第3話

 そして、お盆と花火大会を乗り切り、風が涼しくなってきた8月末、従業員に対し、女将さんからボーナスというか、金一封が配られた。


 これは、忙しい8月を無事に終えたというご褒美で、私には諭吉さん1枚、給料は貯金してあるから、何に使おうか考えてみた。


 ふと思ったのは、私の休日には良く車を出してくれる千晴さんに、ちょっとしたプレゼント渡しつつ、食事を奢るのも有りだなと。


 美人でスタイルの良い千晴さんに、憧れはあるけど、特別な感情は持ってない。

 けれど、日頃お世話になっている人に、ちょっとしたお返しをするのは、別に迷惑にはならないだろうと思ったのだ。


 そこで、裏方女性チーフに相談してみた。

「休日には、千晴さんから車を出してもらったりして、いろいろ面倒みてもらっていので、何かお返しをしたいんですが、何がいいんでしょうか?、いろいろ経験不足なもので。」


 チーフは、あれ、意外といった顔をして、ちょっと考えると、

「あんまり高価なものじゃなく、実用的なものでいいと思うわよ。ハンカチとか、 クリームとか、髪留めとか。」

「なるほど、要はあまり大げさなものでなく実用的なものがいいんですね。あと、食事に誘っても良いものでしょうか?」

「食事というより、コーヒーとかケーキとかだったら、いいんじゃない」

「なるほど、とっても参考になりました。ありがとうございます。」

 チーフに対しお礼を言い、策を練った。


 女性用の化粧品やアクセサリーは、町のスーパーにはないだろう、あったとしても、ちゃんとしたお店で選びたい。


 いつも行く町から、さらに30分ほど車を走らせると、ショッピングモールがあり、そこには多数のテナントが入っているから、きっと目的なものがあると思う。お盆前、千晴さんに連れていってもらったことがあった。


 問題は、どうやって車で連れて行ってもらうかだけど、ここは正直に誘ってみようと思い、従業員食堂兼休憩室で千晴さんに、

「あの、今度ショッピングモールに連れていってもらえますか?」

「え、いいわよ」

「実は、いつもお世話になっているので、千晴さんにおいしいケーキとか食べてもらいたくて」

「そんな、気を使わなくてもいいよ。私がご馳走しないといけない立場なのに。」

「でも、やっぱり。」

「大学生が住み込みで働いてくれるなんて、私が小さい頃はあったけど、今ほとんどないんだから。お姉さんがご馳走してあげるよ。」

 ちょっと、予想外な回答にうつ向いてしまう私。


 ここで、横から声がかかった。

 裏方チーフが、

「千晴ちゃん、せっかく勇樹さんがご馳走してくれると、勇気をふりしぼって誘ったんだから、

 一緒に行ってきなよ。」

 千晴さんは、うなずくと、

「そうね。甘えちゃおうかしら」

 と言い、笑顔をこちらに向ける。

「はい、おまかせください若女将様。でも、連れてってください。」

 と茶目っ気を入れて言い、二人で吹き出した。


 後で聞いた話しだけど、チーフは、千晴さんの両親は旅館経営で忙しく、幼い頃から、親代わりに世話してくれた人で、千晴さんにとって、絶対頭の上がらない人とのことだった。


 2日後、私と千晴さんの休みが一緒になったけど、二人とも午後からの休みだったので、旅館で昼食をいただき、ショッピングモールに向かった。

 千晴さんの今日の服装は、水色のワンピースで清楚な印象、とってもお似合いだ。


 私の作戦は、ショッピングモールに着いたら、時間を決めそれぞれ買い物済まし、 モール内のコーヒーショップで落ち合うというもの。


 実は、モール内のお店でプレゼント用の髪留めを購入し、何食わぬ顔でコーヒーと、ケーキをごちそうし、車の中でプレゼントを渡すという作戦。


 短時間で髪留めを選べるように、モール内のお店は事前にスマホで調べておいたしし、髪留めの色やデザインもネットで検索し、当たりをつけていた。


 しかも、何も買い物をしていないと不自然に思われるから、自分用のTシャツも買うことにし、これも事前に該当ショップを調べておいたのだ。


 なんという完璧な構想、

「計画どうり」

 と、自室で座卓に肘を付け、ニヤッと笑いながら自画自賛したのは内緒。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る