第9話

 そして、アルバイトを辞め実家に帰る時がやってきた。

 わざわざ女将さんと支配人をしている旦那さん、裏方のチーフさん、千晴さんがお見送りしてくれた。


 女将さんと旦那さんからは、

「年末とお正月、それからゴールデンウィーク、来年の夏休みもお願いね。」

 と冗談めかして言われ、ご両親にとお土産を渡された。


 チーフからは、

「あなたの仕事ぶり素晴らしかったわよ。また一緒に仕事したいわね。待ってるから」

 と嬉しい言葉をいただいた。


 千晴さんは、

「それじゃ、送っていくよ。」

 と言い、私はご両親とチーフに一礼し裏口から出た。


 最寄り駅は、ショッピングモールからさらに車で20分ほど行ったところにあり、 車中では、千晴さんから必ず定期的にメールすること、またアルバイトに来てほしいこと、そして、

「免許をとったら、今度は、あなたからドライブに誘ってもらいたい」

 と言われた。


 駅前の有料駐車場に車を入れると、千晴さんは、

「ほんとうにありがとう。今まで一番仕事してて楽しかった。また絶対来てね。」

 と言って手を握ってきた。


 私は一瞬、驚いたけど、千晴さんの顔を見ると涙ぐんでいる。

「はい、また絶対来ます。千晴さんの顔を見るために、絶対来ます。」

 と言い切り、千晴さんの手を握り返した。


 そして、私は、千尋さんの手を引き、助手席の私に半身を預けさせ、抱きしめ、 最初はほっぺに口づけし、そして唇にもした。


 すると、千晴さんは身体の力が抜け、私にもたれかかって、

「初めてのキスだから」

 と言い、今度は千晴さんから私に唇を合わせてきた。


 私は舌をちょっと入れてみると、ちはるさんも舌を伸ばしてきた。

 その後、抱き合いながら、

「絶対また、アルバイトに行くから。必ず行くから。」

「うん、待ってるね」

 と、ささやきあった。


 時間を見ると、もう切符を買いホームに行かないといけない頃になっていた。

 千晴さんとともに駅に向かい、ホームで見送ってもらい、自宅に帰った。


 旅館の従業員同士は、ライングループを作っていて、それで連絡をとりあうけど、

 私と千晴さんは、プライベートメールアドレスを交換していた。


 自宅に着くと、すぐ無事に着いた旨メール千晴さんに送った。

 千晴さんからは、ハートマークの着いた返信が来て、あの千晴さんがハートマークを使う、イメージがなく、ちょっと驚いてしまった。


 両親に旅館からのお土産を渡すと、女将さんからお礼の電話が、さきほどあり、 とても良く働いてくれたこと、できればまた働いてほしいことなど、感謝の言葉とともに、言われたそうだ。


 こうして私のひと夏のバイトは終わったけれど、千晴さんとは毎日のように、メール交換が続いている。


 千晴さんの勤務が不規則だから、いつも異なる時間にメールの返信が来るが、 とても明るく元気が出る内容で、こっちも一安心。


 あと、湖畔で撮った写真を送ってくれるようお願いすると、メールを返信するたび、写真が1枚から2枚添付されるようになった。


 それは大学や高校時代のものもあり、私にも送れというので、そんなに写真は持ってない、と返すと、撮って送ってくれとのこと。


 私の空いた時間は、メール添付用の写真撮りとなった。

 しかも自撮りでないと、ちょっと落胆したようなことを書いてくるので、たいへんだ。


 そして、念願のパソコンを購入し、それと同時にアルバイトで身体を動かしていたせいか、何もしてないと、身体がむずむずしてくるので、大学の体育館で軽い筋トレを日課にした。


 パソコンを購入してからは、メールはパソコンを使うようにした。

 スマホで撮った写真をパソコンに送るのがひと手間かかるけど、文章を打つのは圧倒的に、パソコンが速い、千晴さんにもパソコンの使用を勧めておいた。

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