31.公爵は母親に挑む
「母上、どういうことです?」
「あらぁ、何かしら?お礼ではなくて?」
「何故セイディの服をあなたが!」
衝立の向こうからセイディの楽しそうな声が聞こえて、ジェラルドは口を噤んだ。
「これもふわふわです!」
「えぇ、ふわふわでとてもお似合いですよ、セイディさま。おかあさまに見ていただきましょうね」
飛び出してきたセイディは、スカートの広がりを手のひらで押すようにして、「おかあしゃま、みてください、これもふわふわです!」と笑う。
ジェラルドの母親もまた、「まぁ、それも素敵ね。こちらも購入しましょう」と喜んだ。
その息子はセイディの登場ににやけた顔を見せているくせに、母親には不満を募らせる。
「確か母上は、デートの際にセイディをブティックに連れていくのだと聞いていましたが」
「そうよ。それが何か?」
「呼び出すなら、わざわざ外へ連れ出さなくても!」
「いやぁね。これはデートの準備でしょう?」
デートのためと言うには、多過ぎる服を選んでいるようだが。
もうすでに何着目の試着だろう。
さすが優秀な侍女たちはセイディが飽きないようによく考え、試着を終えるたびに「セイディさま、頑張りましたね。お口をあーんしてくださいませ」と言っては、セイディの口に小さな何かを運び入れた。
セイディはもうとっても幸せそうだ。
「あまい、おいしいです!とけました!」
もうひとつと強請るセイディに、侍女は「では、お着換えをしたらもうひとつ」と言って、セイディを衝立の向こうへと誘導する。
こうして褒める間も与えられなかったジェラルドは、母親に不満をぶつけた。
「セイディの服は私が購入します」
「その購入したものが小さくなってしまったじゃない?だから私が急ぎ買うの」
「私も買おうと思っていたところなんですよ!私に聞かず勝手なことをしないでください!」
侍従に手配を依頼したら、なんともう大奥様が手配されていますと返ってきたではないか。
それでジェラルドは焦って母親とセイディがいる部屋に駆け付けた。
するとこれだ。
今日は女性としてのマナーを教える日だと聞いていたから遠慮して渋々と、それはもう本気で嫌そうな顔をして、セイディを預け、最近では珍しく仕事をしていたというのに。
これでは話が違う。
「セイディちゃんはこれからうんと綺麗になるのねぇ」
先代公爵夫人は、現公爵の怒りなど受け止めようともせず、セイディが隠れた衝立を眺めるとうっとりと目を細めてそう言った。
これには完全に同意を示すジェラルドである。
「それは綺麗になりますよ!今もとても可愛くて綺麗ですけれど、私のセイディですからね!」
ジェラルドは自信たっぷりにどこか偉そうに宣言したが、今はそういう話ではなかったと思い出した。
「母上!とにかく勝手なことは──」
セイディのきゃきゃっと笑う声が聞こえ、ジェラルドは言葉を止めた。
母親を責めたいが、どうも勢いが付かない。
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