第27話

 卒論の前段階にあたる作業は、資料収集が中心になると考え、高齢化と人口減少の現状について、国の官庁から資料をダウンロード、自分が住んでいる市、そして、温泉旅館のある町についても、公表されているものはダウンロードし、ダウンロードできない場合は、話だけでも聞けないかと頼んでみるつもりだ。


 また、高齢化と人口減少対策に対する取り組みについて、父の兄である伯父が、 市役所にいるので、その伝手を頼りに役所を取材し、現場の声を聞きながら資料の提供を、お願いしてみようと思っている。

 同時に、千晴さんの温泉旅館など、観光業の実態と取り組みについても、取材しようと考えている。


 こんな計画を立て、夏休みが始まってすぐ、8月上旬くらいまでに終えたいと考えた。

 来年の卒論の前作業なので、あくまでも実態調査や取り組みのレポートで、考察は、来年に回す予定だ。


 千晴さんには、卒論の準備(前作業)に取り掛かるため、アルバイトに入るのを、8月のお盆前くらい、山の日の前日に入ることを希望していると伝え、ご両親へも伝えてくれるようお願いした。


 7月下旬、夏休みになったタイミングで、伯父の勤務する市役所の、総合政策課に、向かった。

 事前にアポイントメントはとってあり、カウンターで名乗ると、窓口の女性がすぐに、伯父のもとへ連れて行ってくれた。


 伯父の肩書は、総合政策課長兼総務部次長ということで、父親が言うには、50歳としては、かなりの出世コースとのこと。


 伯父はニコニコしながら、

「よく来たね、勇樹君。3年生から卒論の準備とは、あいつに似て慎重なんだな。」 あいつとは、私の父のことで、父は息子の私からみても慎重派で、それは私の性格にも、受け継がれていると思ってる。


「高齢化と人口減少ということだったね。私がいる総合政策課が、まさにそれを所管していて、分析と対策を立案するために、市役所内にプロジェクトチームを作っているんだよ。」


「お願いされた資料は、メールで送らせるとして、何か聞きたいことがあったら、 今ここで、ザックバランに質問してもいいよ。もし、今後聞きたことが出てきたら、

 メールを送ってくれれば、できるだけ応えるようにするから。」


「ありがとうございます。先日内閣府のホームページから人口減少や高齢化率のデータを、ダウンロードしましたが、この二つについて、世界で最も進んでいるのが、 日本だということで驚きました。市役所でどんなことを計画しているのか、概要を教えてもらえますか?」


「日本が、人口減少と高齢化率について世界のトップを走っていて、この分野では、 間違いなく先進国だよ。世界各国は、日本がどんな対応をするのか虎視眈々と、眺めているようだ。なぜなら、いずれ自分の国も直面する問題だからね。」


 伯父は苦笑いしながら、国際情勢に触れ、続いて国内の市区町村といった、地方自治体について話してくれた。


「自治体単位でみると、政令指定都市と言われる、おおよそ100万人を超えるような都市では、人口も増えていたり、若者が集まるため高齢化率は上がってないけど、人口がそれ以下の地方都市は、言わずもがな、町村では、もう目を覆いたくなるほど、 進展しているんだよ。」


「だから、人口減少と高齢化対策は、自治体によって温度差があるというのが、正直なところだ。うちの市だと、県内町村から転入する人が、相当数いるので人口減少は、それほどではないが、高齢化率はものすごい。退職し老後は、都市部で暮らしたいという人は、かなり多いんだよ。」


「なるほど、日本全体では、高齢化と人口減少に向かっていて、都市部では人が集まる傾向があるので目立たないけど、もともと過疎地と言われるところは、大変なんですね。」


「過疎地の自治体は、近い将来人口が減少し、ほとんどの住民が年寄りだけになり、その年寄りも亡くなってしまい、自治体自体が消滅する可能性があると言われている。うちの市では、急速な高齢化に向け、詳しくはメールに添付した資料に載っているけど、高齢化者に対応した施策を充実させるため、かなりの予算をさく予定なんだよ。」


「日本では、大都市に若者が集まるため、比較的人口減少や高齢化が目立たないけど、地方は悲惨なことになっているということですね。国はどんな対応をしているんですか?」


「国は大きな舵取りはするけど、細部は自治体まかせだよ。人口減少と高齢化で、将来GDP、国民総生産は低下し国力、経済力は低下してくるのは目に見えているので、インバウンドの外国人観光客受け入れと、技能実習生の受け入れ。その二本立てだな。」


「インバウンドの観光客誘致と技能実習生受け入れというのはね、表裏一体でね、

 要は、人口減少し高齢化すると、日本では働き手が少なくなるので、GDPが、 減少してしまう。そこで、外国人観光客にお金を落としてもらって、外貨獲得と国内観光産業の活性化。そして、人口減少で働き手が少なくなるのを補うために、外国から技能実習生を呼んで、働いてもらおうというものだよ。」


 伯父は流ちょうに語ってくれたが、その表情は苦々しいものが混ざっていたように思う。

 そこで、伯父に追加で質問してみた。

「伯父さん、その国の政策は何か問題があるんですか?、」


 伯父は、待ってましたとばかりに話し始めた。

「インバウンドの観光客誘致というけど、外国人観光客が行くのは、まずは東京や京都、それに日本国内の世界遺産で、ここのように地方都市に来るのは、しばらく後か、来ないかもしれない。

 それに、観光業に従事ている人達も人手不足だそうだ。後で、観光課に聞いてみるといいが、悲惨な状況になっているようだよ。観光業は、国を象徴する自然、構造物の見たりするほか、食やおもてなし等に対し、満足してもらってお金をいただくもので、これは技能実習生じゃ、できない。日本人がやらないとな。」


「外国人の実習生だけど、仕事が嫌になると逃げ出し不法滞在になることもあるようだし、雇う方もかなり無理な勤務をさせているらしい。政策の実施にはメリット、デメリットが、あるけど、今後の舵取りというか、対策が大変だと思う。そもそもにわか作りの観光庁には、荷が重いんじゃないか?」


 時間も1時間近くになり、そろそろ帰らせてもらうことにした。

「伯父さん、今日はお忙しいな本当にありがとうございました。また今後何かあれば、よろしくお願いします。」


「ああ、俺も勇樹君の大学の先輩だし、ちょっとは後輩にいいところ見せないとな。観光課に質問があったら、渡りつけるから、メールで連絡をくれ。」

 私は、一礼し、市役所を出た。

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