第5話

 旅館に着き、今日のお礼を互いに言い、私は従業員休憩室兼食堂に向かい、千晴さんは、自宅に入った。


 ちなみに、自宅は旅館に併設されていて、千晴さんは、休日は自宅で過ごし、勤務日は従業員と一緒に、休憩したり食事を摂る。


 食堂に入ると、裏方のチーフから、

「どうだったの?、うまく行った?」

 と聞かれ、

「ばっちりです。コーヒーとケーキをご馳走し、プレゼントも渡せました。」

 と報告した。

「なかなかやるじゃない。千晴ちゃんも嬉しかったと思うよ。」

 と、うなずきながら言ってくれた。


 翌日、私が千晴さんと廊下ですれ違い、挨拶すると、くるっと回り、ポニーテールの後ろを私に見せると微笑んでくれた。


 私は髪留めを見て、

「ありがとうございます」

 と、他人行儀なお礼言ってしまった。


 千晴さんは、

「ぷっ」

 と吹き出し、足早に歩いていき、私はその姿を見送ったのだった。


 そんな時、チーフから私と千晴さんが呼ばれた。

 9月16日神社の祭典があり、前日の宵宮には、例年どおり地区の青年団と温泉旅館、食事ができるお店、いわゆる出店(でみせ)を出してほしいと連絡があったとのこと。

 青年団は主にビールやお酒と肴になる焼き鳥などを出すから、それ以外のものだそうだ。


 旅館の女将、支配人、料理長といった上層部で相談したところ、15日は土曜日で、

 とても旅館から調理人を出すことが無理なので、私と千晴さんが、屋台に立つことになった。


 いつもは旅館の調理人さんが屋台に立っているけど、今年は二人で調理、お客さんが誰も寄ってくれない未来を想像し、ぶるってしまった。


 お祭りまで、あと10日あまり、さてどうしようか、私は、焼きそばやスパゲッティ程度は、自分で炒めたり、茹でたりして食べるけど、そんなの調理とは言わない。

千晴さんもほぼ同様のようだ。


 どうしようかと散々考え、ここは年の功にすがるしかないと思い、

 両親に電話し相談してみたところ、母親から、

「私の姉が、焼きソバがおいしいところに住んでいるから、聞いてみるね」

 と、即座に返答。


 翌日、母親の姉である伯母から、

「とりあえず、焼きソバとソース、それにレシピを送るから、気に入ったら連絡しててね。いっぱい送るから。」

 と言われ、電話は切れた。

 母も、伯母も性格は同じだなと思った。

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