69.最良な報復の形


「よーし、嘘吐きさんは父上たちに退治して貰おうな、セイディ」


 ジェラルドがそう言えば、セイディは興奮しおしゃべりが止まらなくなった。


「たいじですか!せいでぃできます!ゆうしゃでしゅっ!ゆうしゃせいでぃです!」


「おぉおぉそうだったな。では嘘吐きさんを倒した魔王を共に倒すとしよう」


「たおしましゅ!るどといっしょです!おとうしゃままおうはえぃっです!」


 くっくっと笑ったジェラルドは、「よーし甘えるぞ!」と大きな声で言った。

 さすれば当然のこと。


「よーしあまえるぞ!」


 セイディも大きな声で同じ言葉を繰り返す。

 けれどもそれでセイディの言葉は終わらなかった。


「おとうしゃま、たくさんあまえなさいいいます。おかあしゃまもいいます」


 ちゃんと誰に甘えるか、この会話から理解している。

 これは素晴らしい成長だ。



 以前のジェラルドは番を奪われた相手への報復を他人に譲る気などなかった。

 だが何故か今日は気が変わっている。


 憎しみもあるし、恨んでもいる。

 なのにそれをどうでもいいとも感じているのは何故か。


 それは先ほどセイディに伝えた言葉そのものだったのかもしれない。



 ──二人にはもっと大事なことが沢山あるから。



 他人に構う時間があるなら、ジェラルドはセイディと過ごしたいし、セイディのことだけを考えていたかった。

 失った十年を埋める──いやそれも違う。

 埋めるのでもなく上書きするのでもない。

 ただ幸せな二人の時間がこれから新しく増えていくだけ。


 そうすれば自然に二人の苦しんだ十年間は記憶の隅に押しやられていくだろう。

 二人の世界からそれが”ないない”する。


 今日のジェラルドはそれが最良な復讐の形となるよう感じていた。

 あれほど執拗に自分たちの仲を壊したかった誰かが、もっとも望んでいないことがそれだと本能的に分かっていたのだろうか。

 それとも蓋をしていた記憶に対する復讐として相応しいものとしてそれを選んだか。


 ジェラルド自身にも、この急な心の変化の理由はよく分かっていない。

 だが分かっていなくても、彼はご機嫌に違いなかった。



 甘えたジェラルドは調子に乗ってくる。

 いい心意気ですね主さまなんて賑やかな声が聞こえたせいもあった。



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