第1話 幼少期編1 前世の記憶
前世の記憶がある。
もしもそんなことを言う人がいたら、僕は一笑に付していただろう。
一昔前。そう、たとえば。
「…………」
荒唐無稽だ。
あまりにも。
しかし、現実だった。
苦しみの中でつかみ取った
ただ嬉しそうに涙を浮かべた彼女が、どうやら母親らしいと気づくのはそう遅くはなかった。
天井を見つめる自分はいまだ寝返りすらうてない。
僕の近くには常にメイドのような恰好をした女性がいて、時折僕のことを覗きにきた。
「****、****」
聞きなれない言葉だった。日本語とはもちろん似つかず、英語でもないし、中国語でもない。
それが認識できるということは、やはり僕は転生したのだろうか?
この記憶が本当であるかそうでないかは別としても、ここまではっきりとした自我が赤子にあるのは異常なことではないのだろうか。
それとも、本来はこれが常識なのであろうか?
なにもわからずともわかることは。
この体はまだ生まれたばかりの赤子であるということ。
ひどく眠くなってきた。
赤子の体で考えすぎたからかな。
思考の渦にとらわれていた僕の意識は、瞬く間に睡魔に引きずられていった。
ーーー
夢を見た。
これは現代の日本にいた僕だ。
堅苦しいスーツ姿。やつれた顔。30手前の僕だろうか。
電車に揺られ、どこか遠くを見つめている。
景色が変わった。
目に映ったのは見知った顔だった。皴が目立つ老夫婦だ。それは、僕の両親だった。
両親は泣いていた。
なぜかわからないがひどく罪悪感を感じた。
思えば、大した親孝行もできずに、のうのうと惰性で生きていたような気がする。
人生のレールを歩き、ただ導かれるままに。
両親の泣き顔はひどく印象的で、心に焼き印を入れられたかのように苦しくなった。
だが、もう会えない。その確信があった。
僕がどういった経緯でこの赤子に意識を宿すことになったのか。何一つとして思い出せなかった。
ただ、目に映る情景は薄れていく。
魂から剥がれ落ちていくように、両親の姿が消えた。
声にならない叫びに割って入るように、光が視界を埋め尽くした。
最後に懐かしさを感じる女性がほほ笑んだ気がした。
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