第17話

 千晴さんがお昼に食事したい店は、中華料理のお店だった。

店に到着するまで、千晴さんが言うには、

「うちの旅館は、伝統的な和食をうりにしているので、従業員の食事も毎回和食、 自宅では、両親とも洋食を食べるので、中華料理食べたくて。」


 私も、同意して、

「私も、最近中華にはまってて、大学の体育館で軽い筋トレしていること、メールに書きましたよね。そのせいか、すごくお腹が減るようになって、安くて、ボリュームがあるのが中華なので、中華料理好きですよ。」


 千晴さんが連れて行ってくれた中華料理店は、結構歴史があるお店のようで、歴史を感じさせる外観、内装は豪華で清潔だけれど、ちょっと古さも感じる。


 入店したのが、午前11時30分頃で、席は半分ほど埋まっていて、中華服を着たお姉さんが、ウーロン茶とおしぼりを持ってきてくれた。


 メニューを見ると、ランチメニューと夕食に分かれていて、ランチメニューは、 麺類と半チャーハンや餃子のセットだけだ。


 けれど、その麺類の種類は豊富で、麻婆麺、広東麺、酸辣湯麺、チャーシュー麺、 天津麺、担々麺など、セットの値段は、半チャーハンを選んでも餃子を選んでも、 杏仁豆腐と飲み物付きで千円。


 私は、酸辣湯麺と餃子、千晴さんは麻婆麺と半チャーハンを注文し、料理を待つ間、千晴さんにこのお店について、あれこれ聞いてみた。


 それによると、旅館の料理人さんに中華料理の美味しいお店を聞くと、一同、このお店を激推しだったそうで、味は確かで、料理人も誠実な人なのだそうだ。


 このお店の料理人さんとは、同じ調理師としてのつきあいもあり、旅館の料理人さん達も、非番の時は家族で行くこともあるとのこと。


 そんな話しをしているうち、注文した料理が運ばれてきた。

 私の前に、酸辣湯麺と餃子4個が置かれ、千晴さんの前に麻婆麺と半チャーハンが置かれ、さっそく食べ始める。


 酸辣湯麺のスープをレンゲですすると、甘辛く酸味があるけど、まろやかな味で、猛烈に食欲をそそるけど、まず、餃子を1個先に食べてみることにする。


 餃子のタレ用皿に、酢とお醤油を入れ、そこにラー油を入れる。

 酢を多めに入れ、醤油は少なめ、ラー油は心持ち多め入れるのが、自分のスタイルだ。


 餃子にタレを付け、口に入れ薄い餃子の皮を噛むと、餃子の中から、肉汁とキャベツのツユが、溢れてきて、本当にジューシーな餃子を実感した。


 そして、すぐさま酸辣湯麺を食べ始める。

 どんぶりの下の方から麺をすくい、表面の甘辛く、しかも酸味のある餡につけるようにして、食べるが、餡かけはやはり熱く、口内を火傷しそうになるほどだ。


 千晴さんを、ちらりと見ると、懸命に麻婆麺を食べているが、レンゲに麻婆豆腐と麺を乗せ、フーフーしている所を見ると、かなり苦戦しているようだ。


 私が、

「すごい、この酸辣湯麺と餃子旨い。餃子すごいジューシーで、酸辣湯麺は病みつきになりそうだ」

 と言うと、千晴さんは、

「良かった。私のは、麻婆豆腐が辛くて痺れるけど、ラーメンのスープがちょっと甘くて、おいしいよ。」


 その後、二人とも無言で食べ、互いに半分ほど食べた後、丼と餃子、チャーハンを交換し、食べてみることにした。

 どうも、私も千晴さんも、美味しいものには目がないタイプらしい。


 確かに、千晴さんが言うとおり、辛くて痺れる麻婆豆腐とスープの取り合わせが絶品、

「辛くて、うまい。いっぱい食べちゃうけどいいかな?」

「いいよ、食べて。私もこの甘辛酸っぱいの美味しい、餃子も食べちゃうから。」


 二人とも、黙々と食べ、再び交換し、元々注文した料理を最後まで味わい、中華服を着た、お姉さんの方を見ると、何とも微笑ましい笑顔で、

「はい、ただいま」

 と言って、こちらにテーブルに来てくれた。


 互いの料理を交換して食べてたのを見られた微笑みかなと、思っていると、

「デザートとお飲みものを、お持ちしますね」

 と言って、丼などの容器を下げてくれた。


 間もなく、杏仁豆腐とコーヒーが運ばれ、杏仁豆腐は良く冷えていて甘さ控えめ、 さっぱりしていて美味しかった。


 コーヒーを飲みながら、千晴さんに今後の予定を聞くと、

「ここを出たら、恋人同士の時間を過ごしましょう」

 と、少し顔を赤らめながら囁いた。


 ちょっと顔に汗をかきながら、恥ずかしげに囁く様は、ものすごく色っぽい。 大きな目を伏せながら、ちょっと髪に手をやりながらの、いわゆるモジモジした態度が、すごくそそる。


 私は、

「はい、お願いします」

 と、緊張気味に丁寧に応えた。


 食事の会計をした後、車に乗り込むと、千晴さんは黙って車を出したが、しばらくすると、

「この前とは違うところに行くからね」

 と、運転に集中しながらも、私に伝えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る