんなものしるか?うるしゃい?」
「あぁ、すまないセイディ。小蠅がいたからつい言ってしまっただけなんだ。セイディは気にしなくていい」
──姿を見せずに話に入って来るのはやめろ。セイディが混乱する。
自然に賑やかな声を受け入れてしまっていたジェラルドは、ここでやっと苦言を呈した。
すると意外にも聴こえぬはずの声はジェラルドの世界からあっさりと消滅する。
気遣える侍従は、予定を終え二人になれた貴重な時間を邪魔したいわけではないらしい。
そもそもセイディには聴こえぬ声はまだ聴こえていないし、セイディに聴こえる声に出して返事をするジェラルドの鍛錬が足りていないという話なのだが。
彼はとても出来る侍従だから。
今度は主さまが再教育ですねーという喜々とした声を、この場では呑み込んでおいた。
それから彼はひっそりと。
私たちの甘えた坊ちゃまがお戻りになられました。
私も安心しましたが、これからは揶揄い甲斐もあるというもの。
というわけで今後は制約も解除となりますので、皆そのように。
さてさて、これがめでたしめでたしというものでしょうか。
これで終わり?
いえいえ、ただの冗談ですって。
まだまだお二人の先は続いていくのですから。
絵本のようにここでめでたく終わるようではいけません。
それにまだ大事な退治が終わっておりませんからね?
というわけで、皆。
お任せいただける許可を頂きましたよ。
え?お館さまだけのお話では?
それは微々たる違いですから皆は気にしないように。
ふふふふふ。
お館さまの部隊にだけ美味しいところを奪われるわけにはまいりませんよね?
そんな腑抜けた者が私たちの中におりましたか?
意義あるものは?ないようですね。
ではそのように。
すべては主さまと私たちの可愛いセイディさまのために。
聴こえぬ声はしっかりと目的の者たちだけに届き。
幸せな番同士が知らぬところで、その報復は進んでいく。
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