第29話

 私が向かっているのは、市の観光協会。

 昨日、市の観光課から紹介を受け電話した旨を伝えると、観光協会の女性係長さんが応対してくれ、自己紹介した後、私の質問に答えてくれる形で、話しが進んだ。


「市に来てくれる観光客の人数とか、最近増えているのでしょうか?」


「詳しくは、これからメールで送るファイルに載ってますが、年々微増していますね。一人当たりの支出も微増している状況で、ここ数年大きく変化してないです。」


「市役所で話しを伺ったら、団塊の世代が観光を支えている状況で、今後その世代の人達が、高齢化し、観光できなくなってくると、観光による経済効果が落ち込むような話しをしてましたが?」


「そうですね。たしかに、従来型の観光は団塊の世代の方々が、多くを占めてますが、観光の形態が大きく変わってきているのが、最近の特徴ですね。

 一昔前までは、観光バスが、道の駅、観光地、温泉宿を行き来し、いかに旅行代理店と組んで、観光バスに寄ってもらうかが、観光施設の腕の見せどころでした。

 団塊の世代の方々、もちろんその世代より下の方々もですが、車の免許を持っていて、自分で車を運転するのが苦にならない人が多く、車載ナビもあって、自分で宿泊施設を予約し、旅行してしまうという、自己完結型の旅行が多くなりました。

 まだ、団体客もいらしてますが、おそらく全盛期の三分の一ほどになったと思いま。」


「大きな転換期を迎えたということですか?、それによって、何か問題も起きているのでしょうか?」


「問題というか、宿泊施設も意識を変えざるを得なかったことが特徴でした。

 観光バスのお客様が来ていた頃の、ある意味お客様全員に平等で、画一なサービスが自慢という形から、従来型の旅行代理店の企画にも応えつつ、ネット予約のお客様にも対応した、多数のユニークのプランを用意することが、必須になったということでしょうか。いわば、企画マネージメント力が試されていると思いますよ。」


「なるほど、旅行業界も団体客への対応から、徐々に個のお客様への対応に力を注ぎ、始めたのですね。」


「日本人観光客に対する対応はそうです。

 あと、これは、県内の話ではなく、東京都内、富士山の界隈、京都などの話しなのですが、貸切バスによるツアーが増えているようです。とは言っても、これは主に中国人観光客で、次いで韓国人や東南アジアの観光客もいるそうです。コースとして、羽田に到着後、都内でブランド品を買い、翌日富士山を見て温泉ホテルに宿泊、京都に行って寺院を観光、再び温泉ホテルに宿泊、ということで、かなり繁盛しているようです。」


「インバウンドの効果ということですね。国の思惑は当たりだったと、いうことでしょうか?」

 と聞くと、係長はちょっと難しい表情を見せながら、確定した情報ではないため、公にはしないことを条件に、話しをしてくれた。


「中国人や韓国人、東南アジアの団体観光客を受け入れる温泉ホテルの一部は、 外国人の団体客受け入れに特化したとう話しが聞こえてきました。

 マナーの違いから、外国人の団体観光客と、日本人を同じ宿に泊っていただくのは、クレームが出やすいのですが、思い切って外国人専用にしてしまった所もあるようです。また、外国資本が温泉ホテルの買収に動き出したとの噂も、飛び交っているんですよ。」


「インバウンドはそこまで影響を及ぼしているんですか。このお話については、私個人の中で、留めておきます。観光課の係長さんから聞きましたが、観光施設での人手不足が、深刻とのことですが、現状はどうなのでしょうか?、対策とかってあるのでしょうか?」


「今、人手不足はどの業界も直面している問題ですが、特に観光分野では、休日や年末年始が繁忙期になるため、若者が嫌がって応募者が少なく、せっかく採用になってもすぐに退職したりと、どの施設も頭を痛めてます。

 特に宿泊施設では、住み込みが必須なので、応募者ゼロというのが珍しくなく、働いている方の主力が、70代というのが当たり前になってます。」


 そういえば、私がアルバイトしる温泉旅館も、チーフは50代だけど、それ以外の人は、私からすれば、おじいちゃん、おばあちゃんという年代が多い印象だ。


「その解消方法というのは、あるのでしょうか?」


「宿泊施設では、待遇を良くしたり、ある施設では、従業員の家族を一定人数まで、格安で利用できるといった、従業員割引を提供していると聞いています。けれど、それでもなかなか、採用は難しく、採用しても定着してくれるのは難しいと、おっしゃってました。」


 やっぱり、私が住み込みでバイトしているのは、異例中の異例だと思ったけど、

 千晴さんがいる今、全く不満はなく、大学卒業して一緒に暮らすことを夢見ている状態だ。


「最後に、市や国に対し何か要望することがありますか?」


「国や市は、現在インバウンドということで、観光業務に対し多額の補助金を用意してくれ、逆にそれを使うのが、いろいろ条件があって、難儀しているというのが正直なところです。とは言うものの、補助金を活用し、観光案内人の育成や雇用もできているので、ありがたいことなのですが。」


「これは、個人的な要望というか、思いなんですが、第一次産業の農林漁業、第二次産業の製造業については、中学校や高校の授業で勉強するようですが、第三次産業のサービス業については、職種が多種多様なためか、観光業については、あまり学んでない印象なので、観光業のイメージアップのためにも、積極的に授業に取り入れてもらいたいですね。」


 これは、体験学習という形で、観光業に多くの中学生や高校生が手を上げてくれるよう、学校側も指導してほしいと思ったし、今後大学でも観光科といった学科も作っていくべきだと思う。


 私は、係長さんにお礼を言い、観光協会を後にした。

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