第8話

 その後、屋台を清掃し、本格的な片付けは明日午前中だ。

 クーラーボックスに残った焼きそばの袋は、20個ほど、また従業員さんや調理員さん達に、食べてもらおうと思った。


 食材のクーラーボックスをかつぎながら、私と千晴さんは車までに歩いていると、 千晴さんが、

「花火の時、聞こえたからね」

 と、前を歩きながら言った。


 私は、突然言われたので、何のことかわからず、

「えっ?」

 と言うと、千晴さんは、

「花火より私のほうが・・・」

 と言い、最後の方は聞きとれない。


 ここで、自分が花火の時つぶやいた事を思い出し、顔に血が集まり、あたふたして、焼きそば調理の疲れもあるのか、妙に理屈っぽい弁解をしてしまった。

「それは、事実を言ったまでで、花火の美しさよりも、千晴さんの横顔の方が、 私にとっては美しかっただけです。その感想を花火と対比し言ってしまいました。 聞こえてたら、失礼しました。」

 と、一気に言った。


 千晴さんは、

「もう、○○さんたら」

 と言い、

「今日は、もう疲れたから歩けない。手を引きなさい。」

 と言って、右手を後ろにいる私に差し出した。


 私の疲れた頭は素直に、ああ、千晴さんも限界なんだなと思い、千晴さんの手を取り、握った。


 千晴さんと私は、手をつなぎ肩を寄せ合いながら、参道下の駐車場に向かったうと、千晴さんは耳元で、

「花火の時、嬉しかったよ。でも、今度はもっと、はっきりした声で言ってね」

 と、囁いた。


 私は、ドキドキして、

「はい」

 と答えるのが精一杯だった。


 車に乗り込むと、千晴さんは、

「今日は疲れたけど、とっても楽しかったよ。神社の宵宮でこんなに楽しかったのは、初めて」

 と言い、私は、はやり疲労ハイになっていたのか、

「とても疲れましたが、花火より綺麗な千晴さんを見ることができて幸せでした。」

 と、今度ははっきり言った。


 千晴さんは、

「もう、今日のことは二人だけの秘密だからね。誰にも言っちゃだめだよ。」

 と言いながら車を運転した。


 その後、9月の週末やシルバーウィークも無事乗り越えつつ、私が休日の時、

 千晴さんは、いつものようにドライブに誘ってくれ、もっぱらショッピングモールで、買い物をしたり、カフェでコーヒーを楽しんだ。


 私と千晴さんの仲が進展したなと感じたのは、時折、車の中で千晴さんが私に手を伸ばし、私がつかまえ、握りしめたことが幾度かあったこと。

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