第2話 幼少期編2 魔法、あるいはそういうもの
赤子とは暇なものだ。
寝て起きて、母の乳を吸い。また寝て。そしてたまにおしめを変えてもらう。
成人男性の意識が残る僕としては、
むしろ、あまりにも若い母の乳を吸うことのほうへの抵抗のほうが強いくらいだった。
見た目は
日本でも一昔前は10代で結婚し、子供を産んでいたとは聞くが、ここでも同様なのだろうか?
「*******、****」
聞きなじんだ声が耳朶をうった。これは、母の声だ。
相変わらず言葉はわからないが、愛されてはいるだろうことがわかるのはひどく安心する。
こんな精神状態だからか、あまり笑うことができなかった僕を不気味がらずにいてくれるのだからよかった。
今は少しばかり慣れて笑顔を見せるようにしている。引きつってないかどうかが、心配だった。
「グレイ、グレイ」
言葉はわからないが、自分の名前はわかった。母もメイドも僕に声をかけるたびに「グレイ」と言う。
これが僕の名前なのだろう。
名前を呼ばれた僕はにこりと微笑んだ。声を出すのは慣れなくて、いつも無言になってしまう。
「***! *******!」
微笑んだ僕を見た母はメイドに何やら興奮気味に話しかけていた。あいかわらず、言葉は一向にわかるきがしないなあ。
母がにこにことしながらなにやら人差し指をピンと上に立てた。
そして。
「******。***」
母が何事か
その瞬間だった。
指の先から光が灯る。
光だ。何もないところから光が生まれ、そして徐々に上昇していく。
そして。花火のようにはじけた。
光の残滓はキラキラと部屋を降り注ぐ。
ほどなくして、光は消えた。
母はどうだった? とばかりに僕を覗き込んできた。
対する僕はと言うと、唖然としていた。
赤子として可愛くない顔をしていただろう。
だが、それほどに衝撃だった。
何もない指の先から花火が出た。
端的に今起こった現象を問われれば、こう答えるだろう。
なんだったんだ? あれは。
知りたい。
退屈な赤子の世界に一筋の光が灯った気がした。
気づけば僕は声に出して、母にねだっていた。
無論言葉なんてわからないから、「あーあー」みたいな感じだったけど。
ほとんどしゃべらず、泣かない僕が、感情をあらわにしたことに少し驚いたようだったけど、母は何度も花火を見せてくれた。
僕は食い入るようにそれをみた。どうなってるんだろう。どうやってやってるんだろう。僕にもできるだろうか。
その日の夜はなかなか眠れなかった。赤子でも興奮すると眠れなくなるんだなと思った。
この世界は日本にあらず、もしかしたら地球でもないのかもしれない。
地球にない未知の技術、あるいは力がある。
それは僕が生まれてから3ヶ月ほどたった夜のこと。
僕がこの世界に魔法があることを知った瞬間であった。
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